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「確かに、一度帰った方がいいかもな。お前、ポートからここへ直行だろう?」
自分の席に戻っていたゼダも、莉奈に声をかける。
「うん……そうね。そうさせてもらうわ。行きましょ、拓巳」
一気に疲れたような表情になった莉奈は、ゼダに軽く手を振りながら、ドアに向かって歩き出す。拓巳も手を振っている研究員たちに会釈して、その後を追った。
「莉奈……」
「大丈夫よ。いつものことだもの」
「ふうん……。しかし、船、全部壊したって? お前」
それを聞いた莉奈は、小さくうめきながら両手で頬を隠した。
「だって……どうしても、私一人で行きたかったから……」
力で地球文明に介入することは簡単だ。もちろん、連邦の規約違反だが、地球は連邦に属する星系ではない。だから、緊急事態であると明言して、軍を率いて地球におりることも不可能ではなかったのだ。
だが、莉奈はそれをよしとしなかった。できることなら、その石に関わることを地球人に知られることなく内密に処理したかったのだ。うっかり見失ったせいで、結局地球人の組織を巻き込む騒動になってしまったのだが。
「無駄な争いは、したくなかったのよ……」
「お前の判断は正しかったよ。……ありがとうな。地球人として、感謝する」
今の地球では、地球外生命体は公式には確認されていない。ましてや、莉奈達のように高度な科学文明を持っている宇宙人ならば、その存在だけで地球にとっては十分な脅威となりうる。たとえ攻撃をする意志がないと伝えても、それを信じない地球人だって少なからずいるだろう。
拓巳の言葉を聞いて、莉奈の足がとまる。顔を隠していた両手をそっと開いた。拓巳は、その顔を見てぎょっとする。
大きく開かれた瞳からは、涙がこぼれていた。
「私……間違ってなかったかな……」
呟く声は、微かに震えていた。
「ポーラムでも迷惑をかけて、地球でもいろんな人に追われて……それでも、私、間違ってなかったと思っていいのかな……?」
すがるような莉奈の視線に、拓巳は初めて、彼女の肩に乗っていた重荷に気がついた。
戦力で地球に下りることを反対して、だからといって一人で地球におりることも反対された莉奈は、後を追える船をすべて使えなくして、一人で地球へ赴いた。
それはすべて、地球に対して驚異的な介入を避けるため。軍事力に対して極度の恐怖心を持っている莉奈は、同じ想いを地球人にさせたくなかった。もとより、莉奈が地球に降りるのは、あくまで莉奈たちの星の事情。そんな身勝手な理由で、地球という平和な星に混乱を持ち込みたくなかったのだ。
彼女のことを心配しながらも、ジーンも他の研究者達も莉奈の気持ちをわかっていたから、結局船が直っても誰も後を追わず、ひたすらに彼女が帰ってくるのを待ち続けていたのだ。
「お前のおかげで、地球では必要以上の騒ぎにならなかったし、例の石だってちゃんと役に立つんだろう? 終わりよければすべてよし、だよ」
ナイトフェアリーとして世間を騒がせはしたが、宇宙人が攻めてきたとなれば宝石泥棒どころの騒ぎではない。
「本当に?」
「もちろんだ。ありがとう、莉奈」
泣きながら微笑んだ莉奈を、思わず抱きしめそうになって拓巳はこらえた。地球人として心からの謝辞をこめた言葉を口にしながら、安易に彼女に触れることはできない。
「よかった……」
恥ずかしそうに言って涙を拭った莉奈は、きびすを返してまた歩き出した。
第三章、終わりー。はいはい、次四章。