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ほんのわずかまぶたを震わせた莉奈に、拓巳は声をかけた。
「ん……かあさ……」
目を開けた莉奈は、ぼんやりと目の前にいる少年をみつめた。まだ、夢と現実が交錯しているようだ。
「よかった。俺がわかるか?」
徐々に、莉奈の意識が覚醒してくる。
「拓巳……」
そうだ。ダークマターに船をぶつけて、すごい爆発が起こって……
「私達……助かったの……?」
「ああ……生きてる。ちゃんと、生きてるよ。脱出用のボタン、うまく作動してくれたみたいだ」
二人がいるのは、先ほどと変わらず、船のキャビンの中だ。だが、今は宇宙船ではなく、文字通りキャビンだけで、二人は宇宙に浮いていた。
今回使用した船は、キャビンがそのまま救命ポットになるタイプのものだった。船をぎりぎりまでダークマターに近づけてから、二人は救命ポッドで脱出したのだ。
だが、射出されたポットが無事で済むという保証はどこにもなかった。純粋な陽物質ではない船を乱暴にぶつければ、それだけ爆発は大きくなる。その爆発に巻き込まれて一緒に消滅する危険は二人とも承知していた。そもそも、あれだけ破損の激しい船の脱出ボタンが正常に作動するかどうかもわからなかった。だが、自分たちがやらなければ、結局誰かがやることになる。だから二人は、あのまま船をぶつけることを選んだ。
結果、ポッドが小さかったことと、まだダークマターを覆っていた障壁が残っていたことが幸いした。消滅に巻き込まれるより先に、その圧力でポッドは内衛星の軌道内まで飛ばされたのだ。
「ダークマター、どうなったのかしら」
「さて。この中からじゃうかがいしれないけど……あれだけの爆発だ。きっと、うまくいったよ」
モニターも沈黙し、キャビンの中は最低限の光源しか点灯していない。
「どこも、痛くないか?」
言われて、莉奈も自分の状態を確認する。
「うん、怪我はないみたい……拓巳は?」
「あちこちぶつけていてーよ……きっと、服の下あざだらけだ」
拓巳が身に着けているのは、一応簡易ながらも宇宙服だ。多少の衝撃は緩和する構造だが、それでも拓巳は体に痛みを感じた。よほどポットは乱雑に飛ばされたらしい
拓巳は体を起こして伸びをした。だが重力が切れていたせいで、そのまま拓巳はふよふよと回ってしまう。
「あらら……」
「拓巳」
腕を伸ばした莉奈だが、体を固定していたベルトが外されていたため、自分も一緒に浮いてしまう。気を失った莉奈の体を楽にするために、拓巳が外しておいたのだ。
その莉奈を引き寄せてもう一度シートに座らせると、拓巳はそのアームレストに腰をおろした。が、どうしてもふよふよと浮いてしまう。しかたなし、そのまま拓巳は莉奈を見下ろした。
「悪かったな。危険な賭けに付き合わせて」