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星空の船  作者: 和泉 利依
第六章
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「今度は、しっかりつかまっていてよ」

 言いながら、莉奈は充填完了のグリーンのランプを確認する。

 次で、最後だ。これで消せなければ……

 不安が莉奈の頭をよぎる。その肩に、ぽんと暖かい手が置かれた。振り向いた莉奈に、拓巳は笑んでみせる。同じように笑みを返して、莉奈は正面を向いた。

 大丈夫。

「……発射!!」


 もう一度放たれた光は、確実にダークマターの中心を差した。再びぶわりとアメーバのように闇が広がる。先ほどよりも船は揺れたが、拓巳は座席を握って必死にその衝撃をやり過ごした。

 すべてのパネルが赤く明滅をしていた。キャビンの中は真っ赤だった。振動が落ち着いたところで、拓巳は顔をあげる。

「やったか?!」

 目の前のスクリーンには、先ほどまでは見えなかった星空が広がっていた。

「あ……」

 だが。

 ほんの小さな闇が、まだそこにはあった。怒り狂うような激しい収縮を繰り返しながら。


 二人の間に、短い沈黙が落ちる。

「……どう、思う?」

 莉奈が、小さく聞いた。

 発見された時のことを考えたら、比べ物にならないくらい小さくなっている。この船より少し大きいくらいだ。

 だが、星を……ポーラムを壊滅させるには十分な大きさだ。

 もしかしたら、今ので軌道が変わったかもしれない。もしくは、ポーラムにたどり着くまでに自然消滅するかもしれない。

 そんな考えが、二人の頭をよぎった。

 でも、もし。もしも、万が一。

 その可能性も、同じように思いついてしまう。


「莉奈……」

「拓巳」

 ためらいを含んだ拓巳の声を遮って、莉奈は背後を振り返る。

 とびきりの笑顔で。


「最後まで、一緒よ」

「でも……」

「お願い」

 ゆずらないその決意の顔を、何度も何度も見てきた。そうなったら、莉奈は絶対に引かないことを拓巳は知っている。


 迷っている時間はなかった。

 一瞬だけ、拓巳の顔が辛そうにゆがむ。

「ごめんな」

 ふるふると、莉奈が首を振った。拓巳は、シートごとその背中から莉奈を抱きしめて、耳元でささやく。


「お前の命……俺に、預けてくれるか?」

「うん」

 ためらいもなく頷いた莉奈をもう一度強く抱きしめてから、拓巳はゆっくりとその体を離した。そして、腕を莉奈の向こうへとのばして、赤く明滅するパネルをほんの少しだけ操作する。


 陽粒子は、もう使い切ってしまった。

 だが……二人には、まだ最後の手段が残っていた。

 すでに手動ですらコントロールもあやしいが、まっすぐ進むくらいなら言うことを聞いてくれそうだ。


 近づいてくる小さな闇を前に、そのボタンへと拓巳は手を伸ばす。莉奈は、そこに自分の手を重ねた。

「私ね」

 まっすぐ正面に視線を向けながら、莉奈がおだやかに言った。

「拓巳と一緒なら、怖くないよ」

「そっか」


  ☆


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