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妖刀を拾った中年探索者、女侍の亡霊に死ぬほど鍛えられる〜悪いヤツらを斬って美少女探索者パーティを助けた俺、配信でバズり始める。  作者: 甲賀流


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もう一人の刀使い


 探索者協会、カフェテリア。


 もう一人の刀使い。

 しかも配信嫌いのA級探索者。


 逸ノ城真琴会長から聞いた情報だけでも、ややこしい匂いしかしない。


 そもそもA級だ。

 俺とは住んでいる世界が違う。


 どんな人物なのか。

 会話になるのか。

 そもそも話しかけていい相手なのか。


 考えれば考えるほど、不安が胸の奥で渦を巻く。


 それでも足は止まらなかった。


 ――いや、正確には。


 気づいた時には、もう着いていた。


 一階。


 クエスト受注用の受付カウンターから少し離れた、カフェテリアの端。

 探索者たちが軽食を取りながら情報交換をしている、協会ではお馴染みの空間だ。


 昼時を少し過ぎた時間帯。

 人はそれなりに多いが、騒がしいほどでもない。


 カップ片手に雑談する者。

 端末を操作しながら黙々と食事を取る者。

 パーティ単位で次のダンジョンについて話し合っている連中もいる。


 ――どこにでもある光景。


「いらっしゃいませ。おひとり様ですか?」


 突然声をかけられて、俺は肩をびくっと跳ねさせた。


 振り返ると、そこにはカフェテリアのスタッフ。

 トレーを抱えたまま、にこやかにこちらを見ている。


「え、あ……はい、たぶん……」


 たぶん、というのもおかしな話だが、正直なところだ。


 俺は視線を泳がせる。


 ……どの人だ?


 会長は「今の時間ならいると思う」とは言っていたが、顔も名前も知らない以上、判断材料がない。


 それっぽい雰囲気の人は何人かいる。

 だが、誰がもう一人の刀使いなのかは分からない。


 単純に武器を握ってくれていたら良かったんだが、カフェテリアで刀を出す意味もないし、俺と同じで、戦う時のみ空間から出す仕様なのかもしれない。


 ……いや、これ無理だな。


 一瞬で結論が出た。


 一旦、ここから出よう。

 落ち着いてからまた来ればいい。


「あ、すみません」


 俺はスタッフに軽く頭を下げながら、くるりと踵を返す。


「やっぱりまた後で来ま――」


 その瞬間だった。


「おーい、そこに立っとる兄ちゃん」


 どこか間延びした、明るい声。


「兄ちゃんの席は、ここじゃ」


 ……え?


 思わず足を止める。


 声のした方を見ると、カフェテリアの奥。

 壁際の席に座る、ひとりの女性がこちらを見ていた。


 パッと見、二十代後半から三十代前半くらい。

 ラフな探索者装備に、軽く羽織った上着。


 彼女は手をひらひら振りながら、


「逃げんでもよいよい」


 楽しそうに笑っている。


「……え、俺ですか?」


「他に誰がおるんじゃ」


 くすっと笑う。


「兄ちゃん、逸ノ城会長からカフェテリアに行くよう言われたんじゃろ?」


 その一言で、ようやく確信する。


 この人だ。


 会長の言っていた、もう一人の刀使い。

 配信嫌いのA級探索者。


 そろそろ周りの視線も痛い。

 このまま佇んでいるわけにもいかないので、俺は促されるままに席へ向かった。


「……失礼します」


「うむ」


 向かいの席に腰を下ろすと、彼女は満足そうに頷いた。


 近くで見ると表情は柔らかい。

 どこか人懐っこくよく笑うタイプに見える。


 気さくで朗らかで、オマケにスリースターズの三人にも負けないくらい美人な顔立ち。


 配信が苦手そうには思えないが。


「そこの姉ちゃんや」


 彼女が手を挙げ呼んだのは、さっきの店員さん。


「はい。どうされましたか?」


「ミルクカフェオレ、砂糖多めを二つ。シロップを追加で持ってきてくれぬか?」


「かしこまりました!」


 店員さんは聞きなれないであろうオーダーに顔色ひとつ変えず対応し、厨房へ消えていった。


「……あの、それって――」


「兄ちゃんの分も頼んでおいたぞ」


 ニッと無邪気に笑みを浮かべる。


「あ、ありがとうございます」


 俺の元にも届くのか。

 なんかすごく甘そうな飲み物が。


「まぁせっかくじゃ。飲み物が届く前にお互い自己紹介からしておくか」


 彼女は明るい声色を一切変えず、名を名乗った。



「妾は、不破ツバキ。もう一人の刀使いじゃ」


「……えっと」


 正直に言えば、俺はその名前を知らなかった。


 A級探索者。

 配信嫌い。

 協会内でも有名――らしい。


 だが少なくとも、一般の探索者や配信界隈で名前が出回るタイプじゃない。

 耳に入ってこないのも無理はない。


「……すみません。俺、存じ上げなくて」


 そう言うと、ツバキは一瞬きょとんとした顔をしてすぐに笑った。


「あはは、そうじゃろうな」


 まったく気にした様子もない。


「妾は表に出んし、配信もせん。功績も、今さら誇るほどのものでもないしの」


 今さら。

 そう言えるほどの実績があるということか。


「それよりもじゃ」


 ツバキは急に話題を切り替えた。


 視線が、俺の奥――もっと言えば、内側を射抜く。


「兄ちゃんに憑いとるのは、彩芽じゃな?」


「……っ」


 心臓が、はっきりと跳ねた。


「なんで、それを……」


 問い返しかけて、言葉が詰まる。


 冴斬を握っているわけでもない。

 彩芽が喋ったわけでもない。


 なのに、即断だった。


「やっぱりか」


 ツバキは、どこか納得したように頷く。


「配信の時の喋りと、立ち方。それにこの間の十九階層、二十階層のフロアボス、妾には刀で能力を断ち切ったようにみえた」


 指を一本立てる。


「そんなことをできるのは……彩芽の持つ冴斬だけだからのぉ」


「……」


 そこまで断定されてしまっては、俺には否定しようもない。


 しかし彩芽に許可なく告げていいものなのか。

 そう思い、内側へ意識を向ける。


(彩芽?)


 ――だが返事はない。


 あ、そういえば。


 この前の憑依で、エネルギーをほぼ使い切ったと言っていたな。

 しばらく表には出てこられない、と。


 ……だからか。


 話題に上がっても、本人からの反応がないのは。


「なるほどの」


 ツバキは何かを察したらしく、それ以上深くは追及しなかった。


 そして、自然な流れで視線が俺と交わる。


「それとあの刀……」


 軽い口調だが、目は真剣だった。


「冴斬は、どこで出会った?」


「……一階層ですけど」


 これくらいは答えていいだろう。


 すると、ツバキの眉がぴくりと動いた。


 しばしの沈黙。


 彼女はカフェオレを一口飲み、ゆっくり息を吐いた。


「……なるほど」


 そして、にやりと笑う。


「ぜひ、その場所を見せてはくれんか?」


「場所ですか?」


「おう」


 即答だった。


「刀が眠っとった場所。彩芽と兄ちゃんの縁が繋がった場所じゃ」


 カップを置き、身を乗り出す。


「積もる話はそこでしよう。そこなら彩芽も、出てこれるんじゃろ?」


 それだけ言って、再び表情を緩めた。

 さすが同じ刀を使う探索者。

 隠し事はできなさそうだな。


「まぁそうですね」


「だったらさっそく行くぞ、兄ちゃん」


「え、今からですか!?」


「当たり前だ。善は急げと言うだろう? だがその前に、兄ちゃん……」

 

 ツバキは俺の前のカップを指さす。


「それ、冷めるぞ」


「……」


 言われて初めて、俺は甘ったるいカフェオレに口をつけた。


 ――甘い。


 思った十倍は甘かった。

 ミルクのまろやかさの後に押し寄せる砂糖の甘さ。

 ほぼシロップを直飲みするくらいの暴力的な糖度が口の中をねっとりと広がっていく。


「刀の話をする時は、甘い飲み物に限るな」


 一方のツバキは満足そうに飲んでいる。


 女性は甘いものが好きだと聞いていたが、ここまでとは俺も知らない事実だった。


 そして数分後。


 俺のカップが空になり、ツバキは立ち上がった。


「では、行くか」


「え、あっ、はい!」


 彩芽との会話もできないまま、流れのままに冴斬と出会ったあの場所へ向かうことになった。


 まぁ、特に頼まれている仕事もない。

 問題はないだろう。


 念の為、一階層へ向かうことだけ神崎社長にメッセージで伝え、俺は不破ツバキの背中を追って歩き出した。

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