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「おや?」
イシカワは、座り込んで地面を探っていた手を止めた。真っ黒に焼けた石の群れの中で、場違いな色がちらりと目をかすめたのだ。半分以上地面に埋まっていたそれを取り上げて、軍手をはめた手で擦ってみる。汚れが落ちた部分から、その内部が見てとれた。その石は、水晶のように透明でほんのりと青い色をしていた。
「ほー、これは……」
イシカワはそれをしばらく見つめた後、『要調査』とかかれているダンボールの中にそっと収めた。
「なんかおもしろいものありましたか?」
同じように座り込んで大地を調べていた助手のイトウが、興味深そうに顔をあげた。
「うん? そうだね。見るかい?」
イシカワは、今収めた石を取り出して、イトウに渡した。彼は、イシカワが汚れを落とした部分を覗き込む。
「大きいな。ずいぶん透明度の高い鉱物ですね。この色はカイヤナイト……にしては、丸いしへき開面もない。アパタイト、かな……噴火後の鉱物にしては、珍しいものが出てきましたね」
「これほど密度が高いということは、溶岩の中から飛ばされたものではなく、最初からここらへんにころがっていたもかもしれないな。いずれにしろ、磨いたら美しい宝石になりそうな石だね」
それを聞いてイトウは破顔した。
「しらばっくれて売っちゃいましょうか。研究室の冷蔵庫、最近あんまり調子よくないんですよねー。新調したいんですけど、予算がなくて……」
「そういうことを堂々と言わないように」
イシカワは、浮かれる助手に苦笑した。
イシカワたちが調査を行っているのは、日本の東に位置する国立公園の中だ。資料として申請する鉱物以外の持ち出しは禁止されている。
「でも、ここらへんは特別地域じゃないからそれほどうるさくは言われないでしょう。ここらへんには何の鉱脈もないはずですし」
立ち上がったイトウは、伸びをしてからぐるりとあたりを見回した。イシカワの研究所の人間が、何人も同じように噴火の跡を調べている。
その火山の噴火は、何の前触れもなくいきなり起こった。幸い、小規模で無人島での噴火だったため、被害は今のところ確認されていない。
「しかし、まさかここが噴火するなんて思いませんでしたよ。確かに休火山ではないので噴火自体はおかしくないでしょうけど……」
「ああ。余震もないし、続いてまた噴火することはなさそうだ」
「噴火したての地質調査なんて、めったにできないですしね。わくわくするなあ」
「そうだな」
イシカワも立ち上がる。ずっと前かがみで固まっていた腰を、思い切り伸ばした。自分では若いと思っていても、年々フィールドワークが辛くなってくる。
「明日からは機材も入って本格的なボーリングが始まる。今日のところはここまでにしようか」
「はい」
イトウは、イシカワの言葉を伝えるために、あちこちに散らばった研究員たちに声をかけにいった。それを見送って、手元に返された石を持ち上げ光にすかしてみる。石を通った太陽の光は、澄んだ海のようにも晴れた空のようにも見える色になった。
「青い石……か」
そうして、またそれをダンボールの中にしまった。
この噴火が、一人の少女の運命を変え、そして、少年は、少女と出逢った。