04 障害物は友人達?
アイツ、元の座席どこだっけ?
戻った部屋の中で、自分の座っていた所を占有している仲間をみて、ちょっと考える。
が、すぐに無駄な事と悟り、未使用のグラスを片手に空いている席を探しながら、彼女の姿を探す。
あそこに居たんじゃ、割り込んで話聞くのは無理だな。
その姿を視界の端に捕らえながら、和人は手近な空席に腰を下ろした。
「ウッチー、お帰り」
隣の席は井上沙紀だった。
「ただいま。そこのビール取って?」
「はい。どうぞ?」
沙紀は笑顔で和人のグラスに酌をする。
「今だけだからね? 私のお酌は」
「それだけ言えりゃ大丈夫だな。んじゃ、大事に味わうかな」
「ふふ。ウッチーも誰か捕まえりゃいいのに? 先輩からはもう、連絡ないんでしょ?」
「ぶ! 危うくこぼすところだったじゃないか!」
井上の言葉に思わず噴き出す。グラスに口をつける直前でよかった。
「ごめんごめん」
「たく。まぁ、確かに無いね。もう終わった話だって、前にも言ったじゃん」
「そうだね。じゃ、気兼ねする事は無いじゃん?」
「まぁな。先輩の事は、いい思い出のままにさせとくよ」
以前の集まりで、和人は高校時代の付き合いを暴露させられていた。
いや、賭けに負けた俺が悪いのかもしれないけど。
高校時代、一年だけ付き合った先輩がいた。
和人が一年の時、文化祭実行委員会で同じ部署に割り振られた一つ上の先輩と親しくなり、二年に上がる春に告白をされた。
一年付き合っていたが、先輩の大学進学と共に関係は解消になってしまった。
大学で待ってると言ってくれて、時々連絡をくれたけれど、結局同じ大学へ進学することは出来ず、連絡も徐々に少なくなり、自然消滅となっている。
「いっそ、誰か紹介してくれない?」
「何よ? ウッチーらしくないんじゃない?」
「たまにはそう思うこともあるさ」
「へぇ。まぁ、気が向いたらね?」
「気長に待ってるよ」
「紹介なんかしなくても、ウッチーは人気あると思うんだけどなぁ?」
「いやいや、井上に言われても信じられんて」
「皆がウッチーのこと、分かってないんじゃないかな?」
ん? ちょい前に別れた報告をした方に慰められてる?
「んじゃ、井上を本気で口説こうか?」
「私? 本当に本気でくるなら、受けて立つよ?」
沙紀は飛び切りの笑顔で切り返してくる。
「冗談だよ。ま、元気になったな?」
「ふふ。分かってる。ありがとね」
「いえいえ。どういたしまして」
和人は井上から視線を戻し、グラスを空にする。
手酌でグラスを満たしながら、談笑が続く。
あ、ちなみに俺の誕生日は六月なので、二十歳になってますよ。
念の為。
移動してきた太一や司の相手をしつつ周りを窺うけれど、なかなか彼女へアプローチする隙が窺えない。
俺はスナイパーかい。
じりじりと、時間だけが過ぎて行く。
まぁ焦ってるワケじゃない、つもりだけど……。
「んじゃ、そろそろ中締めするよー」
幹事役の宏の言葉に、皆だらだらと動き始める。
結局、話は出来なかった、か。
神は我を見放したか……。
まあ、どちみちこんな状況じゃ、ゆっくり話は出来ないだろうけど。
皆は、店の前でだらだらと話ながら、幹事が出てくるのを待っているようだ。
「さ、次、カラオケ行く人?」
井上沙紀が、二次会の声を上げる。
どうすっかな。
悩む和人の肩を、後ろからガシっと組んでくる奴がいる。
「ウッチー、行くよな? 井上、二人追加ー!」
「司か。ったく、しょうがないな」
宿の借りもあるし、ここは乗っかるとしよう。
「オッケー。司君とウッチーね?」
「よろしく!」
面子がまとまるにつれ、少しずつ散っていく仲間もいる。
帰る者、別に二次会へ行く者。
結局、沙紀の下、カラオケに行くのは八人ほどだった。
いつもの店に歩き始めた面子を、さらっと眺める。
言い出した沙紀の横に柳恵美。
その後ろに、俺と鈴木司。さらに後ろに寺岡宏と谷島太一。
最後尾には、寺岡詩織と水沢七海。
これはまだ、チャンスはあるな。
さて、どうするか……。
司の言葉に生返事を返しつつ、思案に耽る。
あの流れを、どうやって脱するか……。