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妖刀を拾った中年探索者、女侍の亡霊に死ぬほど鍛えられる〜悪いヤツらを斬って美少女探索者パーティを助けた俺、配信でバズり始める。  作者: 甲賀流


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今後の方針


 ヒカリとの修行を終えた次の日、


 俺はスリースターズの事務所へと足を運んだ。

 先日のようにエレベーターで二階へ上がり、扉の前に立つ。


 だがここからは以前と違い、俺はインターフォンを押さず、ドアノブにスマホを押し当てる。


 ガチャッ――


 すると解錠音がした。


 スマートロックシステム。

 登録してある端末をドアノブに当てることで、施錠・解錠ができる技術。

 昨日、契約のついでに登録してもらったやつだ 


 この時、俺は初めてスリースターズの事務所に入所したんだと自覚が湧いた。


「おはようございます」


 俺がそう声をかけると、奥のテーブルで談笑していた三人が同時にこちらを向いた。


「あ、来た来た!」


 真っ先に反応したのはルナだった。

 椅子から立ち上がり、こちらへ小走りで寄ってくる。


「コッチー、昨日の話聞いたよ〜! ヒカリとの修行、相当ヤバかったらしいじゃん」


 いつも上手くまとめ上げている青い団子髪を揺らしながら、彼女は俺に熱い眼差しを向けてくる。


「ちょ、ちょっとルナ!」


 すかさずヒカリが止めに入る。


「失礼です。コッチーはダメだって言ったじゃないですか」


「はいはい。ヒカリっちは本当マジメなんだから〜」


 ルナは悪びれた様子もなく、にっと笑った。


「でももう正式に所属したんだし、あだ名くらいあってもよくない?」

 

 俺は一瞬考えたのち、口に出す。


「……コッチーって、俺のことか?」


「そうそう!」


「いつの間に決まったんだ、それ」


「昨日!」


 即答だった。

 

 ヒカリが小さくため息をつく。


「三枝さんは探索者として、私たちよりもずっと大先輩なんですから!」


「そりゃコッチーは、アタシたちよりもずっと歳は離れてるオジサンだけどさ」


 俺よりいくつも若い女性たちが、無意識に言葉の暴力を投げてくる。

 

「でもコッチーはもう仲間でしょ?」


「仲間でも、礼儀は大事です」


 ルナの胸が熱くなるような言葉。

 そしてヒカリのブレない真面目さ。

 そんな二人のやり取りを眺めながら、俺は思わず苦笑した。


「まぁ……呼び方は好きにしていいよ」


 俺としても気を使われるより、親しみを込めて呼んでくれる方が嬉しいまであるからな。


「ほら〜!」


 ルナが勝ち誇ったように言う。


 ヒカリは少しだけ困った顔をしてから、俺に向き直った。


「……で、では、私は恒一さんとお呼びしても?」


「あぁ、なんとでも呼んでくれ」


「恒一」


 そのやり取りを、少し離れた場所から眺めている人物が一人いた。

 

 カナデだ。


 いつものように ルナとヒカリの後ろに隠れ、顔だけを覗かせている。

 視線は鋭いが、敵意はない。ただ――観察だ。


「……」


 そして、ぽつりと呟く。


「……カナデは、そう呼ぶ」


 カナデはそれ以上何も言わず、視線だけしばらく俺に向け続けていた。


「おう。よろしくな」


 まだ彼女には警戒されているようだけど、今日は初めて向こうから名前を呼んでくれた。


 カナデもこれから一緒に仕事をしていく仲だ。

 少しずつ距離を縮められればいいな。



 それから立ち話もそろそろと、俺も彼女たちと同じようにテーブルへ腰をかけた。

 

「そういえば」


 ルナが、ふと思い出したように口を開く。


「コッチーってさ、これからどうしたいの?」


「どう、って?」


「ほら最前線行きたいとかさ、配信で一気に目立ちたいとか、S級狙うぞー! みたいなの」


 冗談めかした口調だが、質問そのものは核心を突いていた。


 俺は少し考えてから、正直に答える。


「……考えてなかったな。俺もまだ、スリースターズに入ったばかりだしさ」


 漠然と強くなりたいとは思っていた。

 だがそれが探索者として最前線に行きたいのか、配信で人気を得たいのか、深く考えていなかったことに気づく。


 そりゃどっちも果たせば嬉しいけど。


 そう考えを巡らせながら、俺はふと三人に視線を向ける。


 スリースターズ。

 今や同じ事務所の同僚であり仲間だ。


「しばらくは、ここで君らと働きながら考えるよ」


 今すぐに自分の道を決めなくてもいい。

 これから時間はたくさんあるんだから。


「……それが、いいと思います」


 ヒカリは、その言葉を聞いて小さく頷いた。


「コッチー、やっぱり堅実だね〜」


 ルナは肩をすくめる。


「……合理的」


 カナデは、短く一言。


 彼女たちらしい反応に俺は、思わず口元が緩む。

 なんだか結成当初の〈アケボノ〉と空気感が似ていたような気がしたから。


 そんな時だった。


「お、全員お揃いで」


 奥のドアが開き、神崎社長が顔を出す。


 彼女の一段大人の雰囲気が、この場の空気を談笑から仕事へと切り替えさせた。


「今日は今後の方針について、話そうと思います」


 社長はそう前置きしながら、俺たちのテーブルに椅子を寄せ座った。


 ヒカリ、ルナ、カナデは、なぜか揃って視線を俺に向けている。


「単刀直入に言いますが――」

 

 続いて神崎社長もこちらに視線を。


「三枝さん、君の個人アカウントを、本格的に育てたいと思います」


 そうハッキリと言い切った。


「……配信、ということですか?」


「そうです」


 即答だった。


「それは収入源の確保ということでしょうか?」


 俺はストレートに聞いた。

 事務所として決まった給与を渡すということは、それなりに稼いでもらわないといけない。


 これはどの事務所も同じこと。

 入所に一定のチャンネル登録者を条件にしている事務所だってあるくらい。


 だからそういう話がいつかされることも分かっていたし、特に異論はない。


「もちろんそれも必要なことですが……今回は別に理由があります」


「別?」


 すると社長は視線を三人へ向けた。


「実はこの提案を持ってきたのは、誰でもない――スリースターズの三人なんですよ」


 ルナが、にっと笑う。


「だってさ〜」


 軽い口調。


「このままだと、コッチーが謎の強い人で終わっちゃうでしょ?」


 ヒカリが苦笑しつつも、真面目に続ける。


「私たち、話し合ったんです」


 視線が、俺に向く。


「恒一さんの実力は、本物です。だから、ちゃんと見てもらうべきだって」


 カナデが、ぽつりと補足する。


「……隠す理由がない」


「そういうことです、三枝さん」


 神崎社長は三人の様子を見て、頷いた。


「事務所としても、炎上狙いはしない。煽りもしない。やることはたった一つ」


 社長はハッキリと言葉を紡ぐ。


「実力と人柄が伝わる形での配信」


 スリースターズと社長の視線が痛いくらい、俺に突き刺さる。


 少し考え込んだ。


「……俺が前に出る?」


 今までずっと目立たない位置で剣を振ってきた。


 それは俺がそうしたいからじゃない。

 目立たない人間だからだ。


 特に見た目が良いわけでもなく、


 明るくてみんなを元気にしてやれるわけでもない。


 実力だって配信が見られるほどじゃない。


 配信で人気が出るのは、


 ユーモアがあったり友達が多かったりという、学校とかでいう所謂一軍的な存在だ。


 俺が配信で人気を出すには、足りないものが圧倒的に多すぎる。


「いいに決まってるでしょ」


 俺の負の思考を打ち破ったのは、ルナの明るい声だった。

 迷いが一切ない。


「だってコッチー、強いんだもん。それって、前に出る理由として十分だと思うけど?」


「恒一さんはそれだけじゃないですよ」


 ヒカリが続ける。


「あなたは信頼できます」


 カナデも、静かに頷いた。


「……安定感がある」


 三人の視線が、まっすぐこちらに向く。


 俺は、思わず苦笑した。


「……参ったな」


 彼女たちからの評価がそんなに高いとは、正直思っていなかった。


「じゃあ、やってみようかな」


「やったぁ――!」

「よかった……よかったです!」


 俺の返答に事務所内は明るい声が飛び交い、空気がふんわりと柔らかくなった気がした。


「ではさっそく配信の場所と任務、みんなで考えましょうか」


「はーい、神崎しゃちょー!」

「しゃちょーって語尾を伸ばさない、ルナ!」

「思い切って三十九階層行けば、恒一、目立つ」


 カナデが恐ろしいことを口走っていた気がしたが、俺はそれを聞かなかったことにして、会話に加わるのだった。

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