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妖刀を拾った中年探索者、女侍の亡霊に死ぬほど鍛えられる〜悪いヤツらを斬って美少女探索者パーティを助けた俺、配信でバズり始める。  作者: 甲賀流


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三枝恒一とアケボノ


 二十階層。


 巨大な蜥蜴が完全に沈黙し、広間には嫌になるほどの静けさが戻っていた。


 血の匂いと、砕けた床石。

 さっきまで確かに死地だった場所だ。


 冴斬を納め、俺はゆっくりと息を吐いた。


「恒一、悪いがもう限界だ……」


 体の内側から、彩芽の気配が遠ざかっていく。

 重かった魔力が抜け、身体が一気に現実へ引き戻される感覚。


 戻った。

 俺の体だ。

 四肢もしっかり動かせる。


「……ありがとう、彩芽」


 結局彩芽が無理をしてまで俺に憑依した理由は分からないまま。


 今は力を使い果たしたからか、彩芽の気配が薄まってしまってる。

 後で理由を聞かせてもらうからな。


「誰も……」


 最初に口を開いたのは、吉祥寺だった。


 剣は地面に転がったまま。

 吉祥寺は脱力した右腕を庇うように、体の内側に寄せている。

 血はもう流れていない。

 おそらく市村が回復したのだろう。


「誰も、助けに来てくれなんて頼んでねぇぞ」


 低く、吐き捨てるような声。


「オレたちだけでも、十分に討伐できた」


 その言葉に、空気が張りつめる。


 柊が一瞬だけ眉をひそめ、腕を組んだ。


「……そうね。結果、助けてもらった感じになっちゃったけど」


 冷えた視線をこちらに向ける。


 なるほど。

 歓迎ムードではないらしい。


 俺は肩をすくめた。


「俺も別に助けたつもりなんてない」


 それだけ。

 感情を乗せない一言。


 言い訳もしない。

 正当化もしない。


「……チッ」


 吉祥寺が、露骨に舌打ちする。


 その空気を割るように、一歩前へ出たのは――市村だった。


 彼は俺の前まで来ると、深く、深く頭を下げた。


「ありがとうございました」


 はっきりとした声。


「本当に……ありがとうございました、三枝さん」


 柊と吉祥寺が同時に市村を見る。


「市村?」


「おい、お前何してんだ――」


 だが、市村は顔を上げない。


「それとあの時……三枝さんをパーティから追い出す形になって、すみませんでした」


 静かに続ける。


「……本当は分かってたんです」


 拳を握り締める気配。


「高難易度に行けば、僕一人の補助じゃ成り立たない。三枝さんの堅実な立ち回りが必要だって」


 息を吸い、


「それでも……」


 言葉を探すように、少しだけ間が空く。


「それでも、一人前だって思われたかった」


 頭を下げたまま、続ける。


「アケボノの支援担当として、ちゃんと認められたくて……だから」


 声が、わずかに震えた。


「……追放の流れに、加担しました」


 その場に、重い沈黙が落ちる。


 俺は市村を見下ろしながら、しばらく何も言わなかった。


 正直、今さら責める気もない。

 もう終わった話だ。


「市村、顔上げていいよ」


 そう言うと、彼は恐る恐る顔を上げた。


「俺はもう、アケボノじゃない」


 淡々と、事実を告げる。


「今さら謝られても、何か変わるわけじゃないし」


 市村が唇を噛む。


「……ですよね」


「うん」


 俺はそのまま視線を外し、崩れ落ちた蜥蜴の死体を見る。


 アケボノの時の自分なら、こんな強敵を一人で倒せなかっただろう。

 今更ながらにそんな実感が湧いてくる。

 

 あの頃の自分とは、何もかもが違う。


 探索者としての自信や覚悟。

 背中を預ける仲間。

 そして何より、強くなりたいという想い。

 

「……じゃ、皆、元気で」


 背を向けたままそう言った。

 あの時、パーティを追放された時と同じように。

 

 振り返らずに歩き出す。


 背中に、何か言いたそうな気配を感じながらも――俺は立ち止まらなかった。



 * * *



 アケボノの事務所への帰り道。


 エレベーターの中は、嫌になるほど静かだった。


 誰も喋らない。

 喋れるわけがない。


 柊は腕を組んだまま壁にもたれ、市村は俯いて足元を見ている。


 オレは――鏡に映る自分の顔をじっと睨んでいた。


 ……クソ。


 情けねぇ顔だ。


 無意識に拳を握ろうとして、力が入らないことに気づく。

 右手だった。


 視線を落とし、何事もなかったかのように指を開閉する。


 ……動く。

 だが、どこか他人の手みたいに鈍い。


 脳裏に、さっきの光景が何度も蘇る。


 蜥蜴を一刀で断ち切った、あの剣。

 余裕すら感じさせる立ち姿。

 そして、振り返りもせずに去っていった背中。


 三枝恒一。


 オレが追い出した男。

 オレが、不要だと切り捨てた存在。


 なのに――


 助けられた。


 それも、圧倒的な差を見せつけられる形で。


「……」


 違う。

 腹が立ってるのは、あいつにじゃない。


 自分にだ。


 ずっと分かってた。


 高層に行けば行くほど、守りがどれだけ重要になるか。

 攻めだけじゃ、パーティは成り立たないってことを。


 三枝は、それを当然としてやっていた。


 前に出ない。

 目立たない。

 自分の功績を、絶対に主張しない。


 それがどれだけ異常で、どれだけありがたいことだったか――


 オレは、分かってた。


 分かってたからこそ、目を逸らした。


 あいつがいる限り、アケボノは安定する。


 でもそれは――


 オレが主役じゃなくなるってことだった。


 強さを誇り、結果で引っ張り、名前で売れていく。


 そういう探索者でいたかったオレにとって、三枝恒一の静かな強さは、邪魔だった。


 だから。


「守るだけの中年。高難易度じゃ通用しない。先がない」


 そんな言葉を並べて、自分を納得させて――アイツを追い出した。


 市村の言葉が、胸に刺さる。


『本当は分かってたんです』


 あぁ。

 そうだな。


 分かってたのは、オレも同じだ。


 なのに認めなかった。

 認めたら、自分の選択が間違いになるから。


 エレベーターが止まり、扉が開く。


「……行くぞ」


 オレは短く言って、先に歩き出した。


 ドアを押そうとして、右腕が一瞬遅れる。

 左手で誤魔化すように開けた。


 事務所のドアを開けると、見慣れた空間が広がる。


 なのに――どこか、足りない。


 静かすぎる。

 今まで感じたことのない違和感だ。


 三枝がいた時も、対して会話はなかった。


 だが今、アイツがいないこと自体に、オレは柄にもなく寂しいとか思っちまってる。


「……」


 柊が、ぽつりと呟いた。


「……アイツ、もう戻ってこないわよ」


 分かってる。


「分かってるよ」


 ソファに腰を下ろそうとして、反射的に右腕をつきかけて、止める。


 代わりに、ゆっくりと身体を預けた。


「今さら、だ」


 市村が、少しだけ視線を上げる。


「……それでも」


 言いかけて、止めた。


 それ以上は言わせない。


「いい」


 オレは天井を見上げた。


「アイツは、もう別の場所にいる」


 スリースターズ。

 新しい仲間。

 新しい立場。


 前を向いてる。


 だったら。


 オレたちも、向き合うしかない。


 自分たちが、何を失って、どこで間違えたのか。


「……次は、間違えねぇ」


 動かない右手を左手で軽く押さえながら、小さくそう呟いた。

 誰に言い聞かせるわけでもなく。

 

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― 新着の感想 ―
こんばんは。 三枝さんは彩芽さんに「気持ちの整理が付いてなくね?」と言われた→今回その辺に整理を付けられましたが…アケボノ側も今回きちんと気持ちの整理が付いたみたいですな。 今後は純粋に切磋琢磨でき…
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