表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星空の船  作者: 和泉 利依
第四章
39/72

- 7 -

「我々も最初はそう思ったよ。だが、観測されるに従ってはじき出される密度は低く、ブラックホールとは程遠いものだった。結論から言うと、そのダークマターの正体は……反物質、だったんだ」

「反物質……? それって、単独で存在し続けられるものなんですか?」

 拓巳も、物質・反物質については宇宙の知識として知っているくらいで、それほど詳しく知っているわけではない。その知識から考えると、今の話は腑に落ちない現象だ。


「とある条件がそろった時にのみ、発生しうることもある。今の地球では、宇宙の起源を探るための物質として注目されているはずだ。実際、確か反物質を自分たちで作れるほどの技術はあると思ったがな。だが、それらはごく小規模のものだ。われわれが発見したのは、想像を絶するほどの巨大な反物質だった」

 それを聞いて、驚くくらいの知識は拓巳にもあった。だが、当時関わっていた研究者たちの驚愕は、比べ物にならないほど大きかった。

「これが他人事なら、興味深く観測ができただろう。だが、そのダークマターの進路の軌道上に、ちょうど我々の星があった。このままではポーラムもそれにぶつかって大爆発のうえ消滅してしまう」

「反物質なら、とりあえずなにかしらの物質をぶつけてみればいいんじゃないですか?」

「基本的には、それで消滅させることができる」

 単純に、そう考えるのが普通だろう。一度は自分もそう考えたジーンは、苦笑した。

「何度か、自動操縦で宇宙船や岩石なんかをぶつけてみたんだ。軌道上にシステムを全く止めた衛星を置いてみたこともある。だが、ことごとく軌道がそれてしまった。どうも、ダークマター自体から変な磁場が発生しているようなんだが、この原因に関する結論は今もまだ出ていない。しかし、宇宙空間に存在している隕石なんかは実際に衝突しているから、影響を受けるのは機械的なものだけらしいことはわかった。いずれにしろ、陽物質でなら消滅させられることは判明した」

「ポーラムにたどり着くまでに、うまく自滅してくれる可能性は?」

 拓巳は、首をひねりひねり聞いている。

「ダークマターの大きさが大きさだけに、その可能性は低かった。対策として我々は……そうだな、簡単に言えば、そのダークマターを丸々と覆ってしまって衝撃波が外にでないようにしてから陽物質をぶつけることで、それを消滅させることにした」

 言いながら、くるりとジーンは手で宙を囲うように丸く動かす。

「消滅のエネルギーは、かなり激しくなると予想される。それも不純物の多いものでは爆発をさらに大規模にしてしまう恐れがある。だからうまくそのダークマターを消滅させるだけの純粋な陽物質を抽出して、それだけを的確にぶつけることにした。ダークマターの構成物質を割り出すだけで2年かかったよ。その結果により、まず我々はバリオンの中の中性子とハドロン陽子だけを抽出して電子を帯びてないニュートリノと共に……」

「あの、すみません」

 拓巳がジーンの熱弁を遮る。

「それ……理解しないとまずい話ですか?」

「あ……ああ、いや、悪かった。そうだな、ここらへんは特に必要とはしないな」

 かなり情けない顔になった拓巳を見て、ジーンは我に返った。前のめりになっていた自分の姿勢に気づいて、軽く咳払いをしながら座りなおした。


「とにかく、われわれはその準備をしてきた。それと同時に莉奈が地球へと降りたのは、抽出された陽粒子を照射するための特殊な鉱石を作り出すためだったんだ」

「それが、莉奈が地球にきた目的だったんですね」

「そうだ。陽粒子の抽出が思ったより進まなくてね。石の精製に必要なだけの熱量を必要な時間持続させることは、その抽出と平行で進めることが難しかった。そこで、実験と同様の条件を満たすことのできる状態を他に探してみると、地球のように熱い熱流を持つ惑星の内部でなら可能だった。ポーラムを含めたこの星系の惑星は、地球に比べれば重力も弱く地熱も低い。幸い、地球の主要生物は人間型だ。滞在するのにも問題なかった」

「この星は国交を開いているということでしたけれど……他の星に協力は求めなかったんですか?」

 それを聞いてジーンは、自嘲の笑みを浮かべる。

「10年前、この星に何があったか知っているかい?」

「さっき、シルスさんに聞きました。莉奈には聞けなかったので……」

「正しい選択だ」

 ジーンはため息をつく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ