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星空の船  作者: 和泉 利依
第五章
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- 6 -

「私は」

 独り言のように、ぼそりとジーンが呟く。

「後悔はしない。それが、私の役目だからな」

 拓巳は、肯定するようにただ笑っただけだった。

「君は?」

「え?」

「後悔、しないか?」

 首をひねりながら、拓巳は考えた。

「さあ、どうでしょうねえ……」

 意外な言葉に、ジーンは思わず拓巳に視線を向けた。彼はもっと情熱的に否と答えるものだと、無意識に思っていたのだ。


「しない、ってきっぱり言い切れればカッコいいんでしょうけどね。あいにくと、そこまで人間出来てないんで。ジーンさんこそ、人間出来てないですよ。いいとこだったんだから、もうちょっと待ってくれたらよかったのに」

「人の大事な妹に何しようとしたコラ」

 シスコン魂に瞬時に火のついたジーンが拓巳の首元を押さえ込んだところで、莉奈が彼の前にコーヒーのカップを置いた。

「何してんのよ、兄様」

「いやなに拓巳君と今後の方針についていろいろと」

 名残惜しげにジーンは手を離すと、莉奈の入れたコーヒーにその手を伸ばした。拓巳は、はははと力なく笑う。

「仲良くなってよかったとは思っていたけれど、男同士で抱き合うのはどうかと思うのよ」

 本気とも冗談ともつかない口調で莉奈が言う。

 拓巳とジーンは、思わずお互いの顔を見合わせると、あわてて離れた。



「……明日は早く出るから、もう寝るよ」

 コーヒーを飲み終わったジーンは、カップを置くと立ち上がった。

「何かあるの?」

 トレーに三人分のカップをのせながら莉奈が聞いた。

「ああ、今日のプログラミングで新しいバグが見つかってね。修正に手間取りそうなんだ」

 げんなりとした顔で言ったジーンは、まだのんびりとソファに座っていた拓巳の手を引っ張って立たせる。

「はい?」

「君も慣れない生活で疲れているだろう。早く休むといい」

 なんだかんだ言っても自分の体を気遣ってくれる、と感動した拓巳は、ジーンの目を見て、その思い違いに気付く。

 ティナとこんな夜遅くに二人きりなど許さない。

 血走った目が、ジーンの心のうちを如実に物語っていた。


「へえへえ。俺も寝ますよ」

「おやすみ、ティナ」

「おやすみなさい、兄様。……あ、拓巳」

 一見仲良しのようにジーンと手を取り合って部屋を出て行こうとした拓巳を、莉奈が呼び止めた。

「ん?」

 振り向いた拓巳に、ためらいながら莉奈が口を開く。

「あの……明日、一緒に出かけない?」

 男二人の動きがとまった。

「午後から研究所行かなきゃいけないからお昼までだけど……ね、拓巳は時間、ある?」

 拓巳は、激しく吹きつける嫌なオーラを背後から感じながらも、

「いいよ。時間は、大丈夫」

と笑顔で答えることができた。

「よかった」

 莉奈がほっとした顔になる。

「おやすみなさい。また明日」

 いそいそと空のカップののったトレーを持って、莉奈はキッチンの方へと消えていった。

 残された拓巳は、ゆっくりとジーンを振り返る。と、ものすごく複雑な顔をしたジーンがいた。

「ジーンさん……」

 ふいと顔をそらしたジーンは、拓巳をおいてどすどすと部屋へ向かう。  が、リビングを出る前に振り向いて、釘をさすことは忘れなかった。

「指一本だって触れることは許さないっ」

 びしりと言われて、拓巳は肩をすくめた。


  ☆


「これが、ポーラムの海、か」

 浜辺におりた拓巳は、水平線まで見渡せる広い海にむかって深呼吸をした。塩分を含まないポーラムの潮風は、さらりとして気持ちがいい。

「きれいなところなんだな」

「気に入ってくれた?」

 風に吹かれている服の裾を気にしながら、莉奈は拓巳に近づく。

「うん。地球の海よりずっときれいだ」

 地球の海の中にもおそらく綺麗な場所はあるのだろうが、拓巳が実際見たことがあるのは、汚れて濁った都会の海だけだ。


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