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「お前の無茶は、俺たちの想像の上をいくよ。まったく」
すべての船を壊して、地球まで飛んできただけのことはある。
抱きしめていた手を片方ほどいて、拓巳はその髪を指差した。
「これ、もうずっとこのままなのか?」
「伸びるわよ。もとの長さになるには時間かかるけど……」
切ってしまった髪は、今までのように自由に伸ばしたり縮めたりすることはできない。もともと、何メートルという長さを縮めて生活に支障のない長さにしていたのだ。だから今は、これが本当に精一杯である。
「ごめんな。お前に、こんなことさせるつもりじゃなかった」
拓巳の声が、掠れた。
「どうしても、お前をこの船に乗せたくなかった。研究所の人たちを信用してないわけじゃなかったけど……万が一。もし、万が一にも、お前が帰ってこなかったら、って考えたら、いてもたってもいられなかった。これで、お前のこと守れると思ったんだ」
き、と、まだ涙目の莉奈がにらんだ。
「だからって、こんなだますようなことして。残される人の気持ちを考えろって言ったのは、拓巳じゃない」
拓巳は、その言葉に苦笑する。
莉奈を説得する時に言った言葉は、自分を奮い立たせるための言葉でもあった。拓巳だって、怖くないわけじゃない。でも、莉奈を守るためにできることを考えたら、それしか思いつかなかった。自分にそれだけの知識がないのはわかっていた。だから認められるまで必死に努力して、根気よく説得を続けて、船に乗れるようにみんなに力を貸してもらった。
「そうだな。でも、守りたかったんだ。お前の大事な国と、大切な人たちと……お前のいるこの星ごと、すべてを」
「私だって、拓巳を守りたいの」
「うん。よくわかったよ。だから、一緒に行こう」
その言葉でやっと笑みらしきものを浮かべた莉奈に、拓巳は少し背をかがめる。
「拓巳?」
不思議そうに小首をかしげたその顔から、拓巳はかすめるようにその唇を奪った。
「約束。二人で、帰ろう」
きょとんとした莉奈の顔が、ぼっと赤くなった。
「な、なななななな、な」
拓巳は、笑いながら腕を解く。
「よし。そうと決まったらのんびりしていられないぞ」
どさりとシートに座り込むと、拓巳はパネルをいくつも引っ張り出して微調整の確認を始めた。その背中を見ながら、莉奈は両手を熱くなった頬にあてる。
「何よ、今の……」
「もっかい?」
振り向かないまま、笑いを含んだ声で拓巳が言った。
「違う!」
「ま、あとは帰ったらゆっくりと、な」
あー、でも兄ちゃんにどつかれるかなあ、と拓巳がぶつぶつ言うのを聞きながら、莉奈は不思議な安堵感に包まれていた。
相変わらず胸は苦しい。だが、今莉奈の胸を打つその動悸は、先ほどまでの異様な焦燥感とは全く違って、ひどく心地よいものだった。どうしようもなく幸せな気がして、また涙が出そうになる。
拓巳が、追いかけてきた自分を受け入れてくれたから。
それは、とても不思議な感じだった。
私は、この人の隣にいてもいいんだ。
『きっといつか、ティナ様にもわかるときがきます』
シルスの言葉が胸によみがえる。
「拓巳……」
「ん?」
振り返った拓巳の目は、いつも莉奈を安心させてくれる優しい色。
「……ううん。なんでもない」
ぐいっと最後の涙を拭くと、拓巳を手伝うために莉奈は顔をあげた。
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