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星空の船  作者: 和泉 利依
第六章
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「それ聞いて、ああ、見た目よりはずっといい人だな、と」

 照れたように話す拓巳を、莉奈は意外な思いで見返す。

 あの、タレードが?


 ポーラムに関係のない人間だから、拓巳をここへ送り込んだと莉奈は思っていた。計算高い男だから、その可能性も皆無とは言えない。でも、だからと言って拓巳がただ死んでいいとは思ってはいないようだ。

 麻酔から覚めて怒髪天を衝いていた時は、次に会った瞬間には絶対飛び蹴りしてやる、とお嬢さまにあるまじき決意をしていた莉奈だった。だが拓巳の話を聞いて、蹴飛ばすくらいにしておこうと思いなおした。


「見えたぞ」

 緊張した拓巳の声に、莉奈は振り向く。正面にあるモニターは、真っ黒だった。それこそが、彼らの目的。

「シールドは?」

 拓巳の言葉に、莉奈はパネルに目を走らせる。

「シールド確認。よかった、誘導波は正常だわ。……3、2、1、接続」

「よし、準備OK。あとは月を待つだけだ」

 モニターには、大きめの影が2つ、静かに近づきつつあった。もうすぐ、その影がひとつになる。二人の視線は、なんとはなしに正面のダークマターに向けられた。


 暗闇にちりばめられている星が、その部分だけ切り取られたように何も見えない。しばらく言葉もなく二人はそれを見つめていた。闇の周りの星達が、規則的に消えたり現れたりしている。

 それは、心臓の鼓動と良く似ていると拓巳は思いつく。

「なあ……あれ、もしかして生きているのか?」

「ええ?!」

 叫んだ莉奈も、その言葉が一番当てはまるようなダークマターの動きに、しばし見入る。その規則的な動きも研究の途中で様々な解析がなされてきたが、そんな解釈を聞いたのは初めてだ。


「莉奈さ、前に霧状の宇宙人もいるって言ってたじゃん?」

「いるわ。かなり原始的な生命だけど……あれも、そうってこと?」

「可能性がないわけじゃない」

「だって、反物質よ? 物質に当たって消滅するだけの生き物って……何のために存在するの?」


 星のかけらに触れる度に、自爆しながら少しずつ消えていく反物質のダークマター。宇宙を漂い、自分の体を費えさせていくだけの存在は、二人の考える生命の存在意義とはあまりにもかけ離れすぎていた。

「さあな。まだまだ宇宙は神秘に溢れています……なんて、陳腐な言葉で説明つくことじゃないけれど……あれはあれで、なにか意味のあることじゃないの?」

「想像つかない……」

「そもそも、あれがどうやって発生したのかからしてかなりの謎だしな……っと、時間だ」

 モニターのランプがレッドからイエローに変わっている。2つの影が、今まさに一つになろうとしている。ここからが本番だ。

 拓巳は体を固定していたベルトをはずすと、立ち上がって振り返った。

「莉奈、こっちこいよ」

「え? 私はここでもいいよ?」

「いいから」

 そう言って拓巳は、今まで自分が座っていたシートを莉奈に示す。


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