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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
単独ライブ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/60

2-7-6 トラブルだってライブなんだよね、決めろ!

mcRC「この小説の歌は実際に聴けるから、聴きながら読んでみてくれよな」

聴く場合はこちら:

コピペしてブラウザに貼り付けて、、、。とぶぞ。


THAT’S LIVE

https://youtu.be/ujqsLz2TWQA?si=MmEQcLI5hnIdcJpq


green light

https://youtu.be/YR4ECQMRI9E?si=gXQ5EDmQWGXRzpYt


ESCORT

https://youtu.be/U-FlEKJfJ9U?si=m_t-jL5suG1I4umI


Reverse Crown/リバクラ

https://youtu.be/FI0rcVj1WUA?si=YTlhx_1Sq_TaV9Qe


DESTINATION

https://youtu.be/JTYqNX2aSEM?si=XiPvuQManbc7qZ__


UNSEEN HANDS

https://youtu.be/-7JI-GA7Jkg?si=1bDm7SNAOzQLAYts


THAT SEAT

https://youtu.be/RroRseSoJ_8?si=hIIpjx5z-IxxfnTJ


BBQ

https://youtu.be/EtMf8rkKn_0?si=fOf9lmgp2QZR2MKR


HOMEBASE

https://youtu.be/ARSsZ0r8CRc?si=2e8PbVXltjdbNr2Q


feel

https://youtu.be/PAmI_q-HbFU?si=FZuLbe2ZiBzmms51


keep moving

https://youtu.be/QWW73v7L1D0?si=7YEjlRgRRuQhve80


CALL ME OUT

https://youtu.be/Y161l0pX_wA?si=GZjh8_JyrDkMdkLv


READY

https://youtu.be/P2sNZMSjjdU?si=GsE110DD92sYEhr4


SHOWTIME!

https://youtu.be/RrqmZjsded4?si=kZt8W-O5sWGhMJaN


ATTACK

https://youtu.be/tRSOHKXvij8?si=xqiYugwdtS0mTWMu


SAY IT TO ME

https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM


ORIGIN

https://youtu.be/v7r3_l4mYQM?si=l1vPLtDcNWjW9O6H


nofake

https://youtu.be/oV7c-3TJMgM?si=WDW85lU6iqQsmqZy


決めろ!はコチラ

https://youtu.be/P_2d3hcx3Uw?si=hvvTW3RMB2adTtwN


RUN IT

https://youtu.be/ptZZJdr_2hc?si=1Fw9cRYCdJAd1so4


ORDER

https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM



笑いの熱が、ゆっくり引いていった。


CALL ME OUTの余韻は、まだ会場に残っていた。

赤ペンを胸ポケットに戻す人。

隣の友人に肘で突かれている男子。

「聞ける人になれ」と小声で念を押している女子。

笑いながらも、どこか姿勢を正している客席。


刺されて、笑って、生き返る。


そんな明るい痛みのあとだった。


だからこそ、次の空気は慎重に入らなければならなかった。


mcRCは、客席の笑いが完全に消えるのを待たなかった。

しかし、笑いの上に無理やり次の言葉を重ねることもしなかった。


その中間。


笑いが、呼吸に戻る瞬間。

人が、楽しかった声を少しだけ飲み込んで、次の言葉を聞ける顔になる瞬間。


そこを待った。


ステージ上の照明が、ゆっくり落ちる。


白でもない。

赤でもない。

緑でもない。


少し暗い、木目のような色。

会議室の長机。

会社の蛍光灯。

夜の職場の廊下。

誰もいない執務室の椅子。

そういうものを思わせる、落ち着いた光だった。


客席の笑いが、すっと薄くなる。


wataがさっきまでの軽い表情を引っ込めた。

赤ペンで刺されて笑っていた男が、今はマイクを持つ手を少し下げ、客席を見ている。


EGUIは、ほとんど動かない。


ただ、マイクを持つ手の角度が変わった。

言葉を短く撃つ時の構えではない。

これから、重いものを置く時の構えだった。


mcRCが、静かに言った。


「ここから、少しだけ深く行きます」


会場が静まる。


「さっきまで、いろんな形で前に進んできた」


「走って」


「撃って」


「見せて」


少し間を置いて、ほんの少しだけ笑った。


「刺されて」


客席から、小さな笑いが漏れた。


でも、すぐに戻る。


「でも、前に進む人間には、必ず座る場所があります」


空気が変わった。


席。


ただの椅子ではない。

その単語だけで、何かが降りてくる。


会社員の客が、少し背筋を伸ばす。

管理職らしき年齢の男性が、腕を組むのをやめる。

若い女性が、膝の上のタオルを握る。

さっきまで赤ペンを上げて笑っていた男子が、静かに前を見る。


五人組も、表情を変えた。


Kateは、ステージをまっすぐ見ている。

Miwaは、口元に手を当てた。

Saraは茶化さない。

Ninaは胸元の赤ペンをゆっくり下ろした。

Yuiは、膝の上でREADYタオルを畳み直した。


誰も、余計なことを言わなかった。


mcRCが続ける。


「座るだけなら、誰でも座れる」


「でも、その席に何を乗せるのか」


「誰の声を聞くのか」


「誰の明日を預かるのか」


「そこを見ないまま座るなら、その席はただの椅子じゃなくなる」


wataが、少し低い声で入る。


「その席は、椅子じゃない」


EGUIが続ける。


「人を乗せる場所だ」


mcRCが、ゆっくりタイトルを言った。


「THAT SEAT」


音が鳴った。


重いキックではない。


最初は、机に指を置くような音だった。

一拍。

もう一拍。

何かの確認印が押されるような、乾いた音。


そこに低音が入る。


会場全体が少しだけ沈む。


気分が沈むのではない。

視線が、深くなる。


さっきまで身体を動かしていた人たちが、今度は耳を前に出している。

声を返す準備ではなく、聞く準備。


THAT SEATは、単純に盛り上げる曲ではなかった。


席の曲だった。


上に立つ人の曲。

でも、上に立つ人だけの曲ではない。


誰かに任せる人。

任せられた人。

責任を見ている人。

責任から逃げている人。

責任という言葉で誰かを押さえつけたことがある人。

押さえつけられたことがある人。


その全員が、少しずつ自分の中の椅子を見つけていく曲だった。


mcRCのVerseでは、照明が会議室のように白くなった。


けれど、無機質ではない。

白い机。

並ぶ資料。

誰かが置いたペン。

椅子の背もたれ。

座る前の一瞬の沈黙。


そこに、彼の声が乗る。


強く叫ばない。


それが逆に重い。


「その席は椅子じゃねえ」と言う言葉の奥に、怒りがある。

でも、それ以上に、見てきたものがある。


誰かがその席で潰れたのを見たのかもしれない。

誰かがその席から人を潰したのを見たのかもしれない。

自分自身が、座ったことのある重さを知っているのかもしれない。


客席は、その全部を完全には知らない。


知らないからこそ、言葉だけを受け取る。


でも、五人組には少し違って聞こえていた。


知っていることがある。


言えないこともある。


ここでそれを声に出すことはしない。

会場の誰かに説明することもしない。

しかし、歌の中で立ち上がるその姿勢に、記憶が触れてしまう。


Miwaの指が、タオルの端をぎゅっと握った。


Saraが横目で気づく。

けれど、何も言わない。


Kateは、ただステージを見ていた。


あの人は、昔からこうだった。


そう言いそうになって、心の中で止める。


ここは、その話をする場所ではない。


けれど。


今、ステージの上で歌われているものは、たしかに生き方だった。


wataのパートに入ると、曲の中に論理が入った。


座ること。

見える範囲。

見えない範囲。

押しつける正義。

言葉の強さ。

責任の形。


wataは、それを韻で畳む。


固い話を、固いまま投げない。

けれど、柔らかくしすぎもしない。


言葉が絡む。

ほどける。

また絡む。

そのたびに、客席の中で「自分の話かもしれない」と感じる人が増えていく。


「管理職だけの話じゃないな」


客席の後ろで、誰かが小さく言った。


隣の人が頷く。


「親でもある」


「先輩でもある」


「友達でもある」


「人に影響ある席って、全部そうか」


「うん」


その会話は小さかった。

でも、曲はそういう小さな会話を生む力を持っていた。


EGUIのパートで、会場はさらに静かになる。


彼は、難しく言わない。


だから逃げられない。


「人を潰すな」


その意味の言葉が出た時、会場の中でいくつかの呼吸が止まった。


人を潰す。


強い言葉だ。


でも、この曲では避けてはいけない言葉だった。


人は、道具ではない。

部下でも、後輩でも、家族でも、恋人でも、ファンでも、客でも、スタッフでも。


役割を持つ前に、人だ。


そこを忘れた瞬間、席は凶器になる。


EGUIは、そう言っているようだった。


客席の中で、若い男性が俯いた。

隣の女性が、何も言わずに彼の肩を軽く叩いた。


逆に、年配の男性が、目を閉じる。

何かを思い出しているようだった。


上に立ったことがある人は、自分の行動を思い出す。

下にいたことがある人は、自分が受けた言葉を思い出す。

そのどちらもある人は、両方に刺される。


THAT SEATは、誰か一方を責めるだけの曲ではなかった。


その席に座るなら、見ろ。


そういう曲だった。


Bridgeで、三人の声が重なった。


上からではない。

だが、責任からも逃げない。


席を否定しているわけではない。

席に座る人間の覚悟を問うている。


客席にはもう、笑いはなかった。


それは、冷えたのではない。


深く入っていた。


ステージ上の三人も、煽らない。


この曲で拳を上げろとは言わない。

声を出せとも言わない。


ただ、聴かせる。


その判断が正しかった。


最後の音が落ちた時、会場は一瞬、拍手を忘れた。


ほんの一瞬。


誰も動かない。


その沈黙が、曲の重さを証明していた。


それから、拍手が起きた。


最初は前方の数人。

次に中央。

それから後方。


大きな歓声ではない。


深い拍手だった。


音の数は多い。

でも、叫びではない。


受け取った、という拍手。


mcRCは、その拍手にすぐ返さなかった。


深く頭を下げた。


wataも下げる。

EGUIも、ほんの少しだけだが、確かに頭を下げた。


拍手はしばらく続いた。


新川は壁際で、それを見ていた。


単独ライブの中盤に、こういう曲を置くのは勇気がいる。


熱を落とす危険がある。

客席を重くしすぎる危険がある。

初見を置いていく危険がある。


しかし、今の会場は離れていなかった。


むしろ、引き寄せられていた。


盛り上がりだけでは持たない。

だが、意味だけでも持たない。


リバクラは、その両方を行き来していた。


新川は、腕を組んだまま小さく頷いた。


ここまでは、かなりいい。


そして、その次の曲が始まる前に、mcRCがマイクを上げた。


「今の曲は、席の話でした」


客席が静かに聞いている。


「でも、席に座る人だけで、場所は回りません」


少し間。


「見えるところにいる人だけで、世界は回ってません」


会場の空気がまた変わる。


THAT SEATで下へ沈んだ意識が、今度は横へ広がっていく。


「今日、ここに来る前にも、いろんな人が動いてくれてました」


「物販」


「列の整理」


「チケット確認」


「照明」


「音響」


「ロビー」


「外の案内」


「水分取ってくださいって声かけてくれた人」


スタッフの何人かが、客席の端で少しだけ顔を上げた。


「名前が出ない人の手で、今日の場所はできてます」


客席が静かになる。


「だから次は、その手の歌です」


wataが、ゆっくりマイクを上げた。


「見えないから、ないわけじゃない」


EGUIが続ける。


「呼ばれないから、価値がないわけじゃない」


mcRCが言った。


「Unseen Hands」


音が鳴った。


THAT SEATとは違う。


こちらの音は、少し温かかった。


派手ではない。

でも、冷たくない。


柔らかいピアノのような音が、低く広がる。

その上に、軽いビートが入る。

大きく跳ねるのではなく、心拍に近い。


会場の照明も変わった。


ステージだけではなく、客席の端やロビーに近い通路にも、少しだけ光が伸びる。


スタッフの影が見える。


出入口に立っている人。

壁際で客席を見ている人。

PA卓の横でフェーダーに手を置く人。

物販の残りを確認している人。

袖で次の進行を見ている人。


さっきまで背景だった人たちが、急に景色の中に入る。


客席は、それに気づき始めた。


Unseen Handsは、そういう曲だった。


見えない支えを、見える場所まで持ってくる曲。


mcRCの声は、さっきよりも柔らかい。


しかし、弱くはない。


朝の職場。

整えられた床。

戻された道具。

誰かが少し前に動いたことで、誰かが困らずに済んだ場面。


そういう小さなことを、彼は拾っていく。


客席の中で、年配の女性が少し目を拭いた。


隣にいた娘らしき人が、小さく背中をさする。


「お母さん?」


「大丈夫」


「泣いてるじゃん」


「大丈夫」


その「大丈夫」は、さっきまでの「言えない大丈夫」とは違う。


受け取ったものが多くて、言葉が追いつかない時の大丈夫だった。


wataのパートでは、見えない手の意味が広がった。


空気を整える人。

誰かのミスを大ごとになる前に拾う人。

言葉が強くなりすぎた場面で、少しだけ笑いに変える人。

会議の前に資料を揃える人。

配信の裏で切り抜きを作る人。

コメント欄で荒れそうな流れを、別の言葉に変える人。


支えは、肉体労働だけではない。

心の導線を整えることも支えだ。


その解釈が入ると、客席の中にあるそれぞれの記憶が動き出す。


職場の誰か。

家族の誰か。

学校の誰か。

昔の友人。

自分自身。


「見えてなかっただけかもしれない」


誰かが、小さく言った。


その一言に、近くの人が頷いた。


EGUIのパートでは、曲がまっすぐになる。


ありがとう、と言う。


ただし、軽く言わない。


ありがとうしか言えないことがある。

けれど、そのありがとうを言わないまま通り過ぎてはいけない。


そういう声だった。


「ちゃんと見えてる」


その意味のラインが出た時、客席のあちこちで人が泣き始めた。


大きな号泣ではない。

声を殺すような泣き方。


それが、余計に深かった。


五人組の席でも、Miwaはもう限界だった。


口元を押さえ、下を向いている。

Saraがそっとタオルを差し出す。

Miwaは受け取って、小さく頷いた。


Ninaも目元が赤い。


Yuiは、まっすぐステージを見ている。

泣いてはいない。

けれど、顔の力が抜けていた。


Kateは、少しだけ俯いた。


今日、彼女たちは物販列を手伝った。


金銭には触らない。

判断権限も持たない。

ただ、列を案内する。

サイズを見る。

迷っている人に説明する。

日陰へ誘導する。

水分を促す。


それは大きなことではなかった。


でも、流れは変わった。


誰かがライブ前に嫌な思いをせずに済んだかもしれない。

誰かが暑さでつらくなる前に水を飲めたかもしれない。

誰かが買いたかったものを、落ち着いて選べたかもしれない。


自分たちは客として来た。

けれど、少しだけこの場を支えた。


そして今、その曲が鳴っている。


見えない手。


Miwaが、涙を拭きながら小さく言った。


「これ、今日聴くのずるい……」


Saraが、茶化さずに頷く。


「うん」


Ninaが言う。


「自分たちのことだけじゃないのにね」


Yuiも頷く。


「でも、自分たちのことでもある」


Kateは、しばらく黙っていた。


それから、小さく言った。


「見えてるって言われると、楽になるんだね」


その言葉に、五人は何も返せなかった。


Unseen HandsのFinal Hookでは、会場全体が静かに揺れていた。


大声で返す曲ではない。

でも、何人かは小さく口ずさんでいる。


Unseen hands。


見えてるぜ。


その言葉が、客席の中で何度も反射している。


スタッフの一人が、ロビーの奥でそっと目元を拭いた。

すぐに仕事の顔へ戻ったが、隣のスタッフは気づいた。

気づいて、何も言わなかった。


それもまた、見えない手だった。


最後に、mcRCがほんの少しだけマイクを下げた。


曲の終わりに、短い言葉を置く。


「掃除のおばちゃんに」


会場が静かに聞いている。


「こんにちは」


少し間。


「いつもありがとう」


その言葉は、歌詞というより、挨拶だった。


けれど、会場の奥まで届いた。


誰かが泣きながら笑った。


別の誰かが、深く頷いた。


それは、特別な演出ではない。

派手な決め台詞でもない。

でも、Unseen Handsの最後には、それが一番合っていた。


曲が終わる。


拍手が来た。


THAT SEATの時よりも、さらに深い拍手だった。


大きさではない。


重さ。


ひとつひとつの手の音に、誰かの顔が乗っているような拍手だった。


mcRCは頭を下げた。

wataも下げる。

EGUIも下げる。


三人が頭を上げた時、会場はまだ拍手をしていた。


その拍手の中で、次の準備が始まるはずだった。


ステージ袖では、スタッフが次の曲へ向けて動いていた。


映像担当がモニターを見る。

照明担当がキューを確認する。

音響が次の音源を構える。

進行スタッフがタイムテーブルを見て、インカムに小さく返事をする。


予定では、ここから次の曲へ行く。


重い余韻を、別の形で受け止めるための曲。


しかし。


映像モニターの一つが、黒いままだった。


照明担当の眉が動く。


「映像キュー、来てません」


インカムに短い声が走る。


「確認します」


「音源は?」


「音は出ます」


「照明プリセット?」


「一部、戻りません」


「再読み込み」


「今やってます」


新川が、壁際から少しだけ身体を起こした。


表情は変わらない。


でも、立ち位置が変わった。


「安全上の問題は」


スタッフがすぐ返す。


「ありません」


「音は出せる」


「出せます」


「映像と照明が予定通り入らない」


「はい」


新川は、一瞬だけステージを見た。


客席はまだ拍手の余韻の中にいる。

今なら、少しの間は持つ。

しかし、何も言わずに止まれば不安が出る。


次の曲を音だけで出すことはできる。


だが、その曲は演出と一体で組んでいる。

ここで無理に流せば、曲そのものの扱いが軽くなる。


新川は短く言った。


「出演者に状況を」


スタッフが袖へ走る。


ステージ上の三人も、違和感にはすでに気づいていた。


次の音が来ない。


会場は、まだ大きくはざわついていない。

だが、拍手が少しずつ疑問に変わっていく。


客席の前方から声が漏れる。


「あれ?」


「MC入る?」


「演出?」


「間?」


「なんか止まった?」


後方では、まだ状況が分からない人が拍手を続けている。

中央では、拍手がまばらになり始める。


このまま黙っていると、温度が落ちる。


不安が生まれる。


mcRCは、袖からスタッフの合図を受けた。


一瞬だけ、目線が動く。


wataも気づく。

EGUIも、マイクを少し下げたまま袖を見る。


スタッフが近づき、小声で伝える。


「次の曲、映像キューが戻りません。照明も一部予定通り入らないです。音は出せます」


mcRCは短く聞いた。


「安全は?」


「問題ありません」


「復旧見込み」


「数分あれば組み直せます。ただ、今すぐは厳しいです」


wataが客席を見る。


拍手が、もう完全にざわめきへ変わり始めている。


「空くな」


EGUIが低く言った。


「雑に出すな」


その言葉で、三人の判断が決まった。


無理に次の曲を出さない。


曲を守る。


客席も守る。


スタッフも守る。


mcRCが小さく頷く。


「作戦タイム、挟む」


wataの口元が少し上がった。


「言い方」


EGUIが静かに言う。


「短く」


mcRCがマイクを上げた。


「ごめん」


客席が一斉に前を見る。


「作戦ターイム」


一瞬、会場が止まった。


次の瞬間、笑いが起きる。


「作戦タイムw」


「なにそれ!」


「トラブル?」


「大丈夫?」


「作戦会議始まった!」


wataがすぐ乗る。


「ライブ中に作戦タイム入るグループ、なかなかないです」


笑いが広がる。


EGUIが短く言う。


「短く済ませる」


さらに笑いが起きた。


その間に、三人は少しだけ後ろへ下がる。

完全に客席へ背を向けるのではない。

けれど、スタッフと話せる位置へ。


マイクは下げる。

会話は客席に聞こえない。


mcRCが小声で言う。


「次は飛ばす」


スタッフが驚いた顔をする。


「よろしいですか」


「今やると曲が崩れる」


EGUIが頷く。


「扱いが軽くなる」


wataが続ける。


「その代わり、立て直します」


スタッフは一瞬だけ三人を見た。


「どう立て直しますか」


mcRCは、少しだけ笑った。


「決めます」


wataも笑う。


「準備してきたやつ、出します」


EGUIが言う。


「その間に、次の進行を組み直してください」


スタッフが頷く。


「分かりました」


インカムで新川に伝える。


「次曲カット判断。リバクラ側、立て直し曲に入ります。こちらは進行組み直し」


新川は、ステージ上の三人を見た。


白ポロ。

サングラス。

腕組み。


その表情は変わらない。


けれど、内側では苦いものが走っていた。


これは、こちらのミスだ。


イベントのプロとして、流れを守るべきところだった。

曲を、演出ごと安全に客席へ届けるのが自分たちの役割だった。


リバクラは、曲と熱を作る側。


その熱を壊れない形で渡すために、こちらがいる。


なのに、その橋をこちらが詰まらせた。


新川は、短く息を吐いた。


怒鳴らない。


現場で怒鳴っても復旧は早くならない。

焦りを客席に漏らすだけだ。


彼はインカムに言う。


「次曲は飛ばす前提で後ろを組み直してください」


「予定時間は」


「立て直し曲の尺を見ながら調整。後半一曲カットも視野」


「了解です」


「BBQへの導線を確認」


「了解」


新川は、ステージを見た。


三人はもう客席へ戻っている。


早い。


ただ焦って戻っているのではない。

顔が決まっている。


リバクラは、ここでトラブルを隠す気がない。


客席に何も言わず、何事もなかったように進めることもできたかもしれない。

だが、それでは不安が残る。


かといって、機材や進行の細かい説明をしすぎれば、ライブが事務連絡になる。


その中間。


正直に伝え、でもライブとして返す。


それができるかどうか。


新川は、無言で見ていた。


mcRCが、ステージ中央へ戻る。


wataは少し左後ろ。

EGUIは右。


三人の配置が、自然に三角になる。


mcRCがマイクを上げた。


「みんな、聞いてくれよ」


会場が静かになる。


さっきまでの笑いが、少しだけ不安を含んだ期待に変わる。


mcRCは、笑っていた。


無理に明るくしている笑いではない。

状況を受け止めた上で、客席を不安にさせないための笑いだった。


「トラブル発生だぜ」


客席がざわつく。


「え?」


「やっぱり?」


「大丈夫?」


「何があった?」


mcRCは続ける。


「次にやろうとしてた曲が、今ちょっとうまくいかないんだわ」


客席のざわめきが少し大きくなる。


でも、パニックではない。


正直に言われたことで、むしろ安心した人もいた。


「相変わらず、トラブル出るな。俺たち」


wataがすぐ入る。


「初単独でこれやる?」


会場が笑う。


EGUIが低く言う。


「でも、止まる理由にはならない」


その一言で、客席のざわめきが少し締まる。


mcRCが頷いた。


「そうなんだよな」


「こんな時さ」


少し間を置く。


「準備って、大事だよな」


客席から声が上がる。


「READY!」


「準備!」


「大事!」


wataが笑う。


「大事だねぇ」


mcRCも笑う。


「心の準備も」


wata。


「曲の準備も」


EGUI。


「場を変える準備も」


客席が沸く。


何かが始まると分かる。


ただのつなぎではない。

このトラブルを、何かに変えようとしている。


mcRCがマイクを握り直す。


「じゃあさ」


「こんなトラブルの時に」


「決めちゃう?」


客席がざわつく。


「え?」


「決める?」


「何を?」


「曲?」


wataが前へ出る。


「決めちゃうか」


EGUIが短く言う。


「決めろ」


その一言で、会場のリバクルーが反応した。


知っている人たちは、もう分かっている。


「うおお!」


「来る!」


「決めろ!」


「ここで!?」


初見の人たちは、まだ分からない。


でも、周りの熱で分かる。


これは、ただの穴埋めではない。


mcRCが客席を見渡す。


「トラブルすらも、味わっていくぞ」


会場が沸いた。


「では――」


三人の声が揃った。


「決めろ!!」


ビートが鳴った。


一瞬で空気が変わった。


さっきまでの不安が、曲の中へ吸い込まれる。


決めろ!


この曲は、予定外の場所でこそ効いた。


迷っている時。

止まりそうな時。

状況が崩れた時。

誰かのせいにしたくなる時。


その瞬間に、何を選ぶのか。


それを問う曲だった。


mcRCは、トラブルの説明で落ちかけた空気を、もう一度自分たちの掌に乗せた。

客席の不安を否定しない。

でも、そこに座り込ませない。


wataは、曲の中で客席のざわめきを煽りに変えた。


「何が起きた?」という顔。

「大丈夫?」という声。

「ここでやるの?」という驚き。


全部を、決断前の揺れとして曲に入れていく。


EGUIは、最小限の言葉で芯を通した。


決めろ。


ただそれだけで、会場は立ち上がる。


曲が進むにつれ、客席の声が太くなる。


「決めろ!」


「決めた!」


「行け!」


「トラブルごと行け!」


不安は消えたわけではない。


でも、形が変わった。


不安が熱に変わった。

ざわめきが期待に変わった。

待たされている時間が、参加している時間に変わった。


新川は、PA卓の横でその変化を見ていた。


これは、時間稼ぎだった。


たしかに時間稼ぎだ。


イベント側が裏で次の進行を組み直すための数分。

照明の復旧状況を確認し、映像キューを捨て、後半の曲順と尺を再計算するための時間。


だが、客席は待たされていない。


ライブを見ている。


いや、ライブに巻き込まれている。


その差は大きい。


トラブルの時間が、空白ではなくなっている。


新川は、初めて少しだけ表情を変えた。


悔しさと、感謝が同時にあった。


こちらのミスを、彼らが客席の体験に変えている。


しかも、責めていない。


スタッフを晒さない。

機材を笑わない。

客席に不安を押しつけない。


それどころか、サプライズにしようとしている。


トラブルが起きてしまったことへの、お詫びのように。


予定になかったものを、ここで渡そうとしている。


新川は、小さく言った。


「……強いな」


隣のスタッフが聞き返す。


「はい?」


「いや」


新川は首を振る。


「進行、急いでください。BBQへつなげる準備を」


「了解です」


ステージでは、決めろ!が終わろうとしていた。


最後の一音が落ちる。


会場は、すでに完全に立て直っていた。


拍手ではなく、歓声が来る。


「うおおおお!」


「決めた!」


「トラブルどこ行った!」


「今の入り方やばい!」


「作戦タイムから決めろは強い!」


wataが息を整えながら、客席を見た。


「いい顔してんな」


会場が笑う。


「さっきまで泣いてたやつ、もう叫んでるぞ」


客席から返る。


「情緒!」


「温度計!」


「忙しい!」


「つけてくれ!」


wataが笑う。


「その温度計、たぶんもう壊れてる」


笑いが広がる。


でも、mcRCはすぐに次へ行かなかった。


ここで終わらせない。


決めろ!は、立て直しだった。


次は、変換だ。


トラブルを、ただ乗り切っただけで終わらせない。


ライブそのものにする。


mcRCがマイクを上げた。


「今ので、決めた」


客席がまたざわつく。


「え?」


「何?」


「まだある?」


「どゆこと?」


その声を、wataが拾う。


「その“どゆこと?”も、今から使う」


会場が一気に反応した。


「えええ!?」


「使う?」


「何するの?」


「新曲?」


「まさか?」


mcRCは、少しだけ息を吸った。


ここからは、説明しなければならない。


だが、制作会議のようにはしない。


ステージ上の宣言として。


「次の曲は、完成してません」


会場が止まる。


一拍遅れて、ざわめきが爆発する。


「え?」


「未完成!?」


「今!?」


「どういうこと!?」


「さっきトラブルって言ったよね!?」


wataが笑う。


「未完成っていうか」


少し間を置く。


「できてない」


客席が大きく反応した。


「えええええ!」


「できてない!?」


「正直すぎる!」


「大丈夫なの!?」


「それ言っていいの!?」


EGUIが、落ち着いた声で言う。


「フックとテーマだけある」


その声で、会場が少し静かになる。


wataが続ける。


「バースは、空っぽ」


mcRCが客席を見た。


「だから、今ここで作ります」


会場のざわめきが、熱に変わっていく。


「まじで?」


「即興?」


「今から?」


「やば」


「見たい!」


mcRCは頷いた。


「この曲のバースは、完全に即興です」


「今ここで見るものを拾う」


「今ここで聞こえる声を拾う」


「この汗も」


「ざわめきも」


「笑いも」


「泣いた顔も」


「袖で走ってるスタッフの影も」


スタッフの何人かが、一瞬だけ動きを止めた。


すぐにまた作業へ戻る。


mcRCは続ける。


「全部、この曲に入れる」


wataが、客席を指す。


「さっきの“どゆこと?”も、ちゃんともらう」


客席が笑いながら沸く。


EGUIが低く言った。


「予定通りじゃないから、失敗じゃない」


少し間。


「予定通りじゃないから、本番になる」


その言葉は、会場の奥まで届いた。


新川にも届いた。


予定通りじゃないから、本番になる。


イベント会社の人間にとって、それは少し苦い言葉だった。


本来、予定通りに届けるのが仕事だ。

予定外を起こさないようにするのがプロだ。


だが、どれだけ準備しても、本番には予定外がある。


その時、どうするか。


予定外を、ただの事故で終わらせるのか。

誰かのせいにするのか。

客席に不安だけを残すのか。


それとも、ライブにするのか。


新川は、サングラスの奥で三人を見ていた。


この三人は、今それをやろうとしている。


mcRCが、最後に言った。


「トラブルごと、ライブに変える」


wataが続く。


「今の会場、全部くれ」


EGUIが締める。


「これが本番だ」


三人が、同時に前を見た。


「THAT’S LIVE」


ビートが鳴った。


それは、予定表に載っていない音だった。


客席は、まだざわついている。

でも、もう不安ではない。


期待でざわついている。


「え、なにこれ!」


「今から作るの!?」


「ほんまに?」


「どゆこと!」


wataが、最初の一拍で笑った。


その笑いは、ふざけていない。


獲物を見つけたような笑いだった。


mcRCは、客席を見た。


最前列のタオル。

赤ペンを握ったまま固まっている人。

泣いたあとに笑っている女性。

壁際でインカムを押さえるスタッフ。

ロビー側から少しだけ覗く光。

白ポロの新川。

五人組の席で、涙を拭きながら前を見ているMiwa。

何が起きるのか分からず、でも目を離せない初見客。


全部、景色になる。


wataは、その景色の中から音を拾う準備をしている。


EGUIは、二人が拾ったものを、最後に意味へ通すために待っている。


未完成ではない。


まだ、できていない。


だからこそ、ここでしかできない。


会場の全員が、その意味を理解するより早く、音が身体に入った。


THAT’S LIVEが始まった。



mcRC「この小説の歌は実際に聴けるから、聴きながら読んでみてくれよな」

聴く場合はこちら:

コピペしてブラウザに貼り付けて、、、。とぶぞ。


THAT’S LIVE

https://youtu.be/ujqsLz2TWQA?si=MmEQcLI5hnIdcJpq


green light

https://youtu.be/YR4ECQMRI9E?si=gXQ5EDmQWGXRzpYt


ESCORT

https://youtu.be/U-FlEKJfJ9U?si=m_t-jL5suG1I4umI


Reverse Crown/リバクラ

https://youtu.be/FI0rcVj1WUA?si=YTlhx_1Sq_TaV9Qe


DESTINATION

https://youtu.be/JTYqNX2aSEM?si=XiPvuQManbc7qZ__


UNSEEN HANDS

https://youtu.be/-7JI-GA7Jkg?si=1bDm7SNAOzQLAYts


THAT SEAT

https://youtu.be/RroRseSoJ_8?si=hIIpjx5z-IxxfnTJ


BBQ

https://youtu.be/EtMf8rkKn_0?si=fOf9lmgp2QZR2MKR


HOMEBASE

https://youtu.be/ARSsZ0r8CRc?si=2e8PbVXltjdbNr2Q


feel

https://youtu.be/PAmI_q-HbFU?si=FZuLbe2ZiBzmms51


keep moving

https://youtu.be/QWW73v7L1D0?si=7YEjlRgRRuQhve80


CALL ME OUT

https://youtu.be/Y161l0pX_wA?si=GZjh8_JyrDkMdkLv


READY

https://youtu.be/P2sNZMSjjdU?si=GsE110DD92sYEhr4


SHOWTIME!

https://youtu.be/RrqmZjsded4?si=kZt8W-O5sWGhMJaN


ATTACK

https://youtu.be/tRSOHKXvij8?si=xqiYugwdtS0mTWMu


SAY IT TO ME

https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM


ORIGIN

https://youtu.be/v7r3_l4mYQM?si=l1vPLtDcNWjW9O6H


nofake

https://youtu.be/oV7c-3TJMgM?si=WDW85lU6iqQsmqZy


決めろ!はコチラ

https://youtu.be/P_2d3hcx3Uw?si=hvvTW3RMB2adTtwN


RUN IT

https://youtu.be/ptZZJdr_2hc?si=1Fw9cRYCdJAd1so4


ORDER

https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM

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