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水平線まで見渡せる一面の水は、深く透明な群青色をしている。
ポーラムの経済を支えているのは、この海の下に眠る青い色をした鉱物、セジアルだ。豊かな水の下ではぐくまれる青い結晶は、宇宙船や機械類を作る時の材料として欠かせないレアメタルだ。他の惑星でも取れないことはないが、ポーラムの結晶は特に質が良く、高価格で取引される。
ちなみに、ポーラムで生産されるものに青色のものが多いのは、セジアルの精製の際に出る結晶のくずなどの副産物が、色付けの原料としても使われるためだ。
「あれが、この星の月」
莉奈が指す方向に目を向けた拓巳は、地球で見る月より少し大きい月と、さらに一回り大きい月が二つ、空にかかっているのを見る。
「近いところから、カラ、ミサ、ジュー。今空にあるのは、カラとミサの二つ。もうすぐ一番大きい月、ジューがあがってくるわ」
「あのうち二つが並ぶんだって?」
「そうよ。ジューとカラ。3つ並べばいいんだけど、さすがにそれは無理だし。地球では食って呼んでいたっけ? ここでは、月が月を食べるのね」
拓巳は白い浜辺に座り込む。砂浜に集まるのは、地中から沸いてくる冷水に押し上げられた深海の細かい砂だ。地球の浜辺より砂はもっと細かく、鉱物を多く含むために重い。
莉奈は拓巳の隣に立って、そうして、しばらく二人で海を見ていた。
「ね、拓巳」
「ん?」
「もう一度、兄様に頼んでみようか? 拓巳の記憶のこと」
拓巳の記憶処理は、まだ行われてはいない。
今は拓巳の記憶処理に時間と余力をさいている暇がない、と莉奈が主張して、彼の処理については計画が完遂するまでは棚上げとなっている。いずれ消される記憶だからと、拓巳があちこち出入りしていても大目に見られているのだ。
「いいよ、別に。そういう決まりなんだろ?」
「そうだけど……」
「だったらしょうがないよ。決まりは、守るためにあるんだから。それを、まずお前が破ったらだめだろう」
当の拓巳にそう言われては、莉奈も何も言えない。今までも、拓巳が自分から記憶処理のことに触れたことはなかった。まるで忘れても平気といったその態度に、莉奈の心中は穏やかではない。
「拓巳は、それでいいの?」
飄々とした態度の拓巳に、莉奈はたたみかける。
「私のこと、忘れちゃうのよ?」
「莉奈は、嫌なの?」
「嫌よ。……みちるちゃんたちへの伝言を頼もうと思っていたのに」
莉奈自身、口にしてからとってつけたような理由だなと思った。
と、拓巳は、莉奈の口にした友人の名で思い出したことがあった。
「ごめん、莉奈」
「え?」
「ここへ来る船の中で、俺、何も考えないできついこと言った。お前が高瀬達のこと大事に思ってないわけなかったのにな。お前……ただ、知らなかっただけだったんだな。友達とどうやって付き合ったらいいのかってこと」
すまなそうな顔の拓巳に、莉奈はふるふると首を振った。
「拓巳に言われて、ちゃんと考えてみたの。もし逆だったら……って考えたら、私、とても悲しかった。みちるちゃん達が、私が彼女たちを好きなように私のこと好きでいてくれたとしたら、私のしたことは、確かにしてはいけないことだったのよ。拓巳の言ったことは間違ってないわ。……私、嫌われちゃっただろうな」
莉奈は、一掴み手元の砂をとって、さらさらと手から零す。