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星空の船  作者: 和泉 利依
第五章
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「計画の実行は、一週間後だ。詳細は頭に入ってるな?」

「なんだっけ? 月が重なるんだっけ?」

「そうだ」

 拓巳は、あいかわらずパネルに埋もれていてそれらから目を離さないディルを仰ぎ見た。今日はずいぶんと、高いところにいる。


 ダークマターの消滅に伴う爆発の被害を避けるため、そのまわりにはエネルギーを吸収する特殊なシールドが張られることになっている。それだけではなく、その被害を最小限に食い止めるために、月を盾の代わりに使う計画なのだ。ポーラムには、3つの衛星がある。そのうちの2つの大きな衛星がダークマターとポーラムの間に並ぶ刻を待って、計画は行われることになっている。


「最新版の計画書だ。読んどけ」

 ディルが無造作にポータブルパネルを拓巳に放る。チェアに座ったままそれを受け止めて、拓巳は眉をしかめた。

「だから、俺、読めないって」

「読めるようにしろ。まだ一週間あるだろ」

 げんなりした拓巳は、それでもパネルに目を通し始める。その様子をみながら、ディルが自分のチェアを拓巳に近づけた。

 別室での実験に研究員がかりだされているため、オペレーションルームには、今は二人しかいない。

「ティナは?」

「さっきまでジーンさんのとこにいたみたいだけど、もう帰ったんじゃないかな」

 言いながら拓巳は、パネルを夢中になって読んでいく。


 拓巳がポーラムに来てから、一ヶ月が過ぎていた。全部が読めるわけではないが、ディルが教えてくれたおかげで何を書いてあるかくらいは把握できるようになっていた。その理解力は、教えていたディルも一目置くほどだ。

 ここしばらく、拓巳は莉奈と離れて一人で、こうしていることが多い。文句を言いながらも、ディルは根気よく拓巳につきあってくれている。

「お前、ティナのなんなんだよ」

「は?」

 いきなり言われて、拓巳は顔をあげた。

「ずっと、ティナんちにいるんだろ? 一体、ティナとどういう関係なんだよ」

 不機嫌をめいっぱい顔に出しながら、ディルが拓巳をにらんでいた。


 ディルは、地球から戻ってきた莉奈が見せる、自分の知らない顔に戸惑っていた。笑っていても怒っていても、ディルの知っていた莉奈とは、どこか違う。なにが違うのかまではわからなかったが、それがどうやら拓巳に関係している、ということには気が付いていた。それが、ディルはすさまじく気に入らない。

「なんだ、気になるのか?」

 ディルがどういうつもりでそんな質問をするか、想像がついている拓巳はにやりと笑った。ばかにされたと思ったディルは、むくれてそっぽを向く。

「別に。どうだっていいけど」

「お前、かわいいな」

「お前って言うな!」

 ディルにとって、自分を子供扱いする拓巳は、莉奈とは別の意味で気になる存在だ。どうしても放っておけずに、何かといえば自分から絡んでいる。そんなディルを、拓巳は結構気に入っている。

「そんなことして、なんになるんだよ」

「ん?」

 ディルは、拓巳の持っていたパネルを指し示した。どうやら、拓巳がそれを理解しようとしていることを言っているらしかった。

「知識を持って帰りたいのか?」

「そんなんじゃない。そうできたら面白いかもしれないけど、地球じゃまだ、役に立たない知識だし」

 拓巳は、パネルからディルへと視線をうつす。

「ただ、俺が知りたいだけだよ。言ったろ? 頭がいいだけじゃ、いい男にはなれないんだ」

「いい男って、なんだ?」

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