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「お前だって、僕のことお前って言うじゃないか」
「俺は年上だからいいんだ」
「僕だって頭がいいから、いいんだ」
「頭がいいだけじゃいい男にはなれないぞ?」
「……何のことだ?」
眉をひそめたディルに、拓巳はにやりと笑ってわざとらしく耳打ちした。
「なあなあ、地球にいた間の、お前の知らない莉奈のこととか聞きたいと思わない?」
ぴくりとディルが反応した。
「何をたくらんでいるのよ、一体」
あやしげな言い方に、莉奈は思いっきり顔をしかめる。
「そんなこと話しに来たの?」
「ああ、そうだ。タレードさんて、どこに行けば会える?」
拓巳の口からでた意外な人物の名前に、莉奈は目を丸くする。
「タレード? 今なら自室にいると思うけれど……なにか用?」
「ちょっと話したいことがあって。自室ってどこ?」
「こっち終わったから、案内するわ」
チェアを操作して元の位置に戻した莉奈に、ディルが声をかけた。
「おい、まだチェックするプログラム残っているぞ」
「ちょっと休憩。残りはまたやるわ。ここまでは完璧よ、さすがディルね」
「当たり前だ。僕を誰だと思っている」
満足そうにふんぞり返るディルにひらひらと手を振って、莉奈はルームを出て行く。そのあとに続きながら、拓巳はちらりとディルを振り返る。と、ディルがうねうねと髪を揺らしながら拓巳をにらんでいるのと目があった。
からかい半分でかまをかけた拓巳だが、あっさりひっかかったディルに笑いがこぼれる。腹芸のできない素直なところは、確かにまだ子供なのかもしれない。
含み笑いをする拓巳に、莉奈が不思議そうに首をかしげた。
「どうしたの?」
「いや、なんでも。それより莉奈、やっぱり気は変わらないか?」
「なんの?」
「例の船にお前が乗るってこと」
「ああ……もちろんよ」
「どうしても?」
「どうしても。急に、何よ」
「ゼダさんが心配してたから」
莉奈は、先ほど拓巳とゼダがなにやら話し込んでいたことを思い出す。
「ゼダ、何か言ってた?」
「別の人間に決定して、また全部の船を壊されても困るってさ」
肩をすくめる拓巳に、莉奈は微かに頬を赤らめる。
「いくらなんでも、もうそんな迷惑なことしないわよ。……ゼダったら、私のこと小さい頃から知ってるからかしらね。いくつになってもそうやって子供扱いして、やんなっちゃう。あ、ここよ」
一つのドアの前で止まると、莉奈は壁に手のひらをつけた。これで中にいるタレードに誰が訪れたかわかる仕組みとなっている。しばらくすると、シュンと軽い音がしてドアが開く。
「何か?」
自分のデスクで仕事をしていたタレードは顔もあげなかった。その部屋にも、オペレーションルームのように様々なパネルが宙に浮いていたが、机の周りには、模型のようなものもそこかしこに転がっている。拓巳は、もっと整然としていた部屋を想像したので、少しだけ意外に思う。
「拓巳が話があるのですって」
「拓巳様が?」
座ったまま、タレードが拓巳に視線を向ける。正式に莉奈の客人として扱われるようになったので、タレードも今は拓巳に対して態度を変えている。 だが、慇懃無礼な印象は相変わらずだ。
「はい。あ……と、莉奈。これ、ジーンさんに届けてくれる?」
拓巳はそう言うと、ポケットに入れていたカードを出した。この星で使う、手紙のようなものだ。
「え? 先に言ってくれればよかったのに。さっき通ってきたのよ。今すぐ?」
「うん。それで、返事をもらってきてくれる? 悪いけど、頼むよ」
ぶつぶついいながら、莉奈が部屋をでていく。それを見送って、タレードはもう一度拓巳に視線を戻した。
「ずいぶんあからさまなことをしますな。ティナ様には聞かれたくない話ですか?」
へらへらしていた顔を引き締めて、真面目な顔になった拓巳はまっすぐにタレードを見た。
「お願いがあります」
第四章、終わりでーす。大丈夫ですかー? ついてきてますかー? 次、五章でーす。