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「莉奈って、やっぱりお姫様だったんだな……」
「拓巳?」
感心したような拓巳を、莉奈は覗き込む。
「いや、ここ見たら実感した。『家においでよ』って言われて友達の家に行きました。行ったらそこは、お城でした」
「何言ってるの」
門をくぐるときにセキュリティのチェックをされたあと、さらにエアカーは走り続けている。それは家というより、確かに城と言った方がいいくらいの規模の建物だった。
「広いだけで、お城なんてかっこいいものじゃないわよ」
ようやくエアカーが停止したその建物は、近代的だった先ほどの中央局とは違って、砂で固めたようなざらりとした質感の壁で出来ていた。
白に近い薄青のせいか、見上げたその壁も圧迫感を感じない。地球でイメージする城とは違うが、確かに他の建物とは一線を画したものであることが拓巳にもわかった。
「おかえりなさいませ! お嬢様!」
二人がエアカーを降りると、大きな扉の前で待っていたシルスが駆け寄ってきた。
「お疲れでございましょう。みんな待っておりますよ。さあ、早く中へ」
嬉しくて仕方ないとわかるその様子に、拓巳は、いかに莉奈が彼女に愛されてきたかをひしひしと感じる。
「シルス、夕食を作りたいの。手伝ってくれる?」
いきなりの莉奈の言葉に、シルスは丸く目を見開いた。
「お嬢様がですか? お食事ならザナークがはりきって用意しておりますが……」
「もちろん、それもいただくわ。でも、みんなに地球の料理を食べさせてあげたいの」
「一応、地球風の食事なども調べておりましたよ? ……ティナ様がおつくりになるのですか?」
シルスは莉奈の後ろにいる拓巳に気がついて、いくらか冷静さを取り戻したようだった。
「拓巳のお母様に、たくさんお料理を習ったの。本場の地球料理よ。シルスたちに心配かけてしまった分、私がごちそうしたいの」
戸惑うように聞いていたシルスの目が、ふと、和む。
「そう……そうですか。わかりました。では、厨房の方にはそのように伝えましょう。ティナ様のお部屋は、いつでも使えるようにしてございます。まずは、お休みください」
その言葉に、今度は莉奈の顔が緩んだ。
ポーラムでの莉奈の表情が、地球にいる時よりはるかに豊かになっていることに、拓巳は気づいていた。
地球では、どれほど自分の感情を抑えていたのか。
くるくると変わる今の莉奈の顔を見ながら、その時の彼女の心情を思うと拓巳は胸が痛んだ。と同時に、おせっかいと言われつつも莉奈にかかわることをやめなくてよかったと心から思う。
「ありがとう。それと、ポーラムにいる間、拓巳はうちに滞在することになったわ」
「突然ですみませんが……お世話になります」
恐縮して頭を下げる拓巳に、シルスは一瞬驚いた顔になったが、すぐに満面の笑みを浮かべる。
「まあ、それはにぎやかになりますね。どうぞお気楽にお過ごしください。くつろいでいただけるとよろしいのですけれど」
「すぐにお部屋を用意いたしますね。拓巳さまはこちらでお待ちくださいませ」
シルスにそう言われて拓巳が通されたのは、応接室らしかった。
かなり広いその部屋は、電灯らしいものは見当たらなかったがほんのりと明るい色で満ちていた。すすめられるままに中央のソファに腰掛けて、拓巳はものめずらしそうにあたりをみまわす。
拓巳を案内すると、シルスは壁を操作して食器の入った棚を出し、拓巳のためにお茶らしきものを入れ始めた。こちらでもそういう作法があるのか、もしくは先ほどの会話から察するに、地球風のもてなしというものも参考にされているのか、拓巳には判断がつかなかった。




