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星空の船  作者: 和泉 利依
第六章
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- 11 -

 オペレーションルームでも、その結果は確認されていた。

 小さくはなったものの、ダークマターは依然として、モニターの中心に存在している。


「……くそっ!」

 めずらしく苛立ったように、ゼダがモニターに手を振り下ろす。

「だめか……」

「でも、あれくらい小さくなれば……」

「いや、たとえ小さくても反物質のままなら……」

 さまざまな声がルームの中を飛び交う中で、ジーンは声をはって指示を出す。

「ザール、軌道の確認をしてみろ。進路はどうなっている?」

「……進路、変わらず。ですが、速度がかなり上がっています。このままでは……約一ヶ月後には……この星に……」

 その期限の短さに、オペレーションルームにざわりと動揺が走る。


 今回のオペレーションに全力をかけてきたのはもちろんだが、万が一のための代替案ももちろん用意していた。

 だが、残り一ヶ月。想定外のその短さでは、どの案も間に合わない。

「切迫、だな」

 言い濁した研究員の言葉を引き取って、ジーンは苦々しく言った。


 一番確実で簡単なのは、あの反物質に直接相対する質量をぶつけることだ。

 しかしそのためには、今度こそ犠牲になる人間が必要になる。


「ジーン」

 呼ばれて、ジーンは我に返る。彼に声をかけたのは、いつもの飄々とした顔に戻ったゼダだった。

「一つ、宇宙船をもらっていいか?」

 その言葉の意味を読み取って、ジーンは表情をこわばらせた。

「ゼダ……」

「でかいやつがいいなあ。ちょうどティナ達がのってったやつ、あれくらいの」

「……だめだ。それを許すわけにはいかない」


 莉奈が地球へ行っている間も、誰があの船に乗るかで二人はさんざんの議論を繰り返してきた。その間一度も、ジーンがゼダに是と答えたことはない。

「守るんだろ? この星を」

 穏やかになったゼダの言葉に、ジーンはぎり、と奥歯を噛んだ。

「……いや、まて、もう一度計算をしてみよう。陽子量の抽出を……」

「間に合わないことは、わかっているんだろ」

 ジーンは、いらいらと頭をかきむしる。

「くそっ……やはり、連邦に頼らないとダメか……」

 それだけは、避けたかった。だが、こうなってはジーン達にできることはもはや残されていない。

 あとは、今回の事態を静観している連邦に打診するしかない。


 何も手を打たずに、彼らがこの様子を見ているだけのはずがない。きっと、あれほどに縮小した反物質なら、消すことも可能な案を用意していることだろう。

 だが。それは……

「ジーン」

 その考えに傾きかけているジーンに、ゼダは決して言ってはいけないとわかっている言葉を放った。


「お前の両親は、何のために命をかけた? こんなことで、その死を無駄にする気か?」

「!」

 それが、ジーンにとっては最も辛辣な言葉であることを、ゼダは知っていた。だが、彼に決心させるには、それしかないことも、ゼダにはわかっていた。

 長い長い沈黙が、二人の間に落ちる。


 誰も、口を開くことも、動くこともできなかった。

 そして、悩む時間がないことも、ジーンは知っていた。

 その体が細かく震えだすのを、ゼダは黙って見ていた。

 片手で顔を覆ったジーンの指の間から、抑えきれない嗚咽こぼれる。静かなルームに響いたそれは、次第にスタッフの中にも広がっていった。


『この星を、頼む』

 あの日、父王はジーンにそう言い残していった。連邦の正規軍が到着するまでの、その間に失われるであろう命を救うために。ジーンが王に足る人物であったことが、皮肉にも父王に決意をさせる決め手となってしまった。あの後姿を、ジーンは忘れない。

 だから、もうジーンに、この星の王に残されたのは、たった一言しかなかった。

「ゼダ…………………………すまない…………」


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