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妖刀を拾った中年探索者、女侍の亡霊に死ぬほど鍛えられる〜悪いヤツらを斬って美少女探索者パーティを助けた俺、配信でバズり始める。  作者: 甲賀流


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刀気


 探索者協会、カフェテリアを出てからしばらく。


 再び来たるは一階層。


 初めて出会った同じ刀使いの不破ツバキ。

 彼女は俺と冴斬が出会った場所に行きたいようだが、そこで何をしたいんだろうか。


 そんなことを考えながら歩く道すがら、俺は何度も彼女の手元を見てしまっていた。


 両手にあるのは――木刀。


 しかも一本じゃない。

 二本だ。


 どちらも明らかに実物で、冴斬のように具現化されたものではない。


「……あの」


 我慢できず、声をかける。


「ずっと気になってたんですけど」


「うん?」


「なんで、木刀なんですか?」


 A級探索者。

 しかも刀使い。


 どう考えても、所持する武器が場違いすぎる。


 ツバキは一瞬だけこちらを見てから、にっと楽しそうに笑った。


「それはのぉ、兄ちゃん」


 前を向いたまま、軽い調子で言う。


「着いてからのお楽しみというやつじゃ」


「……そういう感じですか」


「そういう感じじゃ」


 悪びれる様子は一切ない。


 分からんけど、この木刀には意味がある。

 ツバキはそんな口ぶりだった。


 嫌な予感だけが、胸の中に広がっていく。


「おっと」


 するとツバキが足を止めた。


「敵じゃぞ」


 その一言で、空気が切り替わる。


 俺も即座に冴斬を具現化し、構える。


 前方。

 通路の奥からリザードマンが姿を現していた。

 一階層の中では最強の類だ。


「――あぁ、待て待て」


 ツバキがひらりと手を振る。


「ここは妾に任せておれ」


「え?」


 止める間もなかった。


 次の瞬間。


 ツバキの全身から、ぞわりと何かが立ち上る。


 圧。


 殺気とは違う。

 魔力とも異なる特別なエネルギー。

 だが確実に斬るためのものだということが、隣に立つ俺にもよく分かる。


「……っ」


 思わず、冴斬を握る手に力が入った。


 ――似ている。


 冴斬から感じるものと同じ系統の感覚。

 なんとなくそう感じた。


 そして彼女の身にまとうそれは、武器に宿っているのではない。

 ツバキ自身から、直接発せられている。


 おそらく冴斬を使った時の身体強化と同じ仕組み。


 だが彼女は刀を持たずに行っている。


「ふん」


 踏み込み。


 木刀が、横一閃。


 ――次の瞬間。


 リザードマンは、真っ二つになっていた。


「……え」


 言葉が、自然と零れた。


 いくら何かをまとっていたとしても、木刀だぞ。

 ただの木でできた棒。

 刃だってない。


 それなのに。


「ほれ」


 ツバキは、何事もなかったように木刀を肩に担ぐ。


「すごすぎる……」


 あまりに次元が違いすぎてその異常さ、異質さに正直ピンと来ないくらいだ。

 少なくとも今の俺じゃ、彼女の実力には到底及ぼないだろう。


「本物の刀使いとはの」


 軽い口調、だが誇りを込めて。


「武器に依存せんものじゃ」


 そう言い切り、再び前を向いた。


 ……なるほど。


 ここまで戦ってきて、自分が刀を使いこなせているつもりになっていたのが、少し恥ずかしくなる。

 


 それからほどなくして。


 俺たちは一階層の奥、あの部屋へと辿り着いた。


「ほぉ」


 ツバキが、感心したように声を漏らす。


「一階層に、こんなところがあったとはのぉ」


 ゆっくりと空気を吸い込み、


「いやぁ……空気が美味いっちゃ」


 ――違う声。


 背後から聞こえた、聞き覚えのない声に、俺は思わず振り返った。


 そこに立っていたのは、一人の女性。

 和装で茶髪を後ろでひとつにまとめた、快活そうな雰囲気。


「……え?」


 理解が追いつかない。

 どっから出てきたんだ、この人。


「ほれぇ、彩芽も出てくるっちゃ」


 明るく高い、いわゆるアニメ声のような声音で俺の中に眠る女侍の名を口にした。


 その言葉に答えるように、今度は低く落ち着いた声が響く。


「はぁ……」


 ため息。


「ゆっくり休んでいるものを、無理やり起こしにかかるとは」


 そして。


「相変わらず、自分勝手な連中だのぉ」


 ――彩芽だ。


 俺の内側から、ぬるりと現れた。


涼寧(すずね)


 彩芽が和装の女性に目を向け、そのままツバキへ視線を走らせる。


「……と、そっちは刀の所有者。不破ツバキだったか?」


「おぉ、これはこれは……」


 ツバキは一歩前に出ると、その場で片膝をつき、深く頭を下げた。


「彩芽殿。こうして直接お会いするのは、初めてですね」


 俺は、言葉を失った。


 A級探索者が。

 さっきまで軽口を叩いていたツバキが。


 迷いなく、頭を下げている。


「ちょっとツバキ〜」


 隣の女性――涼寧が、不満そうに頬を膨らませる。


「あっちには頭を下げたこともないくせに、この女には下げるっちゃか?」


「当然じゃろ」


 ツバキは即答した。


「彩芽さんは、刀鍛冶師の中で唯一、自分で戦っていたスゴい御方じゃ」


 ちらりと涼寧を見る。


「悪いが、ただの刀鍛冶師だった涼寧とは格が違う」


「むぅ……」


 露骨に不満そうな涼寧。


 一方で彩芽は、相変わらず淡々としている。


「あれはわっちと同じ、刀に憑く亡霊の類いよ。わっちが眠っている間に、面倒な連中に見つかったものだな、恒一」


 俺の方を見る。


「だが」


 ほんのわずか、口元が緩んだ気がした。


「これは悪い出会いじゃあないぞ」


「……え? それってどういう――? 」


「だがツバキよ」


 彩芽は俺の疑問をすっ飛ばす。


「ここはわっちにとって神聖な場所。そこにお主らは許可なく足を踏み入れおった。これはどういうことを意味するか、分かるか……?」


 ズンッ――


 この場の空気が一段重くなる。


 二十階層フロアボス、反響蜥蜴の磁場よりも強く背中にのしかかった。


「……ッ!?」


「ち、違うっちゃ……彩芽……ッ!」


 ツバキと涼寧が言葉に詰まった。

 彩芽の迫力に気圧され、体の震えを必死に抑えようとしているのが、目に見てわかる。


 隣にいる俺でさえ正直恐怖を感じた。


 彩芽が本気で怒っている。

 それだけこの場は彩芽にとって、大切な場所だったことを今になって思い知った。


「……彩芽、勝手に案内したのは俺だ。怒りをぶつけるなら、俺に――」


「冗談だ」


 フッと空気が軽くなった。

 さっきの怒気は一切感じられず、今はいつも通りの彼女に戻っている。


「まぁわっち抜きで話が進んでいることには少し腹を立てたが、それは仕方がないからのぉ」


 そう言って、カッカッカッと楽しげに笑う。


「彩芽殿、心臓に悪いですよ……」


「そうっちゃ、彩芽」


 二人とも安心したのか、その場にへたり込む。


 てかA級の探索者をそこまでビビらす彩芽って実はめちゃくちゃすごいヤツなんじゃ……?


「……まぁ冗談はさておきだ。うちの恒一に、何か話があるんじゃないのか?」


 彩芽が急に本題を切り込んだ。

 よくあの空気から話題を変えられるな。

 

 ツバキは一度、呼吸を整える。


「彩芽殿も知ってのとおりじゃが――」


 そしてゆっくりと語り始めた。


「今のダンジョンタワーでは、昔のフロアボスの復活が確認されとる」


 その言葉に、空気がぴんと張りつめた。


 この間の十九階層と二十階層のことだ。

 たしか逸ノ城会長は、今協会で調査中だと言っていたはず。


「あれは偶然ではない。この後も立て続けに起こっていくと、妾と涼寧は考えておる。じゃからこそ、妾たちは戦力の底上げを考えねばならん」


 あんなことが立て続けに……。

 だがあの二階層に偶然起こっただけとは、どう考えても都合がよすぎる。

 

 視線がゆっくりと俺に戻ってくる。


「恒一殿」


 ツバキのまっすぐ揺るぎない目。


「妾は兄ちゃんに、刀から借りるエネルギー、〈刀気とうき〉を用いた自己強化を習得してもらいたいと考えておる」


「……自己強化?」


「恒一、お主が冴斬を使っている時にやっていることだ」


 ……なるほど。

 つまり俺が相手に近づくために行っている脚力の強化や剣撃の強化のことか。

 たしかにあれは冴斬から流れてくるエネルギーを利用している。


「ツバキさん、それなら俺もできますよ――」

 

「刀を直接介さずに、じゃ」


 その瞬間、背筋にぞくりとしたものが走った。


「……は?」


 刀を使わずに、刀の力を使う。


 それがどれほど異常なことなのか――直感的に分かってしまった。


「……は? ではない。やるのか、やらぬのか、それだけのこと……いや、聞き方を少し変える」


 ツバキは口角を上げる。


「――兄ちゃん、強くなりたくはないか?」


 その問いはたしかに俺の心の奥まで深く響き、そして鋭く突き刺さった。

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