51 つながり
「それじゃ、今日も盛り上がっていこう! 乾杯!」
GW恒例の春会だ。
新入生も数人いて、また人数増えたな、これ。
和人は今回も七海を連れての参戦だ。
当然のように司も愛と共に、恵美も沙紀も参加している。
寺岡兄妹は家の事情で不参加だそうだ。残念……。
さすがに田上の姿は無いけれど、二次会には合流するらしい。
「楽しまなきゃ、ね♪」
和人は七海の言葉に頷いて、グラスを干す。
「ほほう。んじゃ、お姉さんが惚気話を聞いてあげようじゃないの」
隣に来た沙紀の声だ。
「井上……いちいち茶化しに来るんじゃない」
「ウッチー冷たーい。何でそんなにクールかなぁ?」
「照れ隠しですよ。先輩」
「あれ、そうなの?」
横からの七海の口出しに、沙紀の目がキラリと輝く。
「余計なこと言うんじゃない。ったく……」
「あはは。そんなウッチー、貴重かも!」
相変わらずテンションの高いヤツだなぁ。
まぁ、これはこれでいつも通り、かな。
いたっていつも通りのペースで、春会は進んだ。
七海も何気に飲める口で、そこそこに杯を重ねていた。
多分、二次会はカラオケだろう。
ペース上げすぎると、後がキツクなる、か。
「七海」
「うん。大丈夫」
自然と、お互いの言いたいことが分かる。
空白の期間はあっても、そこに至るまでの時間は短かった。
「連れ添った夫婦みたいだな」なんて言われた事もあるけれど。
最高の褒め言葉として、受け取らせて頂こう。
個人的には、司と愛さんの方がお似合いの言葉、だと思うんだけどね。
柳のところは、どうなっているのやら。
「一年前のキミ達みたいよ」と愛さんが言っていたが。
まぁあの二人なら、変なことにはならないだろう。
焦る必要も無いと、考えているのかもしれない。
「あー今日も楽しかったー!」
カラオケを終え、満ち足りた声を上げたのは沙紀だ。
井上の奴、歌声に磨きがかかった気がする。
「んじゃ、私達は先帰るねー!」
そう言って沙紀は歩き出す。
片手に、谷島太一の手首を引っ張りながら。
その姿を皆、呆然と見送っていた。
「なぁ、愛さん」
和人は思わず愛の顔を見る。
愛は何も言わず、肩を竦めただけだった。
「ま、何かあれば連絡くるでしょ」
柳の言うとおり、別にトラブルでは無いし、問題は無いだろうけど。
見渡せば、残っているのは六人だけだった。
司は愛さんの所に泊まるのだろう。
柳は……と思い田上に目をやると、彼は指でキーを回していた。
「僕は車なんで、乗せていきますよ」
田上はそう言って、すっと恵美の背中に手を回す。
恵美はいつも通りの微笑みを浮かべたままだ。
そういえば、田上はいつの間にか馴染んでるなぁ。
「んじゃ、俺らも帰るか?」
「そうね」
司は愛の手を握ろうとしたのか、手を伸ばしたが、それを愛がピシャリと叩く。
一回くらい、デレてるところを見たいものだが。
代償に何を握られるか分からないので、そんなことは言えないけれど。
「帰ろ? 和くん」
「そうだな。んじゃ、またな」
それぞれがそれぞれに手を振って、ひと時の別れを告げた。
皆それぞれ、形は違う。
それぞれに光り輝いている。
でも今は、まだ小さな欠片。
現実と戦う、少し前。
それが短い時間だということは、それぞれに分かっている。
だからこそ皆、傍に居る人と繋がっていたいんだ。
「明日、行くんでしょ?」
「ああ。早めに出ないとな」
明日から、七海の実家に行く予定になっている。
「リアクションが楽しみのような、不安のような……」
「あはは。大丈夫だよ。心配いらないって」
和人の微かな不安を、七海は笑顔で吹き飛ばす。
「もし文句言われたら、私が家を出るからさ」
……ん?
「……どこまで話を飛躍させるつもりだ?」
和人の言葉に、七海は軽く肩を竦めた。
「気が早いな。そんな意味の挨拶をするつもりはないぞ?」
「分かってるよ。今はまだ、ね?」
七海は言葉と同時に和人の腕にしがみつく。
そして腕を組んだまま歩き出し、ゆっくりと和人の顔を見上げた。
「離すつもりないもん」
そんな甘えの入った七海のセリフに、和人は微笑みで応える。
俺だって、そんなつもりは無いさ。
腕に感触を感じながら歩いていく。
ほどなく、七海の住むアパートが見える。
部屋に入るなり、和人は七海を抱き締めた。
七海はちょっと驚いたようだったが、すぐに腕を回してきた。
「……ありがと」
一言囁いて、軽く唇を重ねる。
そんな様子を、机の上の二つの小さなクマのぬいぐるみが見守っていた。
~Fin~
本編完結です。
本編に入らなかった部分を番外編として掲載しています。
ここまで読んでくださった皆様に、厚く御礼申し上げます。
ありがとうございました。




