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星空の船  作者: 和泉 利依
第四章
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「くだらない話をしているくらいなら、そのプログラムのチェック、早く終わらせろ」

 しばらくは、二人でパネルの操作に専念する。

「地球で、何かあったのか?」

「ちょっと、ね」

「失敗したのか?」

「少し。友達のことで、拓巳に怒られた」

 ゼダを相手に何やら話しこんでいる拓巳に、ディルはちらりと視線を向けた。


 最近の莉奈には、必ず拓巳がついてくる。ディルはそれが気に入らないが、気に入らないと人に悟られることも嫌だったので、つとめて平静を装っていた。

「お前は僕みたいな天才じゃない。間違える事だってあるさ」

「なまいきね」

 くすりと笑って、莉奈はちらりとディルを見上げる。

「ディルだって、友達多そうには見えないけど。付き合い方なんて知らないでしょ」

「僕の人生に特に必要じゃなかっただけだ。いくつかサンプルをもらえれば、解析してテキストを作ってやるぞ」

「そうじゃないの」

 莉奈は、小さくため息をついて手元のパネルに視線を落とした。


「そうじゃない……友達相手には、テキストなんて、必要ない……役に立たないのよ」

 莉奈は、焦点の定まらない目で宙をみつめる。

「みちるちゃんや由加里はAIとは違う。一人の人間だった……私たち、友達だったのよ。私は、彼女たちが好きだった。……多分、みちるちゃんも……」

 自分の言葉にはっとして顔をあげた莉奈は、そのままの姿勢で固まる。


 彼女たちは自分にとって特別だった。なら……彼女たちにとっても、もしかしたら自分は特別だったのかもしれない。そう、思ってもいいのなら。

 もし、立場が逆だったら? 何も言わずにいなくなるのが、みちるちゃんだったら? 

 その時、私は何も変わらずにいられる?

「ティナ?」

 わけがわからないディルの怪訝そうな声に、莉奈はぎこちなくその瞳を見返す。幼いころから切磋琢磨してきた、同志の。

「……そうね。ディルは友達じゃないわね」

 その意味を図りかねて、ディルは眉をしかめた。かなり両極端な意味を持つ言葉だ。


 確かに、ただの友達なんて言い切られても面白くはないが、逆の意味で友達ですらもないといわれたら、十分に傷つく権利のある言葉だ。

「じゃあなんだよ」

「んー、私のライバル、かな。ディルがいたから、私も勉強や研究をがんばってこられた。みちるちゃんや由加里とは違うけど、私にとって大事な人間であることには変わりないわ」

 それは悲しむべきなのか、それとも特別であることを喜ぶべきなのか。ディルがどんな表情をしていいのか迷っていると。


「じゃあ、お前は俺と友達にならないか?」

 頭の上からふってきた陽気な声に、ディルが顔をあげる。いつの間にかディルのチェアに腕をかけて、拓巳が覗き込んでいた。

「そろそろお前もお年頃だろ? 男同士じゃなきゃできない話ってのも、案外と楽しいぜ?」

「お前から学ぶものなんて何もない」

「とりあえず口のきき方は教えられるぞ。年上相手に、お前って言うな」

 にべもなく言い切ったディルの額を、拓巳はぴんとはじいた。その仕草に、ディルは目を丸くして弾かれたおでこに手をあてる。


 ディルは、数百年に一度の天才と言われ、幼い頃から大人のなかで育ってきた。類まれなる頭脳で常に大人たちと同等であり続けた彼は、物心ついたころから子供扱いされたことがない。それは両親でさえも同じだった。自分でも気づかずに背伸びして大人の中で育ってきたディルは、ただ一つ、子供らしさというものを覚えてこなかった。

 だがそんなディルも、拓巳にとっては、生意気な弟たちと同じだ。ひねくれた少年の憎まれ口は、弟たちを思い出させてなんだか無性に愛おしくなる。だから拓巳は、弟たちと同じようにディルを扱うが、ディルにとってそれは初めての経験だ。


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