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09 埋めたい時間

 水沢七海から連絡があったのは、翌日の事だった。


「――オッケー。駅まで迎えに行くよ」

『え? いいよ。そこまでは』

「荷物あんのに、バスは大変だろ? 何時に着く?」

『えっと……六時二十八分着、の』

「分かった。ロータリーで待ってるから」

『うん……。ありがと。またね?』

 そんなワケで、大学最寄り駅のロータリーで、彼女を待つ。

 同じように迎えの車が多く、混雑している。


 そんな中、ミラー越しに見つめる駅の出口に、ボストンバッグを抱えた七海の姿を見つけ、車を降りる。

「七海。お疲れ様」

「和くん。わざわざありがと」

 黒髪を後ろに纏めた七海は、バッグを抱えて歩み寄ってくる。

「バッグ持つよ? 貸して?」

「あ、ありがと」

 七海のバッグを持ち、車へと戻る。

「助手席乗って?」

 和人は七海にそう言って、後部座席にバッグを載せる。

「さって、ナビしてもらわないとな? とりあえず大学まで行くから、そっから教えてくれ」

「うん。わかった」

「んじゃ、行きますか」

 夕暮れの中、車を走らせる。

 ちらっと盗み見た七海の表情は、楽しそうに見えた。



 七海のアパートは、大学から徒歩十分て所か。

 この近くに住んでる仲間、誰かいたかな……。

「ごめんね? お待たせ」

 荷物を置いた七海が戻ってくる。

 せっかくだから、ご飯行こう、と。

 七海から言われて、断れるワケも、断る理由も無く。

「何食べたい?」

「んー。パスタかな」

「了解」

 疲れてるだろうし、近くの方がいいかな。

 ということで、大学からさほど遠くない洋食屋に連れて行く。


 七海は席に着くや否や、うーん、と大きく伸びをした。

「さすがに疲れた?」

「うん。三時間くらいかかるからね」

「そんなにか。そういや、向こうって、どんなとこ?」

「えーとね……」

 ゆっくりと、話を聞く。

 七海が十年過ごした街の様子や、中学、高校の話。

 和人も少し中学や高校の話をしたけれど、専ら聞き役に徹していた。

 メインからデザート、食後のティータイムになっても、話は終わらない。


 わずかでも、空白を埋めたくて。


 七海の一挙手一投足に注目していた。

 彼女との時間は、非常に柔らかな時間、とでも言おうか。

 言葉の速さ、間、それらに違和感を感じない。

 むしろ、心地良くもある。

 ゆったりとした空気だけじゃなく、どこかほんわかとした気分にさせる。

 ちょいちょい天然ボケが炸裂するあたりが要因かもしれないが。



「うーん。満足ー」

 二杯目の紅茶を空にした七海が、満ち足りた声を上げる。

 そんな七海をゆっくりと眺める。

 いや、別にヘンな意味じゃないですよ?

「んー? 何?」

 そんな和人の視線に気付いてか、七海が微笑む。

「なんか、今でも信じられないんだよ。七海がここに居る、て事がさ」

 夢なんじゃないか? と思うこともある。

「私も、だよ? こっちに進学決まって、もしかしたら、とは思ったけど。前期の間、学校で見た事無かったし」

 まぁ、学生の数、かなり居るからね。

「夏会で和くん見て、びっくりしたもん。思わず柳先輩に、あの人誰ですか? って聞いちゃったし」

「そうなんだ? で、柳は俺の事、何か言ってた?」

「高校からの同期だって。それだけだよ?」

「そう。七海も、柳には何も言わなかったんだよな?」

「うん。だって確証なかったし」

 うんうん。整合性は取れてるな。

「そか。悪いんだけど、皆には、君との関係、話しちゃったんだよね」

「えぇ? 皆って誰に?」

「柳に井上だろ。後は司と愛さんのコンビ。そんなもんか。あ、寺岡兄には言ってないぞ」

 指折り数えながら言ってみせる。

「まぁ、言って悪い事じゃないけど。そういえば、私も詩織には言ってないや。ま、いっか」

 いいのかよ? とツッコミを入れたくなるけど。

「さ、そろそろ帰るか? 今日はゆっくり休まないと、な?」

「うん。そうだね」

 お礼だからといって、伝票を奪われた事だけが心残りかもしれない……。



「ありがとー。今日は安眠できそう」

 七海の満面の笑みから発せられる言葉。

 いや、反則です。

「ゆっくり休みな? またいつでも呼んでくれ」

「うん! 今度は遊びに行こ? ね?」

「オッケー。楽しみにしてる」

「それじゃ、バイバイ!」

 手を振る七海に、和人も手を振り返して、車を出す。


 夜の街を走り抜ける。

 今日の七海の笑顔は、確実に記憶に残っている。

 でも、記憶の中の少女は、泣いたまま。

 今日は、共通の思い出の話は、出なかったな……。

 和人の胸に去来する、微かな不安と安堵。

 話すれば、思い出すんじゃないか、って思ってたけど。

 結局、思い出せなかったな。


 ほんと、何でなんだろう……?

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