17 気付いてはいけないこと?
「――。それが、今でも後輩に語り継がれる文化祭」
恵美は、ペットボトルの紅茶を口に含む。
もう残りはほとんど無いけど。
「へぇ……ウチの学校のは、盛り上がらなかったからなぁ。羨ましい、かな」
ちょっと遠い目をする愛。
あの時、あの場所に居られた事は、一生忘れないと思う。
「で、結局、生徒会には入らなかったんだ?」
「そうね。二人とも、固辞したね」
「内田君は分かるけど、メグは何で?」
「私はね……」
あの時、受けていれば副会長か書記に上げられただろう。
だけど恵美には、白石先輩のように出来る自信が無かった。
それに元々実行委員ですら、請われて受けたにすぎず、本来通りやる気がある人物が立つべき、と思っていた。
その選択に、後悔はしていない。
私は、白石先輩に憧れていただけ、だから。
いつから、とは、はっきりと言えないけれど、先輩が生徒会に入ってから、だと思う。
あの人のようになりたい、と。
でも、一緒に仕事をするうちに、無理だと思ってしまった。
私は、あの人にはなれない、と。
「だから、生徒会入りを断ったのか」
「そう。皆、不思議がってたよね」
当時を思い出すと、笑みがこぼれてくる。
ふと、思う。
あの人のようになりたい?
あの人のどこに?
能力? 立ち振る舞い?
何か、違う……。
思い浮かぶ、白石先輩の姿。
色素の薄い髪を揺らし、そっと微笑む姿。
皆を鼓舞する、凛とした姿。
その影には、いつもウッチーが寄り添って……。
……寄り添って?
ウッチーが?
ああなりたい?
ウッチーが傍に寄り添って……?
恵美は首を振る。
そんなわけ、ないじゃない……。
そんな事って……。
いや、でも、あの子と付き合ってる時は?
一つ年下の彼と……。
真似、してた?
そう、ありたい、と……?
そんな……。
今更、思い当たるなんて……。
「メグ、どうしたの?」
愛の言葉に、はっと我に返る。
「何でも、ないわ……」
「そう? でも諦念、ねぇ。内田君の過去に、いったい何があったんだろう?」
それは、ずっと気になってるけど。
でも、今は……。
恵美はもう一度頭を振ると、立ち上がった。
「さ、昔話はこれでお終い」
「んじゃ、飯でも行きますか?」
司の言葉。
ここで引くのも、不自然よね。
恵美は一瞬のためらいの後、頷いて机の上を片付けた。
気付けば、外は夕闇に覆われていた。




