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妖刀を拾った中年探索者、女侍の亡霊に死ぬほど鍛えられる〜悪いヤツらを斬って美少女探索者パーティを助けた俺、配信でバズり始める。  作者: 甲賀流


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事務所体験


「僕ともう一度、パーティを組もう」


 夕暮れの光を背に、湊は柔らかく笑っていた。


 その笑顔はきっと昔と変わらないのだろう。


 けれど――


「……」


 青年の視線の先、ヒカリは言葉を失っていた。


「ヒカリ……知り合い?」


 ルナが小さくヒカリの横顔を覗き込む。


「え……っと、うん、まぁ……」


 歯切れが悪い。

 いつものヒカリらしくない。


 湊は困ったように笑った。


「知り合いだなんて、余所余所しいなぁ」


 軽い口調。

 その視線は、ヒカリから一瞬も外れない。


「僕はヒカリの幼馴染なんです」


 俺たちに向かって丁寧に頭を下げる。


「湊といいます」


 穏やかな声。


「昔、探索者になりたての頃、僕とヒカリはパーティを組んでたんですよ」


 意味深に、少しだけ間を置く。


「……途中まで、ですけどね」


 ヒカリの肩が、わずかに揺れた。


「ど、どうして……」


 ようやく絞り出したような声。


「どうして湊が、ここにいるの?」


 その問いに、湊は優しく目を細める。


「復帰したんだ」


 さらりと言った。


「もう一度、探索者としてやっていける体になった」


一瞬だけ、俺はその言葉に違和感を覚えた。


 体になった?

 まるでそうじゃなかったような言いぶりだ。


 ヒカリの表情が強張る。


「……怪我は」


「もう問題ないよ」


 被せるように、しかし穏やかに。


「ヒカリが気にすることじゃない」


 その言い方が、妙に引っかかった。


 ルナが慎重に口を開く。


「えっと……それで、もう一度パーティを?」


「はい」


 湊は迷いなく頷く。


「僕はもう、B級試験を受けられる位置にいる」


穏やかに微笑む。


「次の試験で、必ず上がる。ようやく今のヒカリと横並びできるところまできた」


 静かな自信。


「だから迎えに来たんだよ」


 ヒカリの喉が小さく鳴った。


「で、でも私、今はスリースターズで……」


 か細い声。


「僕の方が先だったろ?」


 笑顔のまま、湊はヒカリの言葉に被せる。

 その言い方は、静かに鋭かった。


 ルナの眉がぴくりと動き、カナデの視線がほんの少し冷たくなる。


 俺は黙って二人の間を見る。


 どうみてもこの二人、ただの幼馴染じゃない。

 久々の再会にも関わらず戸惑うヒカリ、そんな様子を気にも留めず、話を続ける湊。

 正直、違和感しか感じない。


「今すぐ答えなくていいよ」


 湊は穏やかに言った。


「僕はいつまでも待つ」


 一歩下がる。


「ヒカリの答えを」


 それだけ言って、彼は軽く会釈した。


「じゃっ、今日はこれで失礼するよ」


 最後に、ヒカリだけを見て。


「またね」


 夕暮れの中へと、去っていく。


 沈黙。


 ルナが心配そうにぽつりと呟く。


「……ヒカリ」


 ヒカリは、まだその背中を見つめていた。


 その目は揺れている。


 迷いと。

 過去と。

 そして、何かしら消えていない感情。


 きっとヒカリは今、過去と対峙している。


 彼とヒカリだけが知り得る過去。

 そう簡単に介入できる問題では無い。


 今はそっと傍で見守り、本当に助けが必要な時に手を貸せるよう、心の準備をしておこう。

 

 * * *



 翌日。


 スリースターズの事務所。


 いつも通りのはずの空気が、ほんの少しだけ重いように感じた。


 ソファに座るヒカリはスマホ端末を見つめたまま、どこか上の空だ。


「……ヒカリ」


 ルナが隣に腰を下ろす。


「昨日のこと、まだ引きずってる?」


「い、いや……そんなことは……」


 と言いつつも、声に覇気がない。


「顔、曇ってる」


 カナデが静かに言う。


 ヒカリは小さく笑おうとした。


「大丈夫だよ。ちゃんと、切り替えるから」


「まー無理しなくていいって」


 ルナが軽くヒカリの肩を叩く。


「今日は配信だけだし、気軽にいこ?」


 ヒカリは、ゆっくりと息を吐いた。


「……そう、だね」


 顔を上げる。


 いつもの柔らかい笑顔――には少し届かないが、それでも前を向こうとしている。


 俺はその様子を見ながら、昨日の湊の目を思い出していた。


 あの男。

 一見穏やかだった。


 だがあまりにもまっすぐすぎる。


 ヒカリの気持ちを一切考えてないような口ぶり。

 自分はヒカリを想っていて、ヒカリも当然自分のことを想ってくれている。


 それくらいの強気さだった。


 あれは多分、好意を越えた執着だ。

 湊の言動には、やはり注意が必要かもな。


「みなさん、おはようございます」


 柔らかな声が響く。


 神崎社長はいつもの上品な笑顔、上品な立ち振る舞いで部屋に入ってきた。


「おはようございます!」


「昨日はお疲れさまでした。とても好評でしたね」


「しゃちょー、あれは木刀バズりですよ」


 ルナがにやっと笑う。


「ええ。コメントの伸びも良かったです」


 社長も小さく笑う。


「三枝さんがまさかあんなおもしろい企画を編み出してくれるとは思いませんでした」


「いやいや、あれは企画とかじゃなくて、実は修行の一環でして……」


「またまたぁ〜。いい大人が、企画が滑った時の保険をかけるのはどうかと思うけどなぁ〜」


「……今思えば、修行、嘘くさい」


「おい君たち、仲間のおじさんをからかって、そんなに楽しいか!?」


 ルナとカナデのイジリに近い指摘を、俺は反射的にそう返す。


「ははっ、コッチーごめんって」


「ではまぁ、修行ということにしておきましょう」


 いや、しておきましょうって……。

 全然信用してくれないぞ。


 神崎社長が小さく笑ったのち、少しだけ間を置いて、他の話を切り出す。


「それと今日からですね」


 神崎社長が、柔らかく微笑みながら言った。


「体験で来てくださる探索者の方がいまして」


 一瞬、空気が止まる。


「体験?」


 ルナが首を傾げる。


 その時だった。


 コン、とドアがノックされた。


「どうぞ」


 社長が促す。


 扉が開く。


「失礼します」


 穏やかな声。


 爽やかな笑顔。


 昨日と同じ、整った黒髪の青年。


十河湊(そごうみなと)です」


 軽く、丁寧に頭を下げる。


「本日は体験という形で、お世話になります」


 ヒカリの顔が、はっきりと強張った。


「……うそ」


 小さく、声が零れる。


「おはよう、ヒカリ」


 湊は昨日と同じ穏やかな笑みで、スリースターズ事務所の入口から現れた。


 

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