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星空の船  作者: 和泉 利依
第三章
30/72

- 9 -

 言いながらゼダがぴこぴことパネルを操作していくと、カテラルムライトに向かって細い光がいくつも伸びた。その光をまるでその内部に取り込んだかのように、青い石は薄く光り始める。

「すごいわ……」

 莉奈が感心したように言った。

「ああ、十分使用に耐える状態だ。けどな、やっぱり複数に分割した時点で、強度に問題が発生している。陽粒子の放出に耐えられる限度は、せいぜい二回くらいかな」

「そう。では、失敗しなければいいのね」

「当然だ。まったく、これだけ時間をくっておいて何やっていたんだ」

 冷たい声に、三人が振り向くと、一人の少年が醒めた目つきで見ていた。色の濃い研究衣は、階級が高いことをしめしている。


「勝手に飛び出しておいて、まともに石の精製もできなかったのかよ。まったく、いつ帰ってくるのかとひやひやしたぜ」

 失礼な物言いにも、莉奈は動揺することなく平然と言い返した。

「不測の事態は常に考慮されるものだわ。余裕を持って準備していたからこそ、間に合ったのよ。そっちこそ、今頃完成ですって? ずいぶんとごゆっくりだったのね。ちゃんと乗れる代物かしら?」

「お前みたいにいい加減な仕事していないんだよ。早ければいいってものじゃない。その代り、完璧に仕上げた。僕の仕事に、失敗なんてありえないね」

 傲岸に言い放つ少年は、どう見ても莉奈たちよりも年下だ。小柄な莉奈よりも、さらに頭二つ分、背が低い。


「それはご苦労様。これで安心して船に乗れるわ」

 それを聞いて、その少年が眉をひそめる。一緒に聞いていたゼダもわずかに眉をひそめたが、莉奈は気づかなかった。

「お前、まだあれに乗る気なのか?」

「前からそう言っているでしょ」

「ばかじゃないのか」

 挑発するような言葉に、莉奈は微笑んでみせた。

「船の準備は完璧なんでしょ? ディルが失敗するなんて、ありえないわよね」

 言葉をつまらせた少年は、ぷいとそっぽを向く。

「ゼダ! 昨日頼んでおいた分析は出たのか?!」

「はいはい。データ送っておいたから、確認してくれ」

「出来てんなら、さっさと報告しろよな!」

 八つ当たりのように怒鳴って、どすどすと部屋から出て行った。


「なんだい、あれ」

 二人のやり取りに緊張していたのは、拓巳だけのようだった。他の研究員の誰も、莉奈達の会話には気をとられていない。むしろゼダなどは、面白そうに二人のやり取りを見ていた。

「ディルって言ってね、あれでも近来まれにみる天才科学者なの。今回の計画のオペレーションマスターよ。私より若いけど、彼がいなかったらこの計画もこんなに順調に進まなかったはずだわ。ただね」

 小首をかしげて莉奈が眉をしかめる。

「歳が近いせいか、私にばっかりつっかかるのよ。ちょっとひねたところはあったけど、昔はあんなんじゃなかったのに」

「懐かしいね。またこの研究所に、二人の罵声が響くわけだ」

 くつくつとゼダが楽しそうに笑った。

「若いって、いくつだよ、あれ」

「地球の年齢で言えば、10歳くらいよ。私も彼と一緒に特殊教育を受けてきたから、彼がどれくらい優秀かよく知っているわ。まだ子供だけどね」

「あなたもまだ子供なんですよ。ティナ様」


 背後から聞こえた新しい声に、莉奈はぎくりと反応する。おそるおそるといった様子で振り返った先には、一人のしかめ面をした中年の男性が立っていた。その髪は、莉奈によく似た深い瑠璃色をしている。

「……ただいま、タレード」

「おかえりなさいませ」

 重々しく言う彼は、一人だけ周りの研究員たちとは違う黒っぽい服装をしている

 先ほどのディルと呼ばれる少年と莉奈の会話は聞き流していた研究員が、今度は二人の様子に興味深げに注意を払っていることが見て取れた。


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