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「そうです。この星の資源を狙ってきたザッパルが恐れたのは、技術が失われることでした。この星の地下資源は複雑で危険な海流の下にあり、簡単に掘り出すことはできません。海流を読むことは、教えられてできることではなく、長年の経験が必要となります。これを継承している技術者の組合が、もしまたザッパルが攻撃を仕掛けてくるようなら、持ちえた技術のすべてを葬ると……自分達も命をかけるとザッパルに対抗したのです」
実際に、その戦争時にザッパルは、海底の鉱脈に向けて技術団を向かわせたのだ。だが、海溝深くでの作業は、最新の技術を誇るザッパルをしても困難を極め、結局技術団のほとんどが海の藻屑と消え、なんの成果も出せずに彼らは撤退していくはめになった。
特殊な技術が失われても、いつかはザッパルもそれを会得することはできるだろう。だが、本隊を失ったザッパルには、この星を制圧するための力がすぐには取り戻せなかった。
なにより、その地下資源――セジアルと呼ばれるレアメタル――の供給がストップしてしまうこと自体が、主要取引星であるザッパルには大打撃なのだ。軍事力の差に絶対の自信を持っていたザッパルは、小さな惑星など簡単に制圧できるとたかをくくっていた。だが、度重なる誤算に、しぶしぶながらもポーラムから手を引かざるをえなくなったのだ。
「ザッパルは連邦会議にかけられましたが、各星の首脳部に大きな影響力を持つザッパルはたいした制裁を受けることもなく……、そして、たとえどんな制裁を受けようと、それで失われた命が戻ってくるわけでもありません。オルダム様のことがなければ、連邦軍の到着までにもっと多くの命が失われていたことでしょう」
シルスは、口元に手を当てると、静かに涙を零した。
「オルダム様夫妻は、命をかけてこの星を……国民を、守ったのです……」
拓巳は立ち上がると、うつむくシルスの腕にそっと自分の手を置いた。
「すいません。辛いことを話させてしまいました」
「いえ、こちらこそ、申し訳ありません。お恥ずかしいところをお見せしてしまいまして……」
気遣う拓巳に、シルスは涙をぬぐって微笑んだ。
「初対面の方に聞かせる内容ではなかったのかもしれませんが……ティナ様のために知りたいと言ってくださった拓巳様には、お話しておいてもよいと思ったのです。ティナ様のあんな笑顔、久しぶりに見ました」
「莉奈の?」
「はい」
恥ずかしげにハンカチで涙を拭うと、シルスは続けた。
「ご両親が亡くなられた時、お嬢様はまだたった5歳で……やはり、よほどのショックを受けられたのでしょうね。しばらくはジーン様から離れることができませんでした。おそらく、ジーン様までいなくなってしまわれるのを恐れたのでしょう。ろくに食べることも眠ることもできず、とても、おつらい時期を過ごされました」
5歳と言えば、拓巳の末の弟妹よりもまだ幼い。彼らの5歳の頃をよく覚えている拓巳は、その時期に両親を亡くした莉奈を思って胸が痛くなる。
「ジーン様も王となられてからはお忙しく、泣きじゃくるティナ様をおいて公務に当たられることもよくありました。ティナ様は、お兄様と一緒にいる方法を一生懸命考えたのでしょうね。常に物静かになられ、邪魔になることのないように……人前で無邪気に笑うことも泣くことも、ずっと我慢されてきたのです。それが、地球からお戻りになられた様子が、なんというか……相応の子供の笑顔を取り戻されたような……今までも決して冷たい方ではなかったのですが、あんな風にはしゃがれることはめったになかったんですのよ」
「そうだったんですか……」