30 親友
楽しかった旅行から二週間が過ぎ、後期の授業が始まった。
授業はいつもと変わりなく、こっそりメールをしてみたり、代返を手伝ってみたり……いや、俺はちゃんと受けてますよ?
周りも特に変化は無く、思い出せない記憶も変化は無い。
そして恵美の態度にも、何の変化も見られなかった。
あれが、本当に現実だったのか。
そんな疑問が浮かぶくらいだ。
でも記憶には、感触が鮮明に残っている。
そして、あの眼差しも。
今思えば、あれは背中を押しているのかもしれない。
自分も覚悟を決めろ、と。
それらが、和人の焦燥感を駆り立てる。
「ウッチー、ちょっと付き合えよ」
司から呼び出されたのは、そんな頃だった。
指定された空きゼミ室で、司を待ちながら外を眺める。
今日、一雨来るかもしれないな。
雨の日は、憂鬱になる。
昔から、そうだった。
「ウッチー、待たせたね」
「司。大して待ってないさ」
司は缶コーヒーを二本机に置くと、和人と向かい合う様に椅子に座る。
「珍しいな? お前が話したいなんて」
「あぁ。ちょっと気になってな……」
珍しく、司の歯切れが悪い。
和人は缶コーヒーを開けて、司の言葉を待つ。
「何つーかさ、言いにくいんだけど」
「……らしくないな? 司」
和人の言葉に返すように、司が口を開く。
「……お前、柳と何かあったのか?」
あれま、直球だね。
さすがの姫も、話は通してないのかね。
「何で、そう思う?」
「距離感が、遠い気がするんだよ」
その言葉に、和人は思わず大きく目を見開いた。
普段と変わらない、つもりだった。
また、そう振る舞える、という自信もあった。
だからこそ、親友の言葉に驚いてしまった。
そして当然、司はそれに気付く。
「心当たり、あるのか?」
「ふぅ……司に感づかれる様じゃ、俺もまだまだ、だな……」
軽く天井を見上げて息を吐き、言葉を発する。
「ウッチー! 俺は心配して……」
「司。これは、俺とアイツの間の話で、それに関しての認識は一致してる。でも、心配かけたことは、謝るよ。ごめん」
和人は軽く頭を下げる。
「……事情の説明は、出来ない、か」
「すまん。全部片付けば、話せる日も来ると思う。いや、話すよ。お前には、な」
「そうか……。分かった」
「ありがとう。それより、お前以外に、そういう事言ってる奴、いるか?」
それ次第で、考える事も出てくる。
「いや、聞いたことは無いな。俺は付き合い長いから、何となく変な気がしただけさ」
さすがだよ、司。
「そっか。じゃあ、もし他の誰かが、そういう事言ったら、否定しておいてくれよ?」
「あぁ、分かった。だが、本当に、大丈夫なんだな?」
司の言葉に、和人ははっきりと頷く。
「分かった」
司は渋々だが、納得の表情を浮かべた。
「あ、愛さんには、今の話、ありのままに伝えていいぞ?」
「愛に?」
「ああ。お前が変に気にしてると、バレるだろ? だったら言っておいた方がいい。こういう事あった、ってな」
彼女は事情を把握している、はずだから。
これも一種の共犯、ですかね?
「そこまで気遣われちゃ、俺の立つ瀬が無いぜ?」
「親友からの助言、だよ。素直に受けとっとけって」
「やれやれ。そんな事言われたら、どっちが話をしに来たんだか、分からなくなっちまうよ」
「そう言うな。俺に口では勝てないの、分かってるだろ?」
和人はそう言って司の肩を叩く。
「話してくれて、ありがとな。それから、コーヒーも」
「ああ」
「んじゃ、飯行こうぜ?」
司を促し、ゼミ室を後にする。
いかに親友と言えど、真実は語れない。
ごめんな、司……。




