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星空の船  作者: 和泉 利依
第六章
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「よせよ」

 ゼダは、泣き崩れることも許されない親友を抱きしめた。

「お前は、あの戦争でたった一人になってしまった俺を引き取って、居場所をくれ、仕事をくれ、生きる望みを与えてくれた。今やっと、その恩返しができるんだ。こんな嬉しいことはないし、俺は俺の人生に満足してるよ」

 ジーンは、何も言えない。その肩を、ぽんぽんとあやすように、ゼダは叩いた。

「お前が泣くの、初めて見た。それだけでも俺は……」

 その時だった。


 強烈な光が、オペレーションルームを包んだ。

「なんだ?!」

 すべてのパネルが赤く点滅し、耳に突き刺さるけたたましいビープ音がオペレーションルーム内に響く。


「落ち着け。何が起こった?」

 タレードの叱責に、ザールが戸惑いながら叫ぶ。

「あ、あの……ダークマターが…………ダークマターが、消滅しました!」

「なぜ……」

 顔をあげたジーンは、モニターを見て、気づいた。


 まさか。


 映し出されたモニターには、おだやかな星空が広がっていた。どのモニターにも、今まで中央を占めていた黒い闇は映っていない。

 だが、みんな気づいてしまった。


 モニターに映っているのが星だけだということを。表示座標を固定したままのパネルには、ダークマターはおろか、なんの光点もしめされていないことを。


「なんてことを……」

 顔色をなくしたゼダが、呻いた。

 なぜ最後の闇が消滅したのか、誰もが口に出さなくてもわかってしまったのだ。


 あのダークマターを発見してから、すべての研究員が、このモニターからその姿のなくなる日を心待ちにしていた。なのに、今、それを心から喜べるものは、この場にはただの一人もいなかった。


「……ポーラムへの影響は」

 沈黙を破ったのは、感情のないジーンの声だった。その声を聞いて、茫然としていた研究員たちが我に返る。各々やかましくビープ音を鳴らすパネルを乱暴に叩きながら、星の状態を確認し始めた。

「エリア内、問題ありません」

「シールド、かなり損傷が激しいようです。カラにも、多少の影響があった模様……」

「よし。確認を急げ。総員、至急、各エリアに配置した装置の撤収と……」

「ちょ……待てよ!」

 ディルがチェアを降ろしてジーンの近くへ走る。


「あいつらのこと……」

「私たちの目的はなんだ」

 振り向きもせずに、感情のこもらない声でジーンは言った。

「けど……」

「まずは、ポーラムの確認だ。この星を守ることが、私たちの目的だったはずだぞ」

「じゃあティナたちはどうでもいいって……」

「ディル」

 ゼダが、その肩をひいた。振り向いたディルに、ゼダはジーンと同じように感情のこもらない静かな声で言った。

「お前は、オペレーションマスターだろう? この場を収める、義務がある」

 それはディルにもわかっている。この爆発は、さすがに国民の中にも気づいたものがあるだろう。それをどう収めるかも、すべてオペレーションマスターとしてのディルがやらなければならないことだ。だが、頭でそれをわかっていても、体がついていかない。茫然としたまま、ディルは動けない。

「でも……それじゃ……」

「ジーン様!」


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