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「私の……乳母、でいいのかな。小さい頃からずっと、私の面倒をみてくれているの」
莉奈が両親をなくしたのは、五歳の時だった。シルスは、莉奈が生まれた頃にはもう彼女の家の執事をしており、両親がいなくなってからは母親がわりとなって彼女の世話をしてきた。
シルスは、その涙ぐんだ目を莉奈に向ける。
「よくご無事で……。ご連絡はいただいていても、ティナ様のお顔をこの目で確かめるまでは、気が気ではありませんでしたわ」
「ごめんね」
「全くです。あんな飛び出し方をして……どれほど私達が心配したとお思いですか。もうあのような真似はおよしになってくださいませ」
「心配かけたわね」
莉奈は、照れたように顔を伏せた。
「本当に、ご無事でなによりでした。みんな待っております。さあ、帰りましょう」
「その前に、兄様のとこに寄っていくわ。船をお願い」
「かしこまりました。お早くお戻りくださいませね」
軽く一礼してから、拓巳たちとすれ違うように歩き始める。その姿を追って振り返った拓巳は、目の前の様子に目をみはった。
出てきた玄関は確かに莉奈の家だったはずなのに、振り返った拓巳の目に入ったそれは、卵のような大きな楕円形の物体になっていた。
「UFO……」
思わず呟いた拓巳に、莉奈が笑いをこぼす。
「地球の人から言わせれば、そうだわね」
「すげー……俺、UFO乗っちゃった……」
「帰る時に、もう一度乗れるわよ」
唖然として見上げる拓巳をひっぱって、莉奈は歩き出した。広いポートには、他には誰もいない。
「なあ、俺こんな頭で目立たないか?」
莉奈も、乳母というシルスも青く長い髪をしている。拓巳は自分の短い黒髪をがしがしとかき回しながら、落ち着きのない様子で聞いた。それを聞いて、莉奈は少しだけ表情を曇らせる。
「そうね。異星人もまったくいないわけではないから、多分大丈夫だと思うけど……あまり外は歩き回らない方がいいかもしれないわ」
「やっぱり、この星の人間でないのがばれるとまずいのか?」
「んー……ポーラムは一応国交を開いているけれど、今はかなり限定された種族としか取引がないのよ。というか……いろいろあって、異星人の来星には敏感になっているの」
拓巳は、人影のないポートを見回す。
「それでこんなに閑散としているのか」
「ううん、ここは王族専用のポートだから」
「王族?」
莉奈の顔が、あ、というかたちに固まる。隠すほどのことでもないが、なんとなく気恥ずかしくて言っていなかったのだ。
「この星は、星全体がまるまる一つの王国なの。現国王が私の兄様で、私は一応、王女ってことになるのかしら」
「莉奈が、お姫様?」
「地球で言うお姫様とは、ちょっとイメージが違うけど……星の統治者がすなわち国王で、私はその補佐くらいの感じ。いわば、働くお姫様、かな?」
「そうだよな。地球までわざわざお姫様が来ちゃうくらいだもんな」
「……他に人がいなかったのよ」
「そう言えば、一体お前、どういう飛び出し方をしたんだ? さっきの人、ずいぶん心配していたようだったけど」
「まあ、あの……」
歩きながら視線をそらした莉奈の、頬が微かに赤らんでいる。
「なんだよ」
「いいじゃない。それは、また。ほら、あの車に乗ってくから。拓巳、ああいうの好きでしょ?」
そこには、先ほどの莉奈の宇宙船とよく似た銀色に輝く小型の物体があった。つるんとした卵のような乗り物だ。