表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星空の船  作者: 和泉 利依
第二章
19/72

- 11 -

「じゃあ、もう地球には戻らないつもりなのか?」

 なぜだか不機嫌になった拓巳に、莉奈は不思議そうに首をかしげる。

「ええ、目的を果たしたから、もうここにいる理由もないし……」

「そうならそうと、なんで昨日、教えてくれなかったんだよ。そんなこと、一言も言ってなかったじゃないか」

「だって、言えないじゃない。実は私は宇宙人で、これから星へ帰ります、なんて」

「……高瀬や二ノ宮は、知っているのか?」

 その名前を聞いて、莉奈はわずかに視線を落とした。


「今日の帰りに、転校手続きをしてきたわ。明日になれば、私はまたアメリカに帰ったと先生がみんなに告げるはず。彼女たちが知るのも、その時に」

「なんでだよ」

 耳にした言葉の強さに、はっと莉奈は顔をあげた。

 拓巳が怒っているのを、莉奈は初めて見た。声を荒げるわけでもない。だが、まっすぐにみつめる瞳の底に溢れる怒りを認めて、莉奈は息を飲んだ。

「たとえ嘘しか言えないとしても、ちゃんとお前が言っていけよ。人任せにするなよ。お前にとってあいつらって……友達ってそんなもんかよ。何も知らされずに別れることになったあいつらが、どれだけ傷つくと思っているんだ」

 莉奈はおどろいたように、拓巳をみつめていた。そして、震えるような声で言った。

「そんなの……そんなはずないわよ」

「は?」

「私一人いなくなっても、別にみんなの生活は変わらないじゃない。そんなことでみちるちゃん達が傷ついたりするはずないわよ」

「お前……それ、本気で言ってるのか?」

 冗談を言っているわけではなさそうな莉奈の顔を、拓巳は唖然と見た。話の通じない莉奈の態度に、いらだたしげに言葉を続ける。


「お前がどう考えていたか知らないが、あいつらはお前のこと大事な友人だと思ってたはずだよ。もちろん俺だってな。そういうやつらからさ、倉本莉奈っていう大事な友達を勝手に取り上げないでくれよ。友達なんだから何でも話せ、とか言ってるんじゃない。ただ……もう会えなくなるにしても、ちゃんと納得して送り出してやりたいよ。いなくなったら、悲しい。当たり前だろ? お前は、俺……たちにとって大事な仲間なんだから」

 拓巳の言葉に莉奈は、唇を噛んでうつむく。

「だって……私は……」

 ピルルルルルルルル……

 その時、軽い機械音が部屋の中に響いた。莉奈が顔をあげる。

「兄様だわ」

「兄……様?」

「そう」

 莉奈は立ち上がると、机の引き出しをあけて中に手をつっこむ。そこには、簡単なパネルが光っていた。

「私の、たった一人の家族」


   ☆


「地球人……か」

「ごめんなさい、兄様」

「まあ、知られてしまった以上、仕方ないが……定時連絡がないから心配したよ」

 拓巳は、目の前の椅子に座る黒い長衣を着た青年を見た。


 本当にその場にいるわけではない。その青年は、ホログラムで莉奈の部屋に現れていたのだ。

 ようは3Dの電話だな、と拓巳が興味深く観察していると、ふいにその青年が拓巳のほうを向いた。

「拓巳くん、だね?」

 呼ばれて、あわてて拓巳は姿勢を正す。莉奈が翻訳ボタンを調整してそれを受けたので、拓巳にもその青年の言葉が理解できた。

「は、はい。梶原、拓巳です」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ