03
響也さんが出て行って代わりに秘書の野中さんが訪ねてきた。
「はじめまして、亜美さん。私は響也さんの秘書をしております野中 良二と申します」
この人も綺麗な顔立ちだった。20代後半位だろう。響也さんの秘書と言うだけあってとても優秀そうな感じだ。
「はじめまして。皆川 亜美です。ご迷惑おかけすると思いますが、よろしくお願いします」
「こちらこそ。では早速ですが、亜美さんにしていただきたい事がございます。明日からで構いませんので、まずは響也さんの周りにいる人物を覚えていただきます。これは、今後パーティーなどに出られる時、必要となってきますので必ず覚えてください」
「わかりました…」
「それから、テーブルマナーなどはわかりますね?」
「はい。一応出来るとは思いますが・・・」
「ご不安のようでしたら、専用の家庭教師をつけさせていただきます」
「い、いえ!大丈夫です!」
人物を覚えるだけで精いっぱいなのに、テーブルマナーまでなんて、到底無理だ。
「そうですか。では後は後々ご説明していきます。とりあえずは重要人物を覚えていただくことに専念してください」
そういうと、野中さんは部屋を出て行こうとした。
「あ!あの!私は普通に仕事に行ってもいいんですよね?」
うっ。怖~・・・。
振り返った顔は無表情でくだらないことを聞くなと言わんばかりだ。
「・・えぇ。もちろんです。他にご質問はないですか?」
「・・・はいい・・・・」
「それでは失礼します」
言うと同時に扉が閉まった。
もうすでに、泣きそうな感じだ。
「はぁ・・・。もう今日は色々なことがありすぎて疲れた・・・。とにかく寝て少しでも体を休めよう・・・。」
ベットに寝転ぶと、相当疲れていたのか、すぐに寝息をたてて眠ってしまった。
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「亜美様、おはようございます」
「…ん……。まだ眠い……。もうちょっと……」
「亜美様。起きてください!」
いつもと違う雰囲気に目を覚ました。
「おはようございます」
そこには恰幅のいい女性が立っていた。
「…おはようございます…」
頭がすっきりしてきて、ここが自分の家ではないことを思い出した。
「私、この家のメイドをしております早苗と申します」
「…あっ、はじめまして。私は皆川亜美です」
「ふふっ。もちろん存じ上げておりますとも。あのご主人様のご婚約者を生きている内にお目にかかれるとは、夢にもおもいませんでした」
その顔はまるで、母親が子供を見るときの顔そのものだった。
「でも、響也さんはモテるみたいですから、結婚相手なんてすぐ見つかりそうに思うんですが…」
「…えぇ。ちょっと前までは、夜寝るためだけにそういう女性をお連れになった事はございますが…」
あまり思い出したくなかったのだろうか。目をつむると眉間にシワが寄っていた。
「でも、今はこんな亜美さんという可愛らしい婚約者様がいらっしゃっいますからね。そんな事ももうないでしょう」
早苗さんは、ニッコリとこちらを見て言った。
「そんなこと…」
本当の婚約者じゃないからないとは言えません。
とは、口には出せない。