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うっかり本音を言ってしまったことに気付いて、拓巳はあわてて視線をそらす。
「まあ……あと、あの星空とか、さ。やっぱり、いろいろだよっ」
莉奈を置いて歩き出そうとする拓巳の腕を、莉奈が握った。拓巳の動きが止まる。
俺、今絶対、赤くなっている。
そう思うと、莉奈を振り向けない。
「拓巳」
「なっ、なんだよ!」
「部屋、ここ」
「へ?」
思わず振り向くと、二人は一つの扉の前にいた。
「行き過ぎだってば。さ、入って」
けろりとして言う莉奈に、拓巳は膝がくだけそうになる。
鈍い。こいつ、鈍いっ。や、助かったけど……それとも、惜しかったか?
☆
その部屋は、ゲスト用に用意されている宿泊機能を持つ部屋だった。今は、真ん中に応接セットが置かれているだけだ。ドアから入ったつきあたりは、壁一面が窓になっている。その向こうには、さっき来るまでに通ってきた建物群が見下ろせる。拓巳は窓からその光景を眺めながら、なんとなく無数の蟻塚を連想した。
「なんか、みんな青いんだな」
地球を発ってからは、莉奈の髪は本来の色である深い青色に戻されている。同時に着替えたこの星のものらしい服も青いものだった。そして、見下ろした街も、濃淡こそあれ、全体的に青が多い。
街全体がエメラルドで出来ていて、そこに住む人までみんな緑色というおとぎ話を拓巳は思いだした。ここは青い星。
拓巳は、かけてもいない眼鏡がそこにあるような錯覚を覚えた。
「建物は青で作るのが習慣なの。とは言っても、別にそういう決まりがあるわけじゃないから違う色の家もあるけど、やっぱり青の方が落ち着くわね。地球には、いろんな色や形の家があっておもしろかったわ。ああいうの、ポーラムでも……」
「莉奈」
「はい?」
「魚が飛んでる」
言われて莉奈が窓の外を見ると、そこには魚に翼が生えたような生き物が数匹飛んでいた。はためく度に、きらりと銀色のうろこが光る。
「ああ、フラウ……鳥よ。空でも海でも飛ぶわ」
ポーラムの海は、惑星の表面積の9割にも及ぶ。海水の構成要素に塩分が含まれず酸素濃度が非常に高いため、鳥は空も海も同じように飛ぶ。人間ですらも、その海の中では短い間なら息ができるほどだ。
「宇宙にいる生物ってもっと訳のわからんものかと思ったけど、意外に地球のに似ているものなんだな。莉奈たちなんて、俺たちにまぎれてても全然違和感なく地球人だったし」
「そりゃそうよ。もともと同じ種なんだか」
「え?」
振り返った拓巳の目に、口元を両手で押さえた莉奈が映った。
「同じ種?」
問い返した言葉に、莉奈の目が泳ぐ。
「お前達も、サルから進化したってこと?」
「あー……そうね。そんな感じ」
にっこり微笑んでごまかそうとする莉奈を、拓巳はだまって凝視する。その視線に根負けした莉奈は、ため息をついた。
「別に意地悪するわけじゃないけど……ややこしい話だから、話すとかなり長くなっちゃうの。だから、本当に聞きたいんなら、また時間のある時にちゃんと話すわ。いずれ、地球人にもわかることよ。もう気付き始めている人たちもいたし、多分、そんなに遠い先のことじゃないと思う」
そう言われると、拓巳もそれ以上は追及できない。
「じゃあ、詳しいことはともかく、俺と莉奈は同じ種族ってこと?」
「種族……大雑把に言えばね。この宇宙には、私たちと同じ人間型の生物が結構いるのよ? それらは、多様な進化を遂げていても、ほとんどすべてが同じ起源を持っている。種という大きいくくりでは、同じ生物ってことになるわね」
「人間型ってことは、そのほかにも宇宙に生命体っているのか?」
「ええ。植物型とか岩石型とか、霧状の生命体なんてのだって確認されているわ」
「へー」