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「他に何か、言うことはありませんか」
「……ごめんなさい。もうしません」
「まったくです」
難しい顔をしたまま、わざとらしくため息をつく。
「あの後、壊れた船を直すのに、どれだけの時間と費用がかかったとお思いですか。ご丁寧にも、全部の船を壊されるなどと……あやうく、わが星の経済が破綻するところでしたよ」
「それは本当に悪かったと思ってます。でも、例の石は完成させて持ち帰ったわ。ね、私だって、ちゃんとできるのよ」
「ずいぶん時間がかかりましたがね。チームをつれていけばもっと早く終わったはずです」
「地球はまだレベル4―1の惑星よ。私達の存在を知られるわけにはいかないわ」
「なに、星間移動もできない原子的な惑星のこと。いざとなったらこちらには黙らせるだけの攻撃力も……」
「そういう考えの人達が、あの惨劇を引き起こしたのよ……」
うつむいた莉奈が、唇をかんで強い調子でそのセリフをさえぎった。それを聞いてタレードと呼ばれたその男も黙り込む。
それまで黙って聞いていた拓巳は、こらえきれずに口を出した。
「そんなに莉奈ばかりを責めないでください。本当に、彼女のしたことは悪いことばかりだったんですか? こうしてちゃんと目的を果たしてきたじゃないですか」
「この少年は?」
胡散臭そうな目で、タレードは拓巳を見た。
「梶原拓巳。地球人よ。この石のことでいろいろ協力してもらったの」
ねめつけるような視線を受けて、拓巳は負けじと睨み返す。
「知った風な口をきくな、小僧」
「な……!」
「やめてタレード。拓巳も」
「なんだよ、莉奈。こいつ」
「タレードよ。タレード・ルース・ル・フォーラス。兄の参謀で……私たちの、叔父よ」
「……叔父さん?」
身内と知って、いくらか拓巳の表情が緩和される。だが、まだ視線ははずさない。
「そうだ。関係のないものは、黙っていたまえ」
がっしりとした体つきのタレードは、彼を見上げている拓巳に十分な威圧感を与えていた。
「それでも、言っていい事と悪いことがあります。頭から悪いと決め付けないで、ちゃんと彼女の話を聞いてください」
莉奈を背にかばうようにしてさらに言い募ってくる拓巳に、今度はタレードも何も言わなかった。ただじっと、彼を見下ろしている。しばらくそうした後、ふいっとタレードは二人に背を向けた。
「失言があったことは認めます。お許しください。……まだ帰ってきたばかりでしょう。家のものも心配しております。一度、お戻りください」
それが莉奈にかけられた言葉とわかって、彼女は小さく、はい、と答えた。
タレードが出て行くのを見ながら、拓巳は憤慨して莉奈にくってかかる。
「何だよっ、あれ。なにも、あんな言い方しなくてもいいじゃないか。しかも、みんなの前で」
莉奈とタレードの会話を息をのんで聞いていた研究員たちは、タレードが出て行くのと同時におのおのの仕事を再開していた。
「いいのよ。確かに、私が悪かったんだし。口は悪いけど、いい人よ」
「いい人、ねえ……」
拓巳はまだ何か言いたそうだったが、莉奈の身内でもあることであったし、それ以上口にすることはなかった。