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妖刀を拾った中年探索者、女侍の亡霊に死ぬほど鍛えられる〜悪いヤツらを斬って美少女探索者パーティを助けた俺、配信でバズり始める。  作者: 甲賀流


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一人の仲間として


 指定された住所に辿り着き、俺は小さく息を吐いた。


 ビル街の一角。

 派手な看板も、過剰な装飾もない。

 いわゆる普通のテナントビルという感じ。


「……ここ、か」


 ビル中のエレベーター。

 階ボタン横のパネルには「2階 スリースターズ」と表記されている。


 探索者事務所というと、もっと雑多で騒がしいイメージがあったが、あくまでそれは大手の話。


 例えば〈オリオンプロダクション〉、探索者になって誰もが一度は属すると言われている業界の超大手。


 俺自身、アケボノに入るまではそこでお世話になったものだ。


 スリースターズもたしか、最近そこから独立したと聞く。

 始めたてとなると、これくらいの規模が妥当なんだろうな。


 二階に到着した。

 ドア前には、開業祝いのスタンド花やそれに並ぶ観葉植物たち。


 ――独立したて。


 その言葉が、しっくりくる。

 

 俺はインターホンを押す。

 ほどなくして扉が自動で開く。


 俺は中へ足を踏み入れた。


 中はこぢんまりとしていた。

 応接用のソファとテーブル。


 かつて所属していた〈アケボノ〉も、最初はこんな雰囲気だった。

 必要なものだけが揃っていて、余計なものはない。


 懐かしさに、胸の奥が少しだけ疼く。


「三枝さん!」


 名前を呼ばれ、顔を上げる。


 そこに立っていたのは、三人。

 ヒカリとルナ、二人の後ろからひょこっと顔を出すカナデ。

 

 昨日十七階層で見た面々。

 配信で見るスリースターズそのままだ。


「本日はお越しいただき、ありがとうございます」


 最初に頭を下げたのはヒカリだった。

 背筋が伸び、言葉遣いも丁寧。


 少し緊張しているようにも見える。


「助けていただいた件、改めてお礼をお伝えしたくて……」


「い、いや。そんな畏まらなくていいから」


 慌てて手を振る。


 すると、一人俺に近づいてきて、ひょいと顔を覗き込んできたのがルナだった。

 彼女は何も言わず、俺を見つめ続ける。


「なに、かな?」


「……え? いや、あれだけ強い人がどんな顔してるのかなぁと思って。でも思ったより普通のおじさ……じゃなくて、お兄さんなんだなぁと」


「ちょっと、ルナ!!!」


 ヒカリはルナの淡青の団子髪をポンと叩く。


「ヒカリっち、そんな怒んないでよ。三枝さんも……ごめんね?」


 ルナは首を傾け、片目を瞑る。

 自分の可愛いを知っているような仕草。


 さすがスリースターズの愛嬌担当と言われるだけあるな。

 嫌味を全く感じさせない。


 一方で。


 二人の後ろから何も言わずこちらを静かに見ている少女、カナデ。


 じっと俺を観察するような視線。

 まるで何かを分析する教授のように。


「……」


 目が合う。


 一瞬だけ、カナデの眉が動いた。


「……あの時と、口調が違う」


 小さく、独り言のような呟き。


「え?」


 俺が聞き返す前に、ルナが反応した。


「え、そうだったっけ?」


「……うん」


 カナデは頷く。


「別人……みたい」


 ヒカリが、困ったように笑った。


「カナデ、そんな言い方……」


「事実」


 ばっさり。


 俺は苦笑するしかなかった。


「まぁ……色々あったからな」


 嘘ではない。

 というかこれ以上何を言えばいいか分からない。


 カナデはじっと俺を見つめたまま、何かを考えているようだった。


 その時。


 奥の扉が開き、一人の大人が姿を現した。


 落ち着いた雰囲気の女性。

 年齢は俺と同じくらいか。

 オフィスカジュアルなスーツに身を包み、髪は緩くウェーブのかかった黒のミディアム。


 穏やかで優しい笑み。


「神崎しゃちょー、おはよーございます!」


「おはよう」


 社長はルナたちへ穏やかに挨拶を返したのち、俺へ視線が移る。


「三枝さん、本日はお時間をいただき、ありがとうございます。私はこの事務所の代表を務めております」


 名刺を差し出される。


「スリースターズのマネージャー兼、社長の神崎と申します」


「あーえっと……三枝恒一です」


 俺は名刺を受け取り、軽く頭を下げた。


「――とりあえず、お掛けになってください」


 社長は微笑み、来客用のソファを手で差す。


 それからソファに腰をかけたところで、再び会話が始まった。


「三枝さん、まずは改めて。スリースターズを救ってくださり、本当にありがとうございました」


 その言葉は、軽くなかった。


 形式的でもない。

 本心からの感謝だと、はっきり分かる声音。


「いえ、探索者同士が助け合うのは当然のことですから」


 だからこそ、俺は本心でそう語った。

 そして次の社長の言葉を待つ。


「……やはり、三枝さんは素敵な方ですね。私の見込み通りでした」


「見込み通り……?」


「はい」


 社長は微笑んだのち、続きの言葉を切り出していく。


「では、単刀直入に――」


 空気が、少しだけ引き締まる。


「三枝恒一さん」


 一拍。


「うちの事務所に入って頂けませんか?」


 予想していなかったわけじゃない。

 だが実際に口にされると、やはり少し息を呑んだ。


「……勧誘、ですか」


「はい」


 社長は頷く。


「三枝さんは、元〈アケボノ〉所属。長年、探索者として安定した活動を続けてきた。派手さはなくとも、堅実。状況判断が早く、無理をしない」


 社長はそのまま続ける。


「これほど信頼できる探索者は、そういません」


 耳が痛い評価だ。


「そして、あの配信で見せた実力は――」


 社長は、はっきりと言った。


「その堅実の枠に、収まるものではありませんでした」


 俺は、何も言えなかった。


「実際、昨日の配信はすでに再生回数50万以上。『謎のわっち口調探索者』も晴れてSNSのトレンド入りとなっています。ですが現状、世間ではコラボ演出や仕込みだと疑う声ばかり」


 社長の視線が鋭くなる。


「今、あなたの力が本物だと知っているのは、私たちだけです」


「……本当に強かった」


 カナデが、ぽつりと呟く。


「うん。ありゃスゴかったね」


 ルナも頷く。


「三枝さんは、本物です」


 ヒカリは、まっすぐ俺を見る。


 胸の奥が、少し熱くなった。


「これから先遠くない未来、大手事務所が動きます。引き抜き、契約、独占。三枝さんを取り合う事務所間の競争が始まるでしょう」


「そんな、大袈裟な」


「いいえ、そんなことはありません。刀、話題性、本来の実力。これだけ揃っていて、手を挙げない事務所はないと言っていい」


 社長はそのまま言葉を紡ぐ。


「この先三枝さんの自宅前には、事務所のスカウトマンが押し寄せ、毎日のように勧誘がなされることでしょう」


「えぇ、そうなりますかね……?」


「うちの事務所なら、契約金をいくら出します。うちはもっといい条件を。こんな話が毎日尽きません。ですが、もし三枝さんがうちに所属して下されば――」


 一拍、


「スリースターズ所属という肩書きは、無闇な干渉を防ぐ盾になります」


 合理的だ。

 そして、優しい提案でもある。


「そして、これがうちの条件です」


 社長は、資料を一枚差し出した。


 そこに書かれていた金額を見て、俺は思わず目を見開いた。


 それは、俺が〈オリオンプロダクション〉にいた頃の二十倍以上であり、


 〈アケボノ〉にいた頃の十倍以上だったからだ。 


「……破格ですね」


「一般的には、そうですね。ですが――」


 社長は小さく笑った。


「三枝さんの才能をお借りする対価として考えれば、

 むしろ安いくらいだと、私は思っています。そして、守ってほしいんです」


 小さく息を吐いた彼女は、こう告げた。


「スリースターズを。彼女たち三人を。その隣に立つ、一人の仲間として」


 その声は、計算ではなく確信に近かった。


「配信も増えますし……正直、今回みたいなこと、またあると思うので」


 ヒカリが、少しだけ照れたように言う。


「安心できる人が側にいてくれるの、すっごく心強い!」


 ルナが元気よく手を挙げる。


 カナデは、相変わらずこちらを見つめたまま。


 俺は、しばらく黙って考えた。


 正直言えばありがたい。

 願ってもない提案だ。

 これを受ければお金にも困らないし、ある程度の地位も得られる。


 社長やスリースターズのみんなは俺のことを求めてくれているけれど、それは俺じゃなく冴斬、そして彩芽に対して。


 決して三枝恒一のことではないのだ。


 だからこの提案、俺が受けるわけにはいかない。


 ――と、以前の俺なら答えただろう。

 

「分かりました。ぜひお願いします!」


 俺は迷うことなくそう答えた。


 誓ったからな。

 冴斬、そして彩芽の前で。


 ――強くなりたいと。


 一瞬、空気が止まった。


 そして次の瞬間。


「やったー! これで正式に仲間だね!」


 ルナが豪快に飛び上がる。


「よろしくお願いします、三枝さん」


 ヒカリは丁寧に頭を下げ、カナデは「よろしく」と静かに呟いた。


「こちらこそ、お願いします……三枝さん」


 社長も、満足そうに頷く。


 この歓迎ムードに答えないとな。

 俺はそう思った。


「ではさっそく、三枝さんにお願いしたい仕事がありまして……」


 そして話はさっそく業務へ移る。


「はい、なんでしょう?」


「三日後、ヒカリに……剣の修行をつけて頂きたいんです」


 俺は思わず目を瞬かせた。


「え?」


「私……前衛として、もっと強くなりたいんです」


 ヒカリの真剣な眼差し。


「三枝さんの剣、間近で見て……教わりたいって、思いました」


「いや、でもさ」


 俺は苦笑する。


「ヒカリ、さんの方が探索者ランク上じゃないか」


「ランクと剣は別です」


 即答だった。


 なるほど。

 まぁ彩芽だっている。

 俺が未熟な部分は、彼女に頼らせてもらおう。


「俺で良ければ、修行しよう」


 ヒカリの顔が、ぱっと明るくなる。


「本当ですか!」


「お願いしますね」


 社長が微笑む。


「はい。任せてください」


『……言っておくが』


 頭の奥で、再び声が。


『そんなことで、わっちはお主に取り憑かんぞ?』


 まるで見計らっていたようなタイミングで、彩芽はそう俺に告げる。


(……今言う?)


『頼まれたのはお主だ。自らの力でやり遂げろ』


 俺は、内心でため息をついた。

 いや、まぁその通りだな。


(分かってるよ、彩芽)


 こうして俺の日常が、新しい方向へと動き始めた。


 まずは三日後、ヒカリの修行のために、俺は俺のできることをする。

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