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妖刀を拾った中年探索者、女侍の亡霊に死ぬほど鍛えられる〜悪いヤツらを斬って美少女探索者パーティを助けた俺、配信でバズり始める。  作者: 甲賀流


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ヒカリと湊


「おはよう、ヒカリ」

 

 湊の声、それはまるで昨日の続きのように自然な声音だった。


 昨日と同じ笑み。

 昨日と同じ距離感。


 違うのは――ここがヒカリの居場所だということだけだ。


 ルナがヒカリと湊を交互に見る。


「え、マジで……?」


 戸惑い半分、警戒半分。


 カナデは一歩も動かない。

 だがその視線は、湊の立ち姿、呼吸、重心の置き方までを静かに観察している。


 そして湊の視線は――


 ゆっくりと俺へ向いた。


「三枝恒一さんですね。配信、拝見しました。木刀であそこまでやれるとは……さすがです」


 穏やかな口調。

 称賛の言葉。


 だがその目は、俺の動きや立ち位置を確認するように細められている。


 敵意はない。


 だが、仲間を見る目でもない。


 その空気を和らげるように、神崎社長が柔らかく口を開いた。


「実は、事前にご相談をいただいてまして……」


 社長は少しだけ申し訳なさそうに微笑む。


「幼馴染のヒカリさんをびっくりさせたいからと、今日までは黙っていてほしいとお願いされていたんです」


 昨日の「またね」は、これだったのか。


「いきなり驚かせてしまって、すみません」


 湊は丁寧に頭を下げる。


 姿勢も美しい。

 声も落ち着いている。

 視線も真っ直ぐ。


 非の打ち所がない。


 だからこそ、余計に引っかかる。

 湊を見るヒカリの暗い表情も。

 


「では、本日の任務ですが――」


 話題を切り替えるように社長がタブレットを開く。


「初日ということなので、二手に分かれていただきます。少しずつ、皆さんと仲を深めていってもらおうかなと思いまして」


 自然な采配。

 合理的だ。


「スリースターズの皆さんは十階層での素材回収任務。三枝さんと十河さんは、十一階層での小規模討伐任務をお願いします」


 一瞬。


 ヒカリの視線が俺に向いた。


 助けを求める目ではない。

 だが完全に平静でもなかった。


 不安か。

 それとも少しの安堵か。


 今は任務に集中すべきだと、俺は特に声をかけずに


「では、任務開始です」


 


 * * *



 十階層、スリースターズ。


 ダンジョンの空気は、地上より少し冷たい。


 ドローンが浮き上がる。

 赤い録画ランプが灯る。


「はーい! みなさんこんにちはー!」


 ルナの明るい声が、岩壁に反響する。


「今日はスリースターズ三人での配信になります!」


 コメント欄が流れ始める。


”あれ、コッチーは?”

”木刀は流石にやりすぎたか”

”つまり謹慎中と?”

”縛りプレイ、本当に縛られてて草”

”三人配信久しぶり!”

”それはそれで楽しみ”


 ルナが笑う。


「ちがうちがう! コッチーは別任務!」


 ヒカリが続こうとして――


 一瞬だけ、言葉が遅れた。


 ほんのコンマ数秒。


 だが配信では致命的なズレだ。


 その背中をルナがぽん、と軽く叩く。


「ほら、気楽に行こ?」


 小さな声。

 カメラには乗らない距離。


 ヒカリははっとして、すぐにカメラへ向き直る。


「はい。今日は三人で、しっかり任務をこなします」


 笑顔。

 だが少しだけ硬い。

 それはもしかしたら、画面越しに視聴者にも伝わっていたかもしれない。



 だが戦闘は安定していた。


 ルナの魔法。

 ヒカリの近接攻撃

 カナデの的確な支援。


 完璧に近い連携。


 だが。


 ヒカリの攻撃が、ほんのわずかに早い。

 少し走り気味。


 それだけでパーティのテンポがズレる。


 ルナはそれを察して、テンポを半歩落とす。

 カナデは支援の幅をを少し広く取る。


 誰も言葉にはしない。


 だが今日の攻略は幸い十階層。

 少し調子が崩れた程度で、どうにかなるほど難易度の高い階層ではない。


”やっぱ三人強いな”

”安定感えぐい”

”ヒカリ今日ちょい元気ない?”

”気のせいか?”


 やはり視聴者の中にはヒカリの不調に気づくものもいた。

 だがスリースターズの誰もが、それらのコメントを知らないフリで通していく。



 そして任務は予定通り終了した。


「本日の任務は以上になります!」


 ルナが締める。


「ご視聴ありがとうございましたー!」


 配信が切れ、ドローンが降りる。


 赤いランプが消えた瞬間。

 空気が、現実に戻る。



「……でさ」


 ルナがヒカリを見る。


 声色は軽いが、逃がさない。


「湊って人と、どういう関係なの?」


 カナデも視線を向ける。


 逃げ場のない、けれど責めない空気。

 

 ヒカリは、少しだけ視線を落とした。


「幼馴染だよ、本当に」


 ヒカリは視線を落としたまま続ける。


「小さい頃から、ずっと一緒だった」


 公園で木の枝を振り回して「いつか本物の探索者になるんだ」って笑って。


 テレビに映る最前線の映像を見ながら、「俺たちもあそこに立つんだ」って。


 子供の頃の約束。


 初恋、と言ってもいいのかもしれない。


 でも大きくなるにつれて、そういう甘い感情は薄れていった。


 代わりに残ったのは――


 同じ夢を追う仲間という確かな意識。


「……それで、一緒に探索者になった」


 ルナとカナデは黙って聞いている。


「最初は本当に簡単な任務ばかりだったよ」


 三階層。

 五階層。

 素材回収、単体討伐。


 成功するたびに、二人でハイタッチして。


『いけてるね、僕たち』


 湊はいつも、少し誇らしげに言った。


 ヒカリは信じていた。


 本当に、このまま二人で上へ行けると。


 

「あれは十階層に上がった時だった」


 声がわずかに震える。


「私……油断して、後ろを取られたの」


 背後からの一撃。


 死角。


 ストーンリッパーより速い、突進型の個体。

 頑強な肉体で一撃があまりに強いモンスター。


「気づかなかった」


 その瞬間。


 視界に飛び込んできたのは――


 自分の前に立つ湊の背中。


 鈍い音。


 骨の軋む音。


「……っ」


 ヒカリは拳を握る。


「私、怖くて……その場で固まっちゃって」


 正面からだと、倒せた敵だったのに。


 一瞬。


 本当に一瞬。


 体が動かなかった。


「助けるのが遅れた」


 急いで外に出て、病院へ運び、検査を受けて。


 結果は――頸髄損傷。


 不全麻痺。


「動ける。歩ける。でも……」


 探索者なんて、到底無理なレベル。


 私はしばらく毎日、病院へ通った。


 最初は湊も笑っていた。


「大げさだって」


「すぐ治るって」


 でも現実は変わらなかった。



 ある日。


 静かな病室で、湊は言った。


「もう来なくていい」


 ヒカリは首を振った。


「なんで」


「俺のことは忘れて、探索者を楽しくやってくれ」


 ヒカリは迷った。


 辞めるべきか。


 一緒にいられないなら意味がないんじゃないか。


 でも。


 湊は自分のせいで夢を失った。


 だからこそ、自分だけ辞めるなんて――


 それは違う。


「お見舞いにも行き続けるって決めた」


 翌日、病院に行った。


 だが。


 病室はもう空だった。


 転院。


 場所は告げられていない。


 看護師からあるメモを手渡された


『僕は僕で新しい人生を歩みます。だから、どうか君だけは探索者を続けてほしい。僕の分まで』


 それが最後。

 


 それから半年。

 色々調べたけど、何も分からなかった。


 湊がどこで何をしているのか。


 生きているのかさえ。


「スリースターズに出会ったのは、それから一年が経った後だった」


 声が少しだけ落ち着く。


 沈黙。


 ルナがゆっくり言う。


「そう、だったんだ」


 カナデは静かに結論を出す。


「……今の感情は、罪悪感?」


 ヒカリは小さく首を振った。


「分からない。ただ、復帰したって言われて……」


 息が詰まる。


「体が治ったって聞いて、心が揺れた……」


 本当に嬉しい。


 ホッともした。


 でも同時に――


 どうやって?


 あのレベルの損傷が。


 そんな簡単に。


 しかもB級に並べるほど強くなって。


 ありえない。


 だから心が揺れている。


 罪悪感だけじゃない。


 何かがおかしいという直感も。


 ヒカリの中にたしかにあった。



 そして――


 そんなスリースターズの任務と並行して、恒一は湊と二人で十一階層の討伐任務をこなしていた。

 

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― 新着の感想 ―
こんにちは。 >何かがおかしい こういう時に感じる第六感というか虫の知らせ的なやつって、大体当たりますからなぁ…。 つまりこやつはショッ○ーの改造人間になってる…というのは冗談ですが、ダンジョンのな…
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