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妖刀を拾った中年探索者、女侍の亡霊に死ぬほど鍛えられる〜悪いヤツらを斬って美少女探索者パーティを助けた俺、配信でバズり始める。  作者: 甲賀流


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回帰の死王〈リグレッサー〉


 回帰の死王〈リグレッサー〉。


 十九階層、最奥に現れたフロアボスを見て、彩芽が口に出した名前。


 今ソイツは、円形に広がるこの広間の中央で、微動だにせず――こちらを見ている。


 黒く焦げたような外殻。

 人型に近い輪郭を持ちながら、異様に長い四肢。

 関節の位置はどこか歪で、自然のものとは思えない。


 そして――外殻の隙間から覗く肉が、ゆっくりと蠢いていた。


 呼吸のように。

 あるいは、鼓動のように。


 そしてこちらを敵として認識している。


“なにあのバケモノ”

“黒のモビルスーツ着た魔女みたい”

“例え草すぎるが、そんな場合じゃないな”

“てかそもそもボス復活って前代未聞じゃね?”

“何がどうなってんのかサッパリ”


 次の瞬間、リグレッサーの視線が俺たちから自然と外れていった。


 ゆっくりと広間の端へ。


「……っ!?」


 その先にいたのは一人の男性探索者。

 壁際に座り込んだまま動けずにいる。

 魔力も尽きかけているのか、顔色は紙のように真っ白だ。


 リグレッサーが一歩踏み出す。

 重い足音が床を震わせる。


 弱いものから狩る――そんな理屈が当たり前かのように、一歩ずつその男に歩み寄る。


 そして異質なほど長い手を振りあげた。

 上腕から手指まで黒いエネルギーが横行する。


 そこから振り下ろしても、まだ手が届かないぐらいの位置取り。


 だが何かが起こってからじゃ遅い。

 そう思った時にはもう俺の身体が動いていた。


 迷いはなかった。


 俺は地を蹴り一直線に踏み込む。

 座り込む男の前に庇うように立ち、俺は目の前の異形の怪物と向き合う。


 冴斬を顕現させ、振るった。


 ――バシュッ!


 相手の攻撃パターンも分からず、無我夢中に冴斬で斬り裂いたそれは、鞭のようにしなるリグレッサーの強靭な腕だった。


 鈍い衝撃。

 腕が痺れる。


 めちゃくちゃ重い一撃だ。


 だが斬った!

 その頑強な腕は、俺の後方に転がっていく。


 冴斬は斬りたいものを選べる。

 だから俺は、リグレッサーを斬ることを思考し、本当に斬った。


 やっぱりスゴいな、冴斬って。


“……え、ヤバ”

“えええええええええ”

“未知の敵の腕を初手で斬るとかwwww”

“さすがコッチー”

“フロアボスにも通用する中年探索者”

“にしてもあの怪物の一撃エグイな”

“画面越しでもビビる威力”


 だが次の瞬間、斬られたはずの腕が宙を舞い、その切断部分に癒着する。

 そしてみるみるうちに元に戻った。


「うそ、だろ……!?」


 命懸けで受けたあの一撃。

 俺にとってはそうだっただけで、リグレッサーにとってはなんの苦痛でもなかったってか。


“……え?”

“今の、どうなった?”

“回復、って感じじゃないよな”


 今のを見て、一瞬で理解した。


 俺が探索者になった十数年でこのリグレッサーは、確実に最強の相手だと。


 これが階層を守る砦、これがフロアボス。


 ボォン――


「……ッ!?」


 すると大きな炎弾が、ヤツの側面を撃ち抜いた。

 その一撃にリグレッサーはバランスを崩し、呻きをあげる。


 そしてヒカリが前に出る。


「援護します!」


 鋭い踏み込み。

 剣閃が、外殻を削る。


「恒一さん、今のうちにその方を!」


「……ありがとう! すぐ戻る!」


 その隙に、俺は倒れていた探索者に呼びかけた。


「立てるか?」


「……む、無理……足が……」


「分かった」


 俺は肩を貸し出口へ進む。

 と同時に、目標へ目を向けた。


 フロアの入口であり、今の俺たちにとっては出口のその扉へ。


 石造りの巨大な扉。

 全開だったその扉。


 しかし、俺はこの光景に目を疑った。


 さっきまで開いていたはずの石扉が――いつの間にか、完全に閉じていたからだ。


「扉が……」


 言葉を失った。

 いや、正確には口に出したくなかった。

 悲惨な現実を受け入れたくないがための、最後の足掻きのようなものだったと思う。


“え……”

“ヤバいやん、誰か助けとか来ないの?”

“協会がこの配信見てたら来るかもだけど……”


「嘘だろ!?」


「おい、開かないぞ!」


 ブルーアーチのでんきとほのーが駆け寄り。

 石扉を叩くが、全くびくともしない。


 そういえば聞いたことがある。

 一定の人数が中に入ることで、戦線離脱ができなくなるフロアボスもいると。


 仮にここがそういうルールなのだとしたら、


「……さすがに運が悪すぎるな」


 くそ!

 こんなこと事前に分かってたら、少なくとも全員でこの場に入ることは防げたかもしれないのに!


『……わっちが戦った時は、こんなこと起こらなかったぞ?』


 彩芽はそう言った。


『ちなみに言っておくが、責任を逃れようとしているわけではないからな?』


 疑っているわけではないが、その饒舌さが異様に信ぴょう性を下げている気がする。


 しかし今はそんなこと言及している場合じゃない。


 今はあのバケモノを倒すことだけを考える!


 俺は周りを見渡す。

 助けを求めてきた探索者パーティ、ブルーアーチ、そしてスリースターズ。

 全員の表情が引き締まる。

 戦う顔ができた探索者の顔だ。


 リグレッサーがゆっくりとこちらを向く。


 しかもいつの間にか腕が再生してる。

 斬られる前の元の状態に。

 傷口すらみられない。


 くそ、どうなってるんだ。


「――ァ……ア……アァァ……」


 声になり損ねたような微かな呼吸音。


 そして、


「アァァァァァァアアアアアアアッ!!」


 人の叫びを無理やり引き伸ばしたような、感情だけが剥き出しになった咆哮。


 広間全体が、震えた。


 その直後だった。


 リグレッサーの長い腕が、不自然な角度で持ち上がる。


「……来る!」


 次の瞬間。


 腕が、高速に振るわれた。


 一本ではない。

 二本でもない。


 まるで数が増えたかのような錯覚を覚えるほど、長い腕が円を描き、乱舞する。


 風圧が走る。

 空気が切り裂かれ、風による衝撃波が飛んできた。


「っ……!」


 俺たちは反射的に飛び退いた。


 だがその飛び退いた場所に、次は物理的に長い腕が振り下ろされる。


 ガン――ッ!


 なんとか冴斬を盾にする。


 そして立て続けに来る風の衝撃波。


 リグレッサーは止まることを知らない機械のように、伸縮自在な腕を振るい続けていた。


「距離を取って!」


 カナデの判断に、誰も異を唱えなかった。


 全員が即座に後退し、円形の広間に間隔を取った陣形が作られる。


 ヤバいな。

 この敵、隙がない。


 フロアボスは、追ってこない。

 だが腕の乱舞を止めることもない。


 振るい続けながらも冷静に、ゆっくりと首を巡らせて次に狩る獲物を選ぶように視線を走らせている。


 魔力の流れ。

 腕の軌道。

 攻撃が止まる間を探す。


 ――だが、ない。


「カナデ、どうする?」


 ルナが呼びかける。


「遠距離で、試す」


 カナデの咄嗟の呟き。

 それは選択肢ではなく、現状、唯一残された手段ともいえるものだった。


「了解!」


 ルナが即座に応じる。


 詠唱。

 他のメンバーも流れるように魔法を発動。


 蒼炎が弧を描いて放たれ、外殻を焼いた。


 続けて青雷。

 別方向から水魔法が叩き込まれる。


 炸裂音。


 外殻が砕け、内側の肉が露出した。


“エグい魔法の応酬”

“容赦なくて草”

“敵さん可哀想”

“なんか肉が飛び散ってキモイ”


 魔法は確かに効いている。

 目に見えて削れている。


 意外と敵は脆いのか?

 このまま魔法で押し切れそうだ。


 だが、次の瞬間――


 崩れ落ちたはずの肉体がゆっくりと動いた。


 音もなく。


 逆再生のように。


 裂けた肉が元に戻り、砕けた外殻が元の位置へ収まっていく。


 まるでさっきの攻撃が、最初から存在しなかったかのように。


 つまり、再生されるのは腕だけじゃない。

 リグレッサーの全身だ。


「……」


 誰も言葉を発せなかった。


 息だけが重く響く。


 あれほどの一斉攻撃。

 それでも何も残らないってのか。


 魔力だけが削られ、体力だけが奪われていく。


 そんな未来が容易に想像出来てしまった。


 希望が目に見えて沈んでいく。


 その時――


『恒一』


 頭の奥で、彩芽の声がした。


 静かで、だが確信に満ちた声音。


『もう忘れたのか?』


 胸の奥で、何かが繋がる。


『冴斬の能力を』


 一階層。

 隠し部屋。

 交わした言葉。


 ――冴斬は、斬るものを選べる。


『一昨日、わっちがお主に伝えたことを』


「はは……っ、はははは……」


 小さな笑いがこみ上げる。


 そうだったな彩芽。

 今の今まで、完全に忘れてたよ。


 もしそれが本当にできるのなら、


 ――この勝負、俺たちの勝ちだな。


 俺は、冴斬を握り直した。

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