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本当に、わからなかった。死ぬつもりはもちろんなかったけれど、あの状態で助かるかどうかの可能性は数パーセント……もしかしたら、もっと少なかったのかもしれない。
莉奈を守るためなら、一度星に帰るのが正しい選択だったのだろう。だが、当の莉奈が、それを知りつつ、拓巳と一緒に星を守る道をえらんだのだ。彼女を守るためにこの船に乗ったのに、それでは本末転倒……なのかもしれないが、その時の拓巳は、それでいいと思えた。
「ううん。言ったでしょ。拓巳が一緒だったから、怖くなかったよ? 約束したじゃない。一緒に帰ろうって。だから、きっと大丈夫だって思ってた」
くりんとした目で莉奈に言われて、拓巳は言葉を失う。そんな風にあっさりと言われると、一瞬でも死を覚悟してしまった自分に苦笑するしかない。
「莉奈は、強いな」
「そうでもないよ。一人だったらやっぱり怖かったと思う」
うつむいて莉奈は、拓巳の手にそっと自分のそれを重ねた。
「そっか。……本当に、無事でよかった。ビーコンは出ているはずだから、そのうち落ち着いたら兄ちゃん達が気付いてくれるよ」
拓巳は言いながら、無意識のうちに目の前に揺れる莉奈の髪に指を絡ませていた。莉奈が身じろぐ。
「あ、ごめん」
それに気付いて拓巳は、あわてて手を離した。
「ううん。平気。……くすぐったいだけ」
莉奈が嫌がっていないことを知って、拓巳はもう一度、髪に触れた。その感触が気持ちよくて、莉奈は拓巳に寄り添って目を閉じる。
不思議。他の人に触られるのがあんなに嫌だったのに。そういえば、久しぶりに母様の夢を見た。母様もよくこうやって髪をなでてくれたっけ。私は、その仕草がとても好きだった。
「ティナ」
拓巳が、ポーラムの名前で彼女を呼んだ。莉奈が目を開ける。
なにやら、困ったような緊張したような顔で、拓巳は莉奈を見つめていた。
「本当ならもっと落ち着いてから、と思ってたんだけど……今なら時間があると思うから、少しだけ、俺の話を聞いてくれ」
「何?」
拓巳は、目を閉じてゆっくり一度深呼吸をした。そして目を開いて莉奈の正面にまわるとまっすぐに莉奈を見つめる。
「俺と一緒に、地球に行かないか?」
「……なんで?」
「なんでって、そりゃ、あー……」
がくりと首を落とした拓巳は、覚悟を決めて顔をあげると、真面目な顔でもう一度莉奈を見つめた。
「お前が、好きだ。だから、お前とこれで離れるなんて……お前に会えなくなるなんて、嫌なんだ。これからもずっと、ずっと一緒にいたい」
どきりと莉奈の胸がなった。
ずっと、一緒にいたい。
その言葉に、莉奈の胸はまた早い鼓動を刻み始める。
「お前は、俺のこと、好きか?」
「好きよ」
打てば響くように声が返ってきて、拓巳は苦笑する。
「ジーンさんよりも?」
まさか。
そう言おうとして……莉奈は、言えない自分に、気がついた。
今まで、ジーンが一番と言えないことなんてなかった。その存在はもちろん変わることがない。けれど、兄と拓巳を比べることなんてできない。同じではないが、二人ともがそれぞれに大切な存在になっていることに、莉奈は気が付いてしまった。
今までのように即答できない自分に、彼女は動揺した。