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「今度は、しっかりつかまっていてよ」
言いながら、莉奈は充填完了のグリーンのランプを確認する。
次で、最後だ。これで消せなければ……
不安が莉奈の頭をよぎる。その肩に、ぽんと暖かい手が置かれた。振り向いた莉奈に、拓巳は笑んでみせる。同じように笑みを返して、莉奈は正面を向いた。
大丈夫。
「……発射!!」
もう一度放たれた光は、確実にダークマターの中心を差した。再びぶわりとアメーバのように闇が広がる。先ほどよりも船は揺れたが、拓巳は座席を握って必死にその衝撃をやり過ごした。
すべてのパネルが赤く明滅をしていた。キャビンの中は真っ赤だった。振動が落ち着いたところで、拓巳は顔をあげる。
「やったか?!」
目の前のスクリーンには、先ほどまでは見えなかった星空が広がっていた。
「あ……」
だが。
ほんの小さな闇が、まだそこにはあった。怒り狂うような激しい収縮を繰り返しながら。
二人の間に、短い沈黙が落ちる。
「……どう、思う?」
莉奈が、小さく聞いた。
発見された時のことを考えたら、比べ物にならないくらい小さくなっている。この船より少し大きいくらいだ。
だが、星を……ポーラムを壊滅させるには十分な大きさだ。
もしかしたら、今ので軌道が変わったかもしれない。もしくは、ポーラムにたどり着くまでに自然消滅するかもしれない。
そんな考えが、二人の頭をよぎった。
でも、もし。もしも、万が一。
その可能性も、同じように思いついてしまう。
「莉奈……」
「拓巳」
ためらいを含んだ拓巳の声を遮って、莉奈は背後を振り返る。
とびきりの笑顔で。
「最後まで、一緒よ」
「でも……」
「お願い」
ゆずらないその決意の顔を、何度も何度も見てきた。そうなったら、莉奈は絶対に引かないことを拓巳は知っている。
迷っている時間はなかった。
一瞬だけ、拓巳の顔が辛そうにゆがむ。
「ごめんな」
ふるふると、莉奈が首を振った。拓巳は、シートごとその背中から莉奈を抱きしめて、耳元でささやく。
「お前の命……俺に、預けてくれるか?」
「うん」
ためらいもなく頷いた莉奈をもう一度強く抱きしめてから、拓巳はゆっくりとその体を離した。そして、腕を莉奈の向こうへとのばして、赤く明滅するパネルをほんの少しだけ操作する。
陽粒子は、もう使い切ってしまった。
だが……二人には、まだ最後の手段が残っていた。
すでに手動ですらコントロールもあやしいが、まっすぐ進むくらいなら言うことを聞いてくれそうだ。
近づいてくる小さな闇を前に、そのボタンへと拓巳は手を伸ばす。莉奈は、そこに自分の手を重ねた。
「私ね」
まっすぐ正面に視線を向けながら、莉奈がおだやかに言った。
「拓巳と一緒なら、怖くないよ」
「そっか」
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