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星空の船  作者: 和泉 利依
第六章
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- 3 -

「様子はどうだ?」

「先ほどまでは中で暴れていらっしゃいましたが、ディル様とお話されてからはおとなしくされております」

「ディルが? 中にいるのか?」

「いえ、もうお戻りになられました」

 莉奈の部屋の前に立っていた見張り役の研究員に声をかけて、ジーンはそっと、莉奈の部屋のドアを開けた。


 あとほんの少し、船が出てしまえばこの部屋から出してやれる。怒られはするだろうが、それも彼女が生きてここにいればこそ、できることだ。

 薄暗い部屋の中で、莉奈はベッドの中にいた。頭から毛布をかぶって、ふて寝しているようだった。そこからはみ出た美しい長い髪が、ベッド一面に広がっている。


 この星の人間は、すべて青い髪を持っている。青の中にもいろんな色があるが、わずかに紫がかった瑠璃色の莉奈の髪は、とりわけ美しいと評判だった。母親譲りのそれを、ジーンはこよなく愛していた。

 ジーンは声をかけようとしたが、結局言葉が見つからずに、そのままあけた時と同じようにそっとドアを閉めた。



「射出!」

 船が動き出しても、予想していたような衝撃がないことに拓巳は驚いた。ある程度の加重は覚悟していたが、拍子抜けするくらい静かに、彼の船は空へと浮かび上がった。


「カラの公転部までは自動で誘導されるが、そこからはすべて手動に切り替えてもらうことになる。サポートするから、パネルの数値だけ気をつけていてくれ」

「わかりました。近づいて、照射のプログラムは影響うけませんか?」

「大丈夫なようには設定してある。だが、もし誤差が確認された場合には、シミュレーション通りに調整をしてくれ」

「はい。がんばります」

 今、船を動かしているのは、数年に渡って収集してきたダークマターのデータだ。自動で宇宙船を近づけた時の数値は把握してるが、手動で近づくのは今回が初めてだ。拓巳は緊張して背筋をのばした。


「……あの、お兄さん」

「なんだ」

 今回は、お兄さんと呼ばれてもジーンは怒らなかった。それが、いかに自分の立場が危ういものか逆に思い知らされて、拓巳は苦笑する。

「莉奈は?」

「部屋にこもっている。……やっぱり、怒らせてしまったよ」

「……そうですか」

 拓巳は小さく息を吐いた。知らず知らずのうちに緊張していたことに気がついて、吐いた息を今度は大きく吸いこんで深呼吸に変える。

「だましてごめん、って伝えておいてください」

 だましたと言われれば、自分も含め、関係者全員だ。ジーンは、それには答えず苦笑しただけだった。


 本当のことを言えば、最後までジーンは迷っていた。取引を持ちかけられたとはいえ、彼を行かせていいのか。

 もちろん、最初、拓巳からその話を聞いたときには、鼻で笑い飛ばした。だが度重なる拓巳の懇請に、とりあえず実力をみてから、と、いくつかの課題を出したのだ。断る理由をつけるための課題だったのだが、驚いたことに拓巳はそれらを余裕でクリアした。聞けば、ジーンに話を持ってくる前に、タレードやゼダに基礎知識を徹底的に叩き込んでもらったのだという。

 というより、この時点で研究所の全員が、宇宙船への拓巳の搭乗を受け入れていた。やはり、拓巳の根気強い説得があったらしい。裏を固めてからジーンに打診した拓巳に、正直、ジーンは舌をまいた。もともとの素質もあったのだろうが、知識の吸収のその早さは、未開の星の子供と拓巳を侮っていたジーンの考えを、完全に覆した。


 この役をかって出てくれたものは他にもいた。妹も、親友も、この件を知るほぼみんなが。その中で、取引という理由がある分だけ、拓巳を選ぶことは楽だった。

 楽だと、ジーンは自分を納得させてしまったのだ。


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