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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
sound session編

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183/186

5-5-8 忘れないうちに


勝者発表の歓声が、まだ天井に残っていた。


Reverse Crown、11.4。

ODD NODE、11.1。


スクリーンの数字が消えても、客席の熱は消えなかった。


リバクルーのタオルが揺れている。

BEEF勢がDJブースへ向けて拍手している。

ODD NODEのファンも、悔しそうに、それでも大きく手を叩いている。

ReShiNa勢の男たちは、「ReShiNa」タオルや「れなたん」タオルを握ったまま、少し呆然と拍手していた。


勝った。


確かに勝った。


けれど、ステージ上の四人は、すぐに大きく喜ぶことができなかった。


息が切れている。

喉が熱い。

足の裏には、まだ低音の振動が残っている。

客席の拍手が大きすぎて、自分たちの呼吸の音すら聞こえにくい。


mcRCは、マイクを下げたまま、スクリーンのあった場所を見ていた。


wataは、汗を拭きながら、少し下を向いた。


EGUIは、拳を握っていた。

叫びたいのか、噛みしめたいのか、自分でもまだ分かっていない顔だった。


BEEFは、DJブースの奥で機材に手を置いたまま、ODD NODEの方を見ていた。


司会者が、両チームを中央へ促す。


「両チームに、大きな拍手を!」


ODD NODEの三人とDJが、中央へ歩いてくる。


長いコートの男は、顔を上げていた。

けれど、口元は固い。


眼鏡のテクニシャンは、何度か息を整えてから、wataの方を見た。

悔しさを飲み込んでいる顔だった。


銀髪の男は、笑おうとしていた。

でも、その笑いは少しだけ歪んでいた。


白いグローブのDJは、BEEFを見ている。

拍手の中でも、目だけが静かだった。


mcRCが、まず頭を下げた。


「ありがとうございました」


長いコートの男も、ゆっくり頭を下げる。


「……ありがとうございました」


声は静かだった。


けれど、爽やかに笑って終われる声ではなかった。


悔しい。


その感情が、ちゃんと残っていた。


mcRCは、少し言葉を選んだ。


「強かったです」


相手は、すぐには返さなかった。


ほんの少しだけ、間があった。


「勝ちたかったです」


短い言葉だった。


mcRCは頷いた。


「はい」


それ以上、軽い言葉は出せなかった。


強かった。

でも勝ったのはこちらだった。


だからこそ、簡単に「またやりましょう」と笑える空気ではなかった。


wataは、眼鏡のテクニシャンと向き合っていた。


相手は手を差し出しかけて、一度止めた。


悔しさが、手の動きに出ていた。


wataは、先に手を出した。


「ありがとうございました」


眼鏡の男は、その手を握った。


「……一拍、空けましたね」


wataの眉が少し動く。


「見てたんすか」


「見えました」


「嫌やな」


「こっちも、見られたくないところは見られてると思います」


wataは少し笑った。


「そっちのズラし方、だいぶ嫌でした」


「褒め言葉として受け取ります」


「褒めてます」


握手は短かった。


でも、力は強かった。


銀髪の男は、EGUIの前に立った。


さっきまで客席を巻き込んでいた軽さは、少し消えている。


「SMALL WIN」


EGUIが見る。


銀髪の男は、口の端だけで笑った。


「最後、持っていかれました」


EGUIは、少しだけ首を横に振った。


「ODD PARADEも、かなり持っていってました」


「足りなかった」


その言葉は、明るくなかった。


EGUIは、そこで無理に慰めなかった。


「僅差でした」


「僅差でも、負けは負けです」


銀髪の男は、そう言ってから手を出した。


EGUIは握り返す。


「ありがとうございました」


「次は、持っていきます」


「こっちも、渡しません」


銀髪の男は、やっと少し笑った。


白いグローブのDJとBEEFは、しばらく何も言わなかった。


周りの歓声だけがある。


白いグローブのDJが、先に口を開く。


「いい壊し方でした」


BEEFは眉を寄せた。


「壊してねえ」


wataが横からぼそっと言う。


「壊してたやろ」


BEEFは無視した。


白いグローブのDJは、表情を変えずに言った。


「でも、落としてなかった」


BEEFは少し黙る。


それから、顎だけで返した。


「そっちも、嫌なズレだった」


「褒め言葉として受け取ります」


「そうしろ」


白いグローブのDJは、静かに頷いた。


ただ、その目は悔しそうだった。


BEEFも、それ以上は言わなかった。


声をかけられる雰囲気の人間と、今はそっとしておくべき人間がいる。


勝った側が、何でも言っていいわけではない。


相手が強かったからこそ、そこには距離が必要だった。


もう一度、両チームが客席へ頭を下げる。


拍手が大きくなる。


「ODD NODEもよかったぞ!」


「リバクラおめでとう!」


「いい試合だった!」


「また見たい!」


ステージを降りる。


ライトの熱から外れた瞬間、身体が一気に重くなった。


袖の通路に入ると、歓声が壁越しになる。


スタッフの無線。

ケーブルを巻く音。

ペットボトルを渡す手。

「お疲れ様です」の声。


mcRCは、水を受け取って一口飲んだ。


wataは壁に背中を預けかけて、すぐに立て直した。


EGUIは、タオルで顔を押さえる。


BEEFは、機材ケースを持とうとして、一瞬だけ手を止めた。


まだ誰もいない。


リバックラインもReShiNaも、この中には入れない。


関係者導線の外で待っている。


いつものことだった。


wataがぽつりと言う。


「……疲れた」


mcRCが笑う。


「そら疲れるやろ」


EGUIが、ゆっくり息を吐く。


「勝ったな」


wataが頷く。


「勝った」


mcRCも言う。


「勝った」


BEEFは、機材ケースを床に置いて短く言った。


「ギリな」


wataが顔を上げる。


「お前、今それ言う?」


「事実だろ」


「余韻を噛ませろ」


「噛んでる間に忘れるぞ」


その一言で、三人の表情が少し変わった。


忘れる。


そうだった。


今、身体に残っている。


NEW ERAで、客席が入ってきた感覚。

QUESTで、予定が変わったのに走れた感覚。

SMALL WINで、言葉が客席の奥へ沈んだ感覚。


勝った、で終わらせたら薄くなる。


明日になったら、たぶん綺麗な思い出になる。

綺麗な思い出になったら、身体のどこで掴んだのか分からなくなる。


wataが、自分の指先を見た。


「……今やな」


EGUIが頷く。


「今だな」


mcRCも、ゆっくり息を吐いた。


「今じゃないと、逃げる」


BEEFは何も言わなかった。


ただ、機材ケースの取っ手を握り直した。


四人は、控室へは戻らなかった。


控室前の通路を抜け、そのまま関係者導線の外へ向かう。


扉をひとつ越えると、空気が変わった。


ステージ裏の熱が薄まり、外の通路の冷たさが少し入ってくる。

遠くに客席のざわめきがある。

スタッフが行き交う。

警備の人が立っている。


その境目の少し先に、リバックラインとReShiNaの三人がいた。


入れる場所の外側。


でも、ちゃんと迎えに来ている距離。


Miwaは、四人を見た瞬間に泣いた。


「勝った……」


Ninaはスマホを胸に抱えている。


「通知、すごいです。でも今見たら戻ってこられないので、見せません」


Saraは、四人の足元と顔色を順番に見た。


「全員、歩行可能。水分補給は必要です」


Yuiはメモ帳を持っている。


何か書いて、すぐに閉じた。


Kateは、一歩前に出た。


「お疲れ様です。勝ちましたね!」


声が、少し弾んでいた。


仕事モードのKateにしては、かなり感情が出ている。


言った本人が、すぐに気づいた。


「……あ」


Kateは小さく咳払いをした。


「こほん。お疲れ様です。お飲み物をどうぞ」


急に戻った。


mcRCが笑う。


「そこまでも戻さなくても……」


wataも笑う。


「今の『勝ちましたね!』のKateさん、結構よかったで」


Kateは、少しだけ頬を赤くした。


「忘れてください」


Ninaがにやっとする。


「無理です」


Saraが淡々と言う。


「記憶には残りました」


Yuiがメモ帳を開く。


Kateがすぐ見る。


「Yuiさん?」


Yuiは止まる。


「記録は控えます」


Miwaが泣きながら笑う。


「Kateさん、かわいかったです」


Kateは仕事の顔を作り直す。


「Miwaさん、水分を取ってください」


「照れ隠しだ」


「水分です」


少し笑いが起きた。


そこで、ようやく四人の肩の力が落ちた。


ReShiNaの三人も近づいてくる。


renaは、アコギケースを肩から下ろしかけて、また持ち直した。


まだ少し息が上がっている。


「おつかれさまです、RCさん」


mcRCが見る。


「ありがとう。来るの大変やったやろ、それ」


「大変でした」


「言い切るやん」


「大変でした。でも、見たかったので」


それだけで十分だった。


shihoは、バスクラリネットのケースを足元に置いた。


EGUIを見る。


「EGUIさん、届いてました」


EGUIは、少しだけ目を伏せる。


「……ありがとう」


shihoは、すぐに細かく説明しなかった。


ただ、EGUIの喉元と肩の力を見ていた。


まだ声が身体に残っているのを、ちゃんと分かっている顔だった。


「今なら、まだ触れると思います」


EGUIが顔を上げる。


「俺も、そう思ってました」


natsuは、細いフルートケースを片手に持って、BEEFを見た。


「BEEFさん、牛なのに風を曲げた」


BEEFが眉を寄せる。


「誰が牛だ」


「BEEFさん」


「さん付けしたら許されると思うな」


Saraが水を置きながら言う。


「意味としては正確です」


「おい」


natsuは気にしない。


「まっすぐ行く風を、途中で曲げた」


wataが笑う。


「BEEF、風に無茶振りしてるやん」


BEEFは舌打ちした。


「お前らが走れそうだったからだ」


一瞬、外の通路の空気が止まる。


BEEFにしては、かなり素直だった。


wataが目を細める。


「……今の録音したかったな」


「消すぞ」


Ninaがスマホを上げかける。


「してません。惜しい」


「するな」


Yuiは、メモ帳を開いた。


そして、かなり真面目な顔で書いた。


状態:未完成


natsuが、それを横から見た。


「好き」


Yuiが止まる。


「え?」


natsuは、メモを指さす。


「その言い方、好き」


Yuiは少し耳を赤くした。


「……状態整理です」


natsuは、それ以上は言わず、満足そうに頷いた。


wataが吹き出す。


「Yuiちゃん、natsuさんに刺さってるやん」


Yuiは姿勢を正す。


「刺さっている、という表現は、感情的反応の発生として記録できます」


natsuの目が少しだけ明るくなる。


Yuiは、すぐに続けた。


「まだ、言葉と体と感覚が一致していないと思います」


natsuが、すぐに反応した。


「それ、いい」


Yuiはメモ帳に書く。


状態:言葉と体と感覚が不一致


natsuは覗き込んで、少し笑った。


「それも好き」


Yuiは、今度は少しだけ慣れてきた顔で言った。


「ありがとう」


natsuは続ける。


「RCさんは、景色が少し体から抜けて、客席まで歩いた」


mcRCが、疲れた顔で笑う。


「それ、俺どういう状態?」


Yuiは少し考える。


そして書いた。


状態:幽体離脱の景色伝道者


空気が一瞬止まった。


wataが腹を抱えた。


「なんやそれ!」


mcRCも笑う。


「俺、死んでるやん」


Yuiは真面目に首を振る。


「死んではいません。景色だけ先行して客席側に伝播した状態です」


natsuが、迷いなく言った。


「好き」


Yuiは、今度は少し誇らしそうに頷いた。


「ありがとう」


renaが笑いをこらえながら言う。


「でも、ちょっと分かります」


mcRCが見る。


「分かるんや」


「はい。今日のRCさんは、全部持っていかなかったです。景色だけ先に行って、客席が自分で座ってました」


mcRCは、笑いながらも、その言葉を受け取った。


景色だけ先に行く。


客席が自分で座る。


それは、今日掴みかけた感覚に近かった。


shihoは、EGUIを見たまま言う。


「EGUIさんは、声が前に出すぎなかったです」


EGUIは頷く。


「でも、まだ怖いです。弱くなっただけなのか、届いてるのか、自分じゃ分からない」


shihoは少しだけ考える。


「弱くなったんじゃないと思います。近くに来た」


その言い方は短い。


でも、ちゃんと届いた。


EGUIは、少し息を吐く。


「近くに来た、か」


Yuiがすぐ書く。


状態:声の接近。威圧ではなく近接


natsuが隣から見る。


「それ、きれい」


Yuiは小さく頷いた。


「ありがとう」


Kateが、外の通路と全員の顔色を見ながら言う。


「長くここにいると邪魔になります。移動するなら今です」


mcRCが顔を上げる。


「Kateさん」


「はい」


「今の状況を含めて、もうちょっと練習したいんで、お願いできるかな」


Kateの顔が、少しだけ引き締まった。


仕事の顔。


でも、さっきより柔らかい。


「スタジオですね」


mcRCが頷く。


「うん。今日の感覚、まだ身体に残ってる。勝ったのは嬉しいけど、このまま祝勝会に行ったら、たぶんちょっと薄まる」


wataが続ける。


「俺は、一拍。空けたところと、詰めたところ。あとBEEFに壊された時の戻り方」


BEEFが短く言う。


「壊してねえ」


全員がBEEFを見た。


BEEFは舌打ちした。


「……少しだ」


wataが笑う。


「認めた」


EGUIも言う。


「俺は、声です。押した声、置いた声、近い声。今日少し掴んだけど、戻りそうで怖い」


mcRCは続ける。


「俺は、景色。どこまで描くか。どこを残すか。客席が入ってくる場所を、もう少し見たい」


Kateは、すぐスマホを開く。


「分かりました。三部屋取れるところを探します」


Ninaも動く。


「近場で探します。終演後なので、遅い時間でも使えるスタジオですね」


Saraが言う。


「移動、水分、喉ケア、糖分も必要です」


Miwaが手を上げる。


「私、RCさんのところ行きたいです」


mcRCが少し驚く。


「Miwaさん?」


「どこで泣いたか言えます」


Ninaがすぐ言う。


「説得力があるような、ないような」


Miwaは真剣だった。


「あります。泣いた場所は、客席が入った場所です」


Kateが頷く。


「それはあります」


renaも頷いた。


「Miwaさんの反応、見たいです」


Miwaは涙を拭きながら、少しだけ胸を張った。


「泣きます」


「宣言せんでいい」


wataが言う。


Kateは整理する。


「RCさん、renaさん、Miwaさん、私。情景と余白。どこを描いて、どこを残すか」


mcRCが頷く。


「お願いします」


Kateは続ける。


「EGUIさん、shihoさん、Yuiさん、natsuさん。声の距離、言葉の置き方、客席に残る感じ」


EGUIが頷く。


「お願いします」


shihoは静かに言う。


「同じ言葉を、何種類かで試しましょう。押す、近づける、残す」


Yuiが書く。


訓練項目:押す/近づける/残す


natsuが小さく頷く。


「形が見える」


Yuiは、少し嬉しそうにする。


Kateは最後に、wataとBEEFを見る。


「wataさん、BEEFさん、Saraさん、Ninaさん。一拍、詰め、空白、曲間の受け取り方」


wataが苦笑する。


「監査つきやん」


Saraが淡々と返す。


「記録と安全確認です」


Ninaが笑う。


「あと外から見た時の分かりやすさ。今日の一拍、かなり見えたから」


BEEFが言う。


「見えすぎるのは困る」


wataが返す。


「見せるためにやるんちゃう。でも、見えたなら武器やろ」


BEEFは少しだけ黙った。


「……まあな」


その小さな返事に、wataは笑う。


「素直やん」


「うるせえ」


Kateがスマホを見ながら言う。


「取れそうです。近くに三部屋。各組四十分、最後に十分だけ共有でどうですか」


mcRCは頷く。


「助かる」


Ninaが言う。


「飲み物買います。喉ケアも」


Saraが続ける。


「糖分も必要です」


Miwaがタオルを握る。


「ご飯は?」


Kateが少しだけ笑った。


「練習後です。飯は感情なので、ちゃんと食べます」


Miwaは安心したように頷いた。


「それなら大丈夫」


BEEFが機材ケースを持ち上げる。


「行くぞ」


Saraがすぐ言う。


「水分補給は?」


「歩きながら飲む」


「危険です」


natsuがBEEFを見て言う。


「BEEFさん、止まるの苦手」


BEEFは顔をしかめる。


「言い方を変えても同じだろ」


Yuiがメモ帳に書く。


状態:停止困難


natsuが、嬉しそうに言った。


「それ、いい」


BEEFが低く言う。


「消せ」


Yuiは真面目に答える。


「検討します」


wataが笑いながら歩き出す。


「消す気ないやつや」


外の通路には、まだ遠くの歓声が残っていた。


勝った。


相手に感謝した。

相手の悔しさも見た。

自分たちも疲れていた。

それでも、迎えられた。

そして、まだ熱が消えないうちに動き出す。


RC、rena、Miwa、Kate。

EGUI、shiho、Yui、natsu。

wata、BEEF、Sara、Nina。


三つの組に分かれて、彼らは次のスタジオへ向かう。


祝勝会の前に。


忘れないうちに、もう一歩。


その一歩にも、きっと名前がつく。


small win。


今日の勝利のあとに拾う、次の小さな勝ちだった。

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