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星空の船  作者: 和泉 利依
第二章
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「カテラルムライトがどんなに危険なものか。利用されてはならない。だから、小さく分割して世に出した」


 カテラルムライト。それが、『海の涙』の元となった石につけられた名前だ。

 もう一年以上前のことだ。日本の地質学者イシカワリョウスケは、とある島で噴火した火山の調査をしていた。そこで彼は、青く美しい石をみつける。他のいくつかの鉱物と一緒に、イシカワは、アメリカの大学で鉱物学を研究しているジョーンズ・マクフォール博士にそれを送り調査を依頼した。

 結果から言えば、イシカワがみつけたその石は、隕石の一種であり非常に特殊なものであることが判明した。


 その石の存在を知った航空宇宙事業に関係のあるものたちは、にわかに色めきたった。分析された性質から、その石は、宇宙空間でしかなし得なかった数々の実験を、地上にいながらにして可能にすることができることがわかったのだ。

 地球上で初めて発見された鉱物。つまりそれは、ほかに代わりがないことを意味する。小さなその石をめぐって、いくつかの組織で奪い合いがはじまった。

 まだカテラルムライトの所有者であったイシカワ博士は、その状況に心を痛めた。そしてその石を小さく分割して宝石として人の目にさらすことで、その存在をあきらかにして悪用を防ごうとした。

 だがそれは、彼女の予定を大きく狂わせる結果となった。


「火山の地熱を利用して精製するのが目的だった。まさか、これを埋め込んだ火山が噴火してしまうなんて思わなかったわ。発見されて、その上ばらばらにされてしまったと知った時には、心臓が止まるかと思った。でも、幸いこれは溶かすことが出来る。また一つにすることができるの。だからあきらめずに集めてきたわ。これが、最後の一つ」


 カテラルムライトは全部で五つの宝石となって、イシカワの願いどおり世界中に散っていった。だがそれも、どんな手をつかってもそれを手に入れようとする者たちにとっては、目的を遂行するのに障害となりはしなかった。彼女がそうしてきたように。

 ほとぼりが冷めた頃を待って入手しようとしていた彼らは、最初の一つを盗まれたのは偶然だと楽観していた。だが、二つ目を盗まれたと聞いて慌てふためいた。その犯罪者は、確かにその石だけを狙っているということがわかったのだ。五つの石を秘密裏に手に入れようとしていた彼らはおおっぴらに動くことも出来ず、こうして彼女とおっかけっこをする羽目になったのだ。

「足を狙え」

 銃口の狙いが変わる。

 彼女の髪が、ざわりと蠢いた。宝石を狙う彼女との対峙も三度目となると、高木は最初の時ほど驚きはしなかった。まして、彼女の正体をほぼ知ってしまった今となっては。

「まるでメデューサのようだね。まさかこの現代において、そんな神話じみた体験を自分ですることになろうとは……悪い冗談のようだよ」

 軽い電子音が響いて、『海の涙』が入っていたガラスケースを囲むように天井から金網が落ちてくる。

 彼女は、『海の涙』とともに、金網の檻に閉じ込められた。淡く光る石を持ったまま彼女は、ぐるりと周囲を見回した。


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