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小さなモニターの確認をしていたドルスが叫んだ。
「ミサ公転軌道上に、微かですがビーコン反応があります!」
その言葉に、研究員たちが一斉に駆け寄る。
「モニター出せるか?!」
真っ先にたどり着いたゼダが、噛み付くように言った。
その報告に、ジーンは、一人、動けない。
もしかして、という期待と、もし違ったら、という不安が、一瞬にしてジーンの中に渦巻く。
「監視区域ではないので映像は出ませんが……この認識ナンバーは、ティナ様の船です!」
「レベルは?!」
「送信レベル……2! 生存してます! 生きておられます!」
今度こそ大きい歓声で満たされたオペレーションルームの中で、ジーンはその場にへたりと崩れ落ちた。
「たいした男だよ、ティナの選んだ男は」
振り向いたゼダの顔は、泣きそうにゆがんでいた。
放心しているジーンの肩に、大きな手が置かれる。
「タレード……」
同じように座りこんでわんわんと泣いているディルを見ながら、タレードは世にも珍しい笑顔を浮かべた。
「やってくれたな、あいつら。大丈夫。きっと二人とも、無事だ」
ジーンは、その言葉を素直に信じた。もう一度モニターに視線を戻す。小さな赤い明滅は、確かにそこに命があることを示していた。
☆
『おかあさま、このおほしさま、なあに?』
たどたどしい声が聞こえる。小さい女の子の声だ。
『地球という惑星よ』
ふわりと降りてきた声は、優しく女の子を包み込むような暖かさ。
『ちきゅう?』
『そう。うんと遠いところにある、星』
『わたしたちのほしと、おなじいろだね』
女の子が嬉しそうに笑う。そう。この頃はまだ、楽しければ笑ったし、悲しければ泣いていた。そうしなくなってしまったのは……できなくなってしまったのは、いつからだろう。
『おなじいろだもの。きっとこのほしのひとたちとは、なかよくなれるよね。けんかなんかしないよね』
母と呼ばれた女性の瞳が、微かに翳る。幼いながらも、その子が敏感に今の状況を感じ取っていることに気づいたのだ。
『そうね。きっと仲良くなれるわね』
それは決して、ごまかしの言葉ではない。例えば、もし最初にこの星を訪れるのがこの少女ならば、きっと間違えることはない、と、彼女は思う。
『わたし、いつかこのほしにいってみたい。いけるかな?』
『ティナが大きくなったら、いつか行けるわ』
ぼんやりと莉奈は思い出す。心の底にしまいこまれていた、幼い頃の願いを。
そうだ。私はこの星に……地球に行ってみたかった。ポーラムに似た、あの青い星が、私は大好きだった。
『おともだち、できるといいな』
伸ばされた小さな手を、そっと細い指が握った。
『そうね。ティナは、けんかしちゃだめよ?』
『だいじょうぶ! わたし、けんかなんか、しないよ!』
『あら。でもまた昨日、サジルくんとけんかしたでしょ? トマ先生が言っていたわよ』
『ちがうもん。サーくんがルキちゃんをいじめたから、やめてっていっただけだもん』
あわてて口を尖らす少女を見て、女性は柔らかく微笑んだ。
『あなたたちは、私たちのようにけんかなんてしてはだめよ。そんなことをしても、誰も幸せにはなれない。それは、とても悲しいこと。覚えておいてね。争いは何も生み出さない。ただ、破壊するだけ』
『おかあさま?』
首を傾げる少女。
『ティナには、本当に平和な世界を残してあげる。誰にも、この星の自由を奪わせたりしないわ。お父様とお母様からの贈り物よ』
『……おかあさま?』
優しく微笑む母の瞳に、少女はわけもわからず不安になる。
『だから、何があっても強く生きるのよ。そうね。いつか、この星にいくことができる日まで』
『なにをいっているの、おかあさま?』
それ以上、女性は何も言わなかった。ただ、優しく微笑むだけ。
今ならわかる。あの時もう、お母様は、お母様とお父様は、決めていたのだ。
この星を、命をかけても、守ることを。
「莉奈?」