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「そうだわ。兄様とゼダも、改めて考えたら、友達、なのよね。あんまり普通に二人でいるから意識したことなかったけど……あの二人でも、こんな風に悩んだことがあったのかしら」
「たとえどんな関係でも、悩まない関係なんてないと思いますよ。友人でも家族でも……恋人同士でも。ティナ様、どなたか、お好きな方はいらっしゃらないんですか?」
シルスのストレートな質問にも、莉奈は間髪いれずに答えた。
「たくさんいるわ。一番はもちろん兄様だけど、シルスのことも大好きよ」
ポーラムに帰ってきてからの莉奈は、そのジーンよりも拓巳を気にかけ、彼と一緒にいる時間を気にしていることに自分で気づいていなかった。今こうして愚痴めいた言葉を口にするのも、おそらく拓巳がいないさみしさからだろうとシルスは想像する。
気づいていないなら、そのままでもいいかもしれない。いずれ、別れなければならない人だ。いつか別の人を好きになった時に、初めての恋に気づけばいい。
莉奈が傷つくであろう機会を何もいたずらに増やすことはないとシルスは結論付けて、それを自分の胸だけにしまっておくことにした。
「どうして、急にそんなことを聞くの?」
わけがわからないという顔の莉奈に、シルスは静かに微笑んだ。
「ティナ様は、昔から甘えることが苦手でしたものね」
「え?」
「好きになった相手の特別になりたいと願うことは、決して悪いことではないのですよ。むしろ、人として当然の感情なんだと思います」
「それは……自惚れって思われない? 迷惑ではないの?」
「もちろん、相手にもよりますし、その気持ちを押し付けるだけなら、ただの迷惑になってしまいますけれどね。ティナ様のような方は、少し図々しいかな、と思うくらいの行動をとってちょうどいいのかもしれません。でもきっと、ティナ様が本当に好きになった相手なら、ちゃんとティナ様を受け止めてくれます」
涙ぐんだシルスの髪がするするとのびて、いたわるように莉奈を包み込む。食事中にするには、あまり行儀のいい行動ではないが、シルスは、自分の気持ちにすら疎い莉奈が愛しかった。
「きっといつか、ティナ様にもわかるときがきますよ」
なんとなくわかったような気がして、莉奈はこくりと頷いた。けれど、寂しいような気持ちは残ったままだった。
☆
「いよいよ来週だってな」
その日も遅くに帰ってきた拓巳は、食事の終わった後、リビングでくつろぎながら莉奈とのんびり話をしていた。
「ええ。あれがポーラムにたどり着くまでには、あと一年もないわ。間に合ってよかった」
莉奈は、拓巳にコーヒーのカップを渡して、自分も拓巳のはすむかいのソファに座る。
結局、莉奈が例の船に乗るということで全員が納得してくれた。ジーンは本当にしぶしぶという感じではあったが、最終的に莉奈が脅すような格好で認めさせたのだ。
「本当に、行く気か?」
「何度も同じことを言わせないで」
静かに、莉奈は拓巳を見た。
「もう決めたの。大丈夫よ、みんなを信じているし」
確かに、理論上は完璧なはずだった。だが、あくまでそれは計算ではじき出された理論値である。実際のダークマター消滅のエネルギーと誤差がないとは言い切れない。集められるだけの情報はすべて集めてあるが、それでも百パーセントの無事を保障できるわけではない。
だからこそ莉奈は、国家の有能なブレインとなる研究者達を行かせるわけにはいかないと考えていた。