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ゆきだるま

作者: 銀子

 ある雪の降る日、僕は作られた。家の前に、小さな男の子の手によって。


「出来た! 完成だ!」


 男の子は背伸びをして、僕の頭にバケツを乗せてくれた。僕より、少し小さい男の子。僕は、こうしてこの子に命を吹き込まれた。小さな男の子の小さい手によって。


「君の名前はまる! まるから! 宜しくね!」


 男の子は僕に名前を付け、にっこりと微笑んだ。まる、いい名前だね。これから、少しの間だけどよろしくね。

 その日の夜、また雪が降った。太陽が出ていなければ、僕はここにいられる。せっかく作ってもらったんだ。もう少しここにいたい。きっと、あの子は朝になると僕に会いに来てくれると思うんだ。


「おはよう! 良かった! まだ溶けてない!」


 ほらね。男の子は来てくれた。こうして一緒にいられるね。


「でも、何かあれだね。まる、1人じゃ寂しいね」


 男の子は、うーんと考え込んだ。確かに寒い夜の日、1人でいるのは寂しい。でも、君がいれば僕はそれでいいんだよ。もし、僕が動けて君とおしゃべり出来たら、僕は君にお礼が言いたいんだ。僕を作ってくれて、ありがとうって。一緒に遊んでくれてありがとうって。何回言っても言い足りないさ。


「んしょ、んしょ」


 男の子は僕の隣に、僕より少し小さい雪玉を置いた。また、直ぐにどこかから雪をかき集め、今度は頭を作っている。


「今作っているのは君の弟だよ」


 転がしてきた雪玉を僕の隣の雪玉に乗せた。小さい僕の弟。僕に弟が出来た。何だかちょっぴり嬉しいね。


「これで、まるは寂しくないね」


 男の子はそう言ってにっこりと笑った。

 男の子は僕の弟にゆきと名付けた。男の子がいない時は、僕はゆきとおしゃべりした。ゆきは生まれたばかりなのに、しっかりした子で、僕よりも大人びていた。


「人間はどうして僕達を作るんだろう。溶けると知っているのに」


 ゆきはそう言った。確かにゆきの言う通り、僕達は何日も持たずに溶けてしまう。それでも、僕は作ってもらえて嬉しい。作ってもらえなかったら、僕はこうして自分をもてなかったし、男の子にもゆきにも会えなかった。それだけでも、じゅうぶんなんだ。でも、ゆきは違うのかな。

 男の子は毎日会いに来てくれた。崩れてしまうと、雪を貼り付け、直してくれる。だけど、僕より小さいゆきは日に日に小さくなっていく。いくらこう、毎日寒くたって僕達は少しずつ溶けて行くんだ。そんな中、男の子は僕の隣に今度はゆきよりも小さい妹を作ってくれた。


「名前は、小さいからこゆきだよ。まると、ゆきの妹だよ」


 男の子はそう言って笑う。僕も家族が増えると嬉しい。でも、ある夜のことだ。僕達はいつも通りそこにいた。いつもと違うのは、男の子の家の前を酔っ払いの男の人が通ったんだ。ふらふらしていて、見ていて危なっかしい。


「うぃ~、ったくよー。俺はちゃんとやってるっつーの!」


 ふらふらと歩く男の人。男の人は僕達に気づいた。


「おー? 雪だるまかー?」


 男の人は僕達に近づいた。僕は祈っていた。どうか何もされませんようにと。でも、その祈りは届かなかった。


「あぁ!? 何見てんだよ!」


 男の人はこゆきを蹴り飛ばした。小さなこゆきはそれに耐えられず、頭が胴体から落ちた。僕もゆきも声をかけたけど、こゆきは返事をしなかった。僕達は妹の死を悲しんだ。

 朝、男の子はこゆきが壊されていたことに気づき、ワンワンと泣いた。大粒の涙が雪の上に落ちるのを僕は眺めていた。

 晴れた日が続くようになった。ゆきは限界が来ていた。男の子が必死で直すが、間に合わなかった。ゆきはついに溶けてしまった。男の子はまたワンワンと泣いた。僕は1人になった。


「またすぐに作ってあげるからね」


 男の子は涙を拭い、そう言ったけど、雪だるまを作るのには雪が足りなかった。あれから雪も降らずに溶けていく一方だ。きっと、僕も時間の問題だろう。僕は、男の子にさよならと言った。ありがとうと言った。届いたかな、僕の気持ち。

 僕が溶けて、男の子が泣いたかどうかは、僕にはわからなかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 溶けても時間の問題だけれども「またすぐにつくってあげる」気持ちが、とてもやさしさが、でているなと思います。 [一言] 一人娘が、いるけど、できたらもうひとりいたらなあと思います。
2014/08/03 14:19 りんら一人娘が、いるけど、できたらもうひとりいたらなあと思います。
[一言] 最後の切ない終わり方すごく好きです。
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