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「あの……十年前にこの星にあったこと、聞いてもいいですか?」
「ティナ様からお聞きになっておりませんか?」
ぐすりと鼻をすすりながら、シルスが言った。
「十年前にこの星がほぼ壊滅しかけたことと、その時にご両親が亡くなったことだけ……内容が内容だけに、それを、莉奈本人には聞けなくて」
「失礼ですが、あの、もしかしてお二人は、おつきあいを……?」
なぜだか期待に満ちた目で見つめられて、拓巳は頭をかきながら頬を染めた。
「いえ……残念ながら、俺の片思いです。ただ」
頬を染めたまま、拓巳はまっすぐにシルスを見つめた。
「彼女がそれを背負って生きてきたなら、知りたいんです。彼女が、どうやってここまで生きてきたのか。俺は、莉奈のそばにいたい。そのためには、必要なことだと思ったんです。知らないまま、彼女を傷つけてしまうことだけはしたくない。決して興味本位で聞いているわけではないことは、わかってください」
「……そうですか。そうですね、お嬢様には、あまり思い出させたくない出来事ですし……」
シルスは、すっと背筋をのばした。
「この星ポーラムは、ラクサ系の中でもはずれにある惑星です。人口も少なく小さい星ですが、非常に珍しい地下資源に恵まれておりましたので、経済的に独立することができ、本星や他の星とも対等な関係を築いてまいりました。この星を代々の王として治めてきたのが、サレス家……ジーン様とティナ様の一族です。ポーラムは世襲のかたちで王制をとっております」
拓巳はシルスに座るように勧めたが、彼女はその誘いに首を振る。拓巳としては、座ってくれた方が首が痛くなくて助かるのだが。
「十年前のことです。鉱物取引の主要惑星であったザッパルが、この星の資源の専売権を要求してきました。もともとザッパルは好戦的な国で、小さな星間戦争をしょっちゅう起こしておりました。国を治める王もかなり残虐な性格で、その政治と言ったら、上級層を優遇し弱いものを切り捨てるもので、今でもザッパルは貧富の差がかなり激しい国です」
声を震わせたシルスは、そこで一息ついた。
「当時の国王だったサレス様……ジーン様たちのお父様ですが、もちろんその要求を拒絶なさりました。それに納得しなかったザッパルは力づくでこの星を手に入れようと……正規軍を従えてこの星に攻め込んできたのです。突然のことで応戦が後手にまわり……多数の国民が亡くなりました」
戦争。
拓巳は、その言葉をニュースや歴史でしか知らない。だが、ここにはそれを直接に体験してきた人がいた。その言葉は、今まで聞いてきたどんな言葉よりも重く、拓巳の心にのしかかる。
「一応、ポーラムにも政府軍はありましたが、とてもザッパルに対抗できるほどのものではありませんでした。すぐに連邦軍に救援の要請を出しましたが、その間も襲撃は続いており、次々に失われていく命を愁いたサレス様は……」
シルスは苦しげな表情で目をふせた。
「その船に乗っていたのは、サレス様……オルダム様と奥様のミィル様だけでした。降伏すると見せかけ、敵の本艦に宇宙船ごと飛び込んだのです。それにより、ザッパルの指令系統は壊滅し、結果、ザッパル軍は、一時的とはいえポーラムから手を引かざるをえなくなりました。それは、連邦の援軍が到着するには十分な時間でした」
言葉をとめた彼女に、拓巳は乾いた唇から言葉をつむぎだす。
「でも……いくら指令系統がつぶれたとはいえ、よくそれで素直に引きましたね。むしろ、ポーラムの王が失われたわけですから、向こうにしてみれば好都合だったのでは……?」
「その時、すでにオルダム様は全権をジーン様に移されていました。戴冠式は喪が明けた一年後になりましたが、ジーン様はその時から王だったのです。そのこともザッパルには誤算だったようですが、それとともに、組合が声明をだしたのです」
「組合?」