表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星空の船  作者: 和泉 利依
第四章
34/72

- 2 -

「ティナ様が地球でとてもお世話になったそうですね。ありがとうございました」

 拓巳に飲み物の入ったカップを差し出すと、シルスは深々と頭を下げた。拓巳は慌てて立ち上がる。

「そんな……こちらこそ、急にお邪魔しましてすみません」

「ティナ様がお友達を連れていらっしゃるなんて、初めてのことですのよ」

 声に喜色をにじませたシルスの言葉を、思わず拓巳は聞き返した。

「……初めて……?」

「ええ。ティナ様は幼い頃より賢くていらっしゃいましたから、お兄様の補佐となられるべく専門の教育を受けてまいりました。そのせいで普通の学校に所属することができなくて……同年代にご友人と呼べる方が、いなかったのです」

「友達が、いなかった……」


 拓巳は、先ほど研究所で会った少年を思い出す。一緒に教育を受けたという彼は、はたから見て仲の良い友人という感じではなかった。

 促されて、拓巳がもう一度ソファに座ると、その横にシルスは立って続けた。

「はい。地球では、学校に通われていたそうですね。どのようなご様子だったのですか?」

 うきうきとその莉奈を想像して楽しげなシルスの態度とは逆に、拓巳の表情は曇っていった。


『お前にとって友達ってそんなもんかよ』

 莉奈に投げつけた言葉が、胸によみがえる。シルスの言うとおり、もし本当に、莉奈に友達がいなかったとしたら、地球での拓巳たちは彼女にとっての初めての友人となる。

 拓巳は、ここに来る船の中で、みちるたちの思いに向かい合わなかった莉奈を責めた。その時の莉奈の、困惑した顔を思い出す。

 一緒に遊んでけんかして、そして仲直りして。友人としてのそんな基本的なつきあいが、莉奈にとってはきっと慣れてはいないことだったんだと、拓巳はシルスの言葉で気づいた。

 大事にしてなかったわけではない。大事に仕方がわからなかっただけなんだ。

 だとしたら、俺は酷いことを莉奈に言ってしまった。


「拓巳様……?」

「あ……ああ……」

 シルスに覗き込まれて、拓巳は我に返る。

「ええと、彼女は、普通の女の子でしたよ。確かに、最初はちょっととっつきにくいかな、と思ったんですけど、クラスには仲のいい女子たちもいました。俺んちで一緒に食事なんかした時には、俺の弟妹達とよく遊んでくれましたよ」

「まあ……」

 丸く口をあけたシルスは、目を潤ませる。

「そんな普通の生活を……そう、良かった。ティナ様は、そんな風に過ごされていたのですね」

 涙をにじませたシルスにぎょっとして、拓巳はわざとおどけてみせた。

「いやー、まさか莉奈が王女様だなんて知らなかったんで、いろいろやらせちゃいましたけど……。お兄さんが王様なんですね。中央局でお会いしました」

 拓巳の言葉に、シルスは視線を伏せる。

「ええ。落ち着いてきたとはいえ、まだあの戦争から十年……相変わらずジーン様はお忙しそうで、あちらで過ごすことも多いのです。ティナ様も、幼い頃から、本当に……」

 言いながら、またその言葉が湿っぽくなってくる。シルスという乳母は、生来涙もろい性格だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ