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星空の船  作者: 和泉 利依
第六章
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- 13 -

 小さなモニターの確認をしていたドルスが叫んだ。

「ミサ公転軌道上に、微かですがビーコン反応があります!」

 その言葉に、研究員たちが一斉に駆け寄る。

「モニター出せるか?!」

 真っ先にたどり着いたゼダが、噛み付くように言った。

 その報告に、ジーンは、一人、動けない。

 もしかして、という期待と、もし違ったら、という不安が、一瞬にしてジーンの中に渦巻く。


「監視区域ではないので映像は出ませんが……この認識ナンバーは、ティナ様の船です!」

「レベルは?!」

「送信レベル……2! 生存してます! 生きておられます!」


 今度こそ大きい歓声で満たされたオペレーションルームの中で、ジーンはその場にへたりと崩れ落ちた。

「たいした男だよ、ティナの選んだ男は」

 振り向いたゼダの顔は、泣きそうにゆがんでいた。

 放心しているジーンの肩に、大きな手が置かれる。

「タレード……」

 同じように座りこんでわんわんと泣いているディルを見ながら、タレードは世にも珍しい笑顔を浮かべた。

「やってくれたな、あいつら。大丈夫。きっと二人とも、無事だ」

 ジーンは、その言葉を素直に信じた。もう一度モニターに視線を戻す。小さな赤い明滅は、確かにそこに命があることを示していた。


   ☆


『おかあさま、このおほしさま、なあに?』

 たどたどしい声が聞こえる。小さい女の子の声だ。

『地球という惑星よ』

 ふわりと降りてきた声は、優しく女の子を包み込むような暖かさ。

『ちきゅう?』

『そう。うんと遠いところにある、星』

『わたしたちのほしと、おなじいろだね』

 女の子が嬉しそうに笑う。そう。この頃はまだ、楽しければ笑ったし、悲しければ泣いていた。そうしなくなってしまったのは……できなくなってしまったのは、いつからだろう。

『おなじいろだもの。きっとこのほしのひとたちとは、なかよくなれるよね。けんかなんかしないよね』

 母と呼ばれた女性の瞳が、微かに翳る。幼いながらも、その子が敏感に今の状況を感じ取っていることに気づいたのだ。

『そうね。きっと仲良くなれるわね』

 それは決して、ごまかしの言葉ではない。例えば、もし最初にこの星を訪れるのがこの少女ならば、きっと間違えることはない、と、彼女は思う。

『わたし、いつかこのほしにいってみたい。いけるかな?』

『ティナが大きくなったら、いつか行けるわ』

 ぼんやりと莉奈は思い出す。心の底にしまいこまれていた、幼い頃の願いを。

 そうだ。私はこの星に……地球に行ってみたかった。ポーラムに似た、あの青い星が、私は大好きだった。

『おともだち、できるといいな』

 伸ばされた小さな手を、そっと細い指が握った。

『そうね。ティナは、けんかしちゃだめよ?』

『だいじょうぶ! わたし、けんかなんか、しないよ!』

『あら。でもまた昨日、サジルくんとけんかしたでしょ? トマ先生が言っていたわよ』

『ちがうもん。サーくんがルキちゃんをいじめたから、やめてっていっただけだもん』

 あわてて口を尖らす少女を見て、女性は柔らかく微笑んだ。

『あなたたちは、私たちのようにけんかなんてしてはだめよ。そんなことをしても、誰も幸せにはなれない。それは、とても悲しいこと。覚えておいてね。争いは何も生み出さない。ただ、破壊するだけ』

『おかあさま?』

 首を傾げる少女。

『ティナには、本当に平和な世界を残してあげる。誰にも、この星の自由を奪わせたりしないわ。お父様とお母様からの贈り物よ』

『……おかあさま?』

 優しく微笑む母の瞳に、少女はわけもわからず不安になる。

『だから、何があっても強く生きるのよ。そうね。いつか、この星にいくことができる日まで』

『なにをいっているの、おかあさま?』

 それ以上、女性は何も言わなかった。ただ、優しく微笑むだけ。

 今ならわかる。あの時もう、お母様は、お母様とお父様は、決めていたのだ。

 この星を、命をかけても、守ることを。



「莉奈?」

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