- 7 -
「その金網はチタン製だ。どんなに君の力が強いとしても、もう逃げ場はない。フランスの時のようにはいかないよ」
ぎゅっと眉間にしわを寄せた彼女の髪の毛は、せわしなく蠢いている。
「あきらめて協力してくれれば、危害は加えないと約束しよう。君本人にも、われわれは興味があるのでね」
そんなのは口先だけであると、誰もがわかっている台詞だった。興味があるのは確かだろうが、実際に高木は、生きているのがベストだがだめなら死体でもかまわないと言われている。
「できることなら使いたくなかった……ごめんなさい」
独り言のように呟いた声は高木には届かなかった。彼女は目を閉じると、この時のために用意しておいた小さな塊を頭上へと放り投げた。
カ!!
ほとんど白に近い青い光があふれた。静電気よりも強く、雷よりも弱い青いプラズマ。それでも人から自由と意識を奪う威力を十分に持った電気爆弾だ。
金網があることで安心していた高木たちは、それを抜けて差し込むプラズマをまともに受けてしまった。
「ぎゃっ!」
プラズマに撃たれた男たちが、次々にその場に昏倒する。一応死なない程度の威力だが、万が一心臓が弱かったりすると死に至る場合がないとも限らない。この場に出てくるような人間にそんな病弱な人間はいないとは思うが。
使いたくはなかったが、彼女はどうしてもここで捕まるわけにはいかなかった。
「ま、待て……」
感心なことに即座に気を失わなかった高木は、倒れた姿勢から顔をあげて、それでも彼女に銃を向ける。彼女は、感情のこもらない目でそれを見下ろした。
「……くっ……」
「自分達の星を捨てることではなく、救うことをまず考えなさい。確かにこのままでは、あなたたちの思う通り地球は滅びていくだけなのかもしれない……でも、ここはまぎれもなく、あなたたちの故郷……失くしてからでは、二度と取り返しがつかないわ。まだ間に合う。自分達だけ助かろうなんて考えないで、その力をこの星のために使って」
「お前、やっぱり……計画……」
彼女に向けていた銃口が、力を失ってごとりと床に落ちた。高木は、完全に意識を失っていた。
それを確認すると、彼女はゆっくりと深呼吸をして息を整える。高木のまいた催眠ガスは、彼女には全く作用しない。それは高木も承知だ。
彼らが邪魔だったのは、何も知らない警官達だった。
もうこの場所に用はない。彼女は、倒れてる男たちの間を素早く動き、死んでいる人間がいないことを確認する。そうしてから、開け放たれている窓へと足を向けた。
と。そこにいた人物に、彼女は思わず目を瞠はる。向こうも驚いたように動きを止めた。月の光に逆光となっていても、彼女はその人物を間違えたりしない。
「莉奈……?」
そこには、割れた窓から今しも中に入り込もうとしている拓巳の姿があった。彼女の姿は、この部屋に入ってきた時とは逆に、月の光に照らされて暗闇に浮かび上がる。
「お前、なんで……」
「拓巳……」
高木達と渡り合っていた時には凛として清んでいた声は、予想外の人物の登場に、細く震えて消えた。
莉奈は拓巳が、確かに建物の外に放り出されたことを確認していた。その後、建物の入り口をすべて塞いで誰も入れないようにしておいたのに。
まさか、壁を登ってくるとは。
「莉奈」
呆然とした声で呼ばれて我に返った彼女は、とん、と彼の上を飛び越えて外へ飛び出した。
「待てよ!」
呼ぶ声にも振り返らず、莉奈は、夜の闇に消えた。