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星空の船  作者: 和泉 利依
第三章
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 近づいてみると、それは宇宙船やエアカー同様、つるんとした印象の建物だった。エアカーを降りてエレベーターらしきものでその一番上の階まであがると、慣れた様子で莉奈は一つのドアをあける。

 広い部屋の窓際にいた青年が、二人が入ってくるのに気がついて近寄ってきた。ひざまで届くかというような長い髪が、拓巳にとっては酷く印象的だった。その色は濃い群青で、すその方がうねうねと波打っている。

 感情のままに動く髪とは言っても、どうやらその感情は抑え込むことも可能らしかった。


「おかえり、ティナ」

「ただいま、兄様」

 満面の笑顔で飛びついてきた莉奈を、青年はそっと抱き返す。見下ろす目は、澄んで優しい。

「本当に、困ったじゃじゃ馬だよ」

「ごめんなさい。心配かけました。早速、シルスにも泣きつかれたわ」

「よく謝っとけよ。お前が飛び出した時の彼女の取り乱しようったら……なぜ早く迎えに行かないのかと、散々小言を言われ続けたよ」

「ごめんね……」

「まあ、いいよ。お前の無事な顔を見たからな。こっちの準備もほぼ整ったし、あとは時期を待つだけだ」

「よかった。……ね、兄様」

 うつむいたまま莉奈は、硬い声で言った。

「あの船、やっぱり私が乗るから」

 青年の優しげだった顔が、一瞬にして強張る。

「まだそんなことを言ってるのか、ティナ」

 青年を見上げた莉奈は、真剣な顔で続けた。

「もう、決めたの。止めても無駄よ」

「しかし……」

「だって、事情を知っている人たちは、技術者や指導者として欠かせない人達ばかりだもの。私みたいな中途半端な立場が、一番ふさわしいと思うけど?」

「ティナ!」

 莉奈の言葉をさえぎるように、青年が叫んだ。

「何を言っているんだ。お前がいなくなったら、私は……」


 なんだか重い話になってきたのを感じて、拓巳は入り口であさっての方を向く。話している内容は理解できなくても、その雰囲気がわからないほど鈍感ではない。

 そんな拓巳に気付いて、青年は言葉を切って拓巳に向き直った。


「失礼しました。改めまして。ティナの兄で、ジーン・サレス・ル・ポーラムです。ようこそ、ポーラムへ」

「梶原拓巳です。押しかけてしまってすみません。ええと……」

「ジーンと呼んでくれてかまわないよ」

 優しげに笑う青年は、身長183センチの拓巳が見上げるほど背が高い。地球での拓巳は細身の部類だが、ジーンと名乗ったその青年は、そんな拓巳よりもさらにほっそりとしていた。頼りなさそうな外見とはうらはらに、莉奈に良く似た大きい目には強い光が宿っている。

「ジーンさん。ご迷惑をおかけいたします」


 問題となっている計画がどういうものなのか、拓巳は知らない。確か、この星に危険がせまっている、ということだった。二人の切羽詰った会話から、それがかなり深刻なものであるということが推測できるだけだ。

「ティナが世話になったね」

 少し腰を折って、拓巳に視線を合わせる。その姿は、拓巳に好感を抱かせた。

「今は少々たてこんでいる状態だが、落ち着いたら無事に地球へ送ると約束しよう」

「お……僕の、記憶を消して、ですか?」

 いきなり核心をつかれたジーンは、困ったような笑顔を浮かべた。


「気づいていたのか」

「まあ。なんとなくは」

「君たちの文明が私たちの存在を知るには、今はまだ、時期尚早なんだ。こんなことを言うのは心苦しいが、どうか、わかって欲しい」

「黙っている、とかでもだめですか?」

「心配しなくても、痛みはまったくないしすべての記憶を消すわけじゃないよ。君の日常生活に支障が出ることは何もないと保証しよう。消去するのは、ティナとこの星に関することだけだ」

「だから、です」

 目を逸らさずに言い切った拓巳に、ジーンの眉が片方だけあがった。


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