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星空の船  作者: 和泉 利依
エピローグ
72/72

- 5 -

 それは籠の中の鳥と一緒だ。ジーンは、ずっと彼女を手元においておくために、その状態に見て見ぬ振りをしてきた。本当に莉奈のためを思うなら、ジーンはもっと早く彼女を解放するべきだったのだ。甘えていたのは自分の方だと、彼は認めざるをえなかった。

 だが、いつか彼女の本当の笑顔を取り戻したいという願いも、ジーンの本当の気持ちだった。


 今、その願いはかなえられた。

 だから、もう、いいのだ。


「彼を追って船に乗った時のティナは、私の知らない顔をしていた。あの子はもう、自分で未来を選べるんだ」

 そして、口先だけでなく、本気でその命をかけて莉奈を守ろうとしてくれた、あの少年。

「きっと、彼なら……。だから、ティナが彼を望むのなら、それもいいかな、と思ったんだ」

「寂しいくせに」

 ぽつりと漏らしたタレードに、ジーンは笑う。

「寂しいですよ。なにせずっと二人で生きてきたんです。お兄ちゃんお兄ちゃんと、いつでもそばにいてくれたのに、よりによって他の星の男なんかに……」

 ずいぶんと格好をつけて送り出したくせに、いまさらざわざわと髪を揺らす甥を見て、タレードはふんと鼻をならす。

「では、早く嫁でもとるんだな。お前ももう、いい歳なんだから」

「嫁……俺がですか?」

 予想もしなかった意見に、ジーンは潤んできていた目を瞬いた。


 政治の基盤をかためるために、わき目もふらずひたすらに働いてきた。そんなこと考えてもみなかったが、確かに自分は適齢期といわれる頃合に差し掛かっていることにジーンは思い当たる。

「そうだ。身を固めてこそ、一人前だぞ。シスコンを卒業するいい機会だ」

「いまだに独身のおじさんに言われたくありません」

「俺はいいんだ。こんな偏屈のところに嫁にくる女性なんて、ポーラム中探したってみつかりっこあるまいよ」

 自分を卑下して言う彼が、実は意外に面倒見がよくわかりづらい優しさを持っていることを、ジーンはよく知っている。だから、彼は、微笑みながら言った。

「おじさんはいい男だと、俺は思っていますよ」

「世辞を言っても、何もでないぞ」

 そう言い捨てると、タレードはわずかにジーンに向かって頭を下げる。


「仕事にお戻りください。今回のことで、すべての日常業務が滞っております」

「急な決済が必要なものは?」

「区別はしてありますが、あまり期待しませんよう。他のことに気を向けている暇はありませんぞ」

 顔をあげたタレードの顔には、晴れ晴れとした微笑みが乗っていた。だが、その顔を瞬時に元通りのしかめ面に直すと、彼はジーンに背をむけて歩き出す。途中で滂沱の涙を流すシルスを支えて、エアカーへと向かっていった。


 その広い背中を追おうとジーンが一歩踏み出した時、背後から静かに船の起動音が響いてきた。

 振り向いたジーンの目に、ゆっくりと空に飲み込まれていく丸い卵が映る。彼らが向かうのは、青い星。地球の空も青いと、彼女は言っていた。

 ティナ。

 小さくなっていく船を見送って、ジーンは心の中で愛しい妹に思いを馳せる。


 どうか、幸せに。俺はいつでもここにいる。君のいる星と同じように青い、この空の下に。


 最後の寂しさを振り切って、彼は、微笑みながら叔父の後を追った。





Fin


『星空の船』、これにて完結でーす!! やべえ、ハッピーエンドなのに、全然カップルがいちゃいちゃしてない……

 思いっきり趣味全開モードで書いてしまったせいで読む人を選んじゃうお話になっちゃいましたが、それでもお気に入りしてくれた方、毎日読みに来てくれた方、通りすがりに読んでくださる方に、とても励まされました。ありがとうございました!

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