- 10 -
そうだ。いつも、拓巳はそうだった。あることをあるがままに受け入れる彼に、短かった生活の中で何度も救われてきたのだ。
「……お前が、ナイトフェアリー、だったんだな」
ため息と共にこぼれた言葉に、莉奈はびくりと肩を震わせる。
「なんで、こんなことしてたんだ?」
莉奈は、まっすぐ彼女を見つめる拓巳に姿勢を正した。
「こんな手段になってしまったけれど、あの石はもともと私のものなの。訳あってある火山の地中深く埋めておいたんだけど、そこの火山が噴火してしまって……。石を見失っているうちに、地球人に発見されてあんなかたちになってしまったのよ。盗んでしまったのは、本当に悪かったと思っているわ。けれど、返して欲しい、と言っても無理だと思ったし。だいたい」
ぎ、っと莉奈は拓巳を睨みつける。
「盗みに入るときにはちゃんと連絡を入れてから行くものだ、なんて思い込んだの、拓巳のせいなんだから!」
「そもそも、それじゃ泥棒にならないだろう」
「だって、日本には武士道とか、ほら、そういう精神があるじゃない? だから地球ではそういうものなんだって思い込んじゃって……おかげで、すごい大変だったのよ! 黙って忍び込んでいればもっと簡単に取り戻せたのに!」
「いやあ、そんな大ごとになるなんて思わなかったんだよ」
単純に莉奈をからかっただけのつもりが、まさか国際規模での勘違いに発展するとは思ってもいなかった。
文字通り髪を逆立てて憤慨する莉奈に、拓巳は怒られているにも関わらず嬉しさがこみあげてしまう。
そんな莉奈は、初めて見る。
これが、本当の莉奈なんだ。
「他の石じゃだめだったのか?」
話を戻して聞いた拓巳に、莉奈は気を落ち着けると首を振った。
「もう一つ石を用意するだけの時間はもうないの。私たちの星は、今、とても危険な状態に置かれている。星を救うために、どうしてもこの石が必要なのよ」
「それが、お前が地球へ来た理由?」
「そう」
莉奈の答えに、拓巳は腕を組んで天を仰いだ。
「泥棒が宇宙人てのは、想定外だなあ……」
「ごめんなさい。やっぱり私のこと……許してはくれない?」
うつむいて上目遣いで莉奈が聞く言葉に、拓巳は難しい顔を返した。
「どうしたもんかなー……窃盗は、許せることじゃない。だけど……」
はあー、と拓巳は深いため息をついた。
「俺は地球の警察官になりたかったんであって、宇宙までは管轄外だ。さすがに宇宙人までは逮捕できねーよ」
莉奈は、微かに安堵したような、困ったような笑みを浮かべた。
「ありがとう。……ごめんね。なんとか、地球での目的は果たしたわ。だから私、帰るの」
その言葉で思い出したように、拓巳は顔をあげた。
「で、この家は宇宙船で、今はお前の星へ向かっているところ、と」
「そう」