表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖刀を拾った中年探索者、女侍の亡霊に死ぬほど鍛えられる〜悪いヤツらを斬って美少女探索者パーティを助けた俺、配信でバズり始める。  作者: 甲賀流


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/44

ヒカリの修行


 

 訓練所の扉を開けた瞬間、私は無意識に背筋を伸ばしていた。


 今日は、三枝恒一さんとの修行の日。


 スリースターズの事務所が予約してくれた、完全貸し切りの訓練所。

 いつもならルナやカナデもいるけれど、今日は来ていない。


 ――集中するために。


「おはようございます、三枝さん」


 すでに中にいた恒一さんに声をかける。


 ……その瞬間、違和感に気づいた。


 立ってはいる。

 装備も問題ない。

 でも――


 すでに疲れきっている?


 明らかに顔色が悪い。

 それに立っている足も、どこかおぼつかない。


「大丈夫、ですか?」


 思わず、そう聞いていた。


「ああ……。全然、平気だよ」


 そう答える声は穏やかだったけれど、なぜか息も上がっており、どう見ても平気ではなさそう。


「もし……体調が悪いのなら、修行は別日でも……私は構いませんよ?」


「いや、大丈夫。大丈夫……だから」


 そう言って、三枝さんは訓練用の木刀を構えた。


「……で、ではお願い、します」


 本人がやろうという中、受ける側の私がやらないわけにいかない。


 私は気持ちを切り替え、壁際の竹刀を手に取る。


 今日は基礎からの打ち合い。

 まずはお互いの力を把握する日。


 教わる側だけど、遠慮するつもりはない。

 本気でぶつかると、最初から決めていた。


 距離を取る。


 二歩半。


「……じゃあ、いつでも来ていいよ」


 正対した瞬間、確信する。


 この人……やっぱり強い。


 構えに無駄がない。

 重心が低く、ぶれない。


 派手さはないが、これといった隙もない。


「はい。お願いします!」


 まずは私から!


 踏み込む。


 竹刀が重なる。


 ――カン。


 軽い音。


 だけど、その瞬間に分かる。


 受け止められた。

 しかも、余裕をもって。


 力負けじゃない。

 判断が早い。


 私はもう一歩、踏み込む。


 正しい打ち。

 教科書通りの一撃。

 この振りで、私はB級にまでのし上がった。


 なのに、三枝さんは簡単に受け止める。


 正直、少しは自信があった。

 三枝さんの剣に届くとまではいかないけど、ある程度やり合えるくらいには。

 

 だけど、打ち合って分かった。

 三枝さんの剣術は、私より遥かに高みだ。


 そして私はふと気づく。


 三枝さんの剣の型……。

 これは有名なS級探索者、冴島郁人さえじまいくとの型にそっくりだ。

 

 私が動画で何度も研究した、あの剣。


 丁寧でクセがなくて、その分誰よりも基礎に忠実。

 そして攻める時は一切の躊躇がない。


 ――私がずっと憧れてきた剣だ。


 激しい打ち合いで、訓練所には竹刀がぶつかる音が何度も響く。


 私が攻めると、彼は逃げずに受け止め、


 私が守ると、間合いに入ってくる。


 判断が……追いつかない。


 型は同じ。

 動きも、近い。


 なのに――


 次が、読めない。


 剣が交わるたび、焦りが積もっていく。


 正しい剣を振っているはずなのに、正しいはずの判断が、ことごとく遅れる。


「……!」


 一瞬の迷い。


 次は攻める?

 それとも守る?


 その思考が浮かんだ刹那――


 距離が、消えた。


 竹刀が中心を制し、私の剣は完全に押さえ込まれる。


 喉元に冷たい感触。


 ――止まっている。


 当てていない。

 でも、逃げ場はない。


「……」


 音が消える。


 息が、うまく吸えない。


 ――負けた。


 それも、はっきりと。


「……三枝さん、すごいです」


 気づいたら、そう口にしていた。


「同じ剣なのに……全然、違う」


 悔しい。

 でも、不思議と納得してしまっている自分がいた。


 どうして?

 

 どうすれば、こんな剣に辿り着ける?


 一体どれほど長い年月、剣を振れば……これだけ洗練された技になるの?


 私は、竹刀を強く握りしめる。


 ――知りたい。


 この人が、何をしてきたのか。


 何を捨てて、何を選んで、ここまで来たのかを。



 * * *



 ――ヒカリとの修行の日、三日前。


 俺は一階層に立っていた。


 冴斬の魔力が濃く満ちる、始まりの場所。

 空気は重く、呼吸をするだけで肺の奥がじんと痛む。


「……それなりに、覚悟はできておるようだの」


 正面には彩芽。

 ダンジョンには全くマッチしない、しかし彼女の象徴でもある和装を身にまとい、俺を静かに見据えている。


「ああ」


 俺は即答した。


「教えるからには、中途半端は嫌だからな」


 今まで守りの姿勢を保ってきた。

 いつの間にか身の丈に合った戦いをしてきた。

 それでいいと、本気でそう思ってきた。


 彩芽と出会って、冴斬と出会って、


 ようやく探索者として駆け上がる道を選ぶことができたが、


 俺の肉体は、まだ守りの型が最適だと思っている。


 このままじゃ、強くなりたいというヒカリの修行なんて見てやれないんだ。


「その覚悟、しかと受け取った」


 彩芽はふっと口元を緩めた。


 次の瞬間。


 彼女の手に、刀が顕れた。


 冴斬によく似た形。

 だが色は鈍く、刃から放たれる気配は――凶悪だった。


 初めて出会った時に持っていた刀とは違うやつだ。

 彩芽は何本も刀を持っているのか?


「本気でいくぞ」


 言葉が終わるより早く、彩芽が地を踏み込む。


 俺は木刀もとい冴斬を構えた。


 刃が重なるその瞬間、世界が揺れた。


「……っ!?」


 いや、違う。

 打ち負けたのだ。

 冴斬が弾かれ、バランスを失う。


「弱いな」


 気づいた時には、間合いは完全に支配されていた。


 彩芽はもう次の攻撃に転じ始めている。


 次の一撃、振り抜かれれば、


 ――確実に死ぬ。


 本能が、はっきりそう告げた。


 シュッ――


 刃が空を切る音。


 それが何度か響き、


 高速で俺の身体が斬られる。

 

 腕が、胴が、首に一閃が走った。


 だが。


 刃は――通らなかった。


「……?」

 

 痛みもない。

 血も出てないからだ。


 一瞬の静止。


 しかしその直後だった。


「――っっ!!?」


 遅れてきた激痛が、全身を引き裂いた。


「あぁあああ……っ!!」


 腕が、引きちぎれる感覚。

 骨が砕け、肉が裂ける錯覚。


 血は出ていない。

 なのに、脳が叫ぶ。


 ――出ている。

 ――溢れている。

 ――死ぬ。


「がぁああああああっ!!」


 地面に崩れ落ちる。


 呼吸ができない。

 視界が白く染まる。


 何が起こったのか理解ができない。


 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!!!!


 このままじゃ、間違いなく死ぬ!


「これがお主の修行」


 彩芽は、俺の頭上で笑っていた。


「殺し合いだ」


 死ぬ以上の激痛が徐々にひいてきた。

 俺はようやくの思いで声を出す。


「……っ、殺……し……?」


「そうだ。わっちのこの刀も妖刀【冴斬】、斬る物を相手の〈心〉と指定すれば、肉体は斬らずに痛覚だけを刺激することができる」


 彼女は淡々と言う。


「つまり死ぬほど痛くても――死ねぬということだ」


「……うそ、だろ」


 この三日間、何度も死ぬ痛みを味わい続けなきゃいけないなんて、悪趣味にも程がある。


 そんなの、死ぬよりも辛いじゃないか。


 だが。


 不思議と逃げようとは思わなかった。


「立て」


 容赦はない。


「敵は、待ってくれぬぞ」


 俺は歯を食いしばり、立ち上がる。


「あぁ、分かってるよ」


 そして地獄の修行が再開された。



 彩芽の圧倒的な技術に俺は為す術なく、何度だって斬られ続けた。


 激痛。

 失神。

 恐怖。


 それでも俺は刀を握った。


「判断が遅い」


「生きる気が足りぬ」


 三日間。


 眠った記憶は、ほとんどない。


 斬られ続けた。

 何度も、何度も。


 だが――


 少しずつそれは変わっていく。


 最初は痛みで思考が止まった。


 次は、痛みを予測できるようになった。


 そして三日目。


 ――痛みが、判断材料になった。


(来る)


 踏み込み。

 間合い。

 殺気。


 避ける。

 受ける。


 それでも間に合わないなら――


(踏み込む)


「……ほう」


 彩芽の声が、わずかに弾む。


「ようやく、斬る覚悟ができたか」


 そうだ。


 守るだけじゃ生き残れない。

 攻めることで本当に自分を守れるんだと、彩芽に何度も斬られてよく分かった。


 ――殺しの剣。


 今まで諦めてきた選択肢。


 それが、俺の〈剣技最適化〉に刻まれていく。


 

 * * *


 

 そして今。


 目の前には、竹刀を構えたヒカリがいる。


 ――繋がった。


 あの三日間の地獄が、ここに。


 半拍の遅れ。


 ヒカリの剣の迷いが見える。


 その瞬間。


 俺は、躊躇しなかった。


 踏み込む。

 中心を取る。


 竹刀の先が、喉元で止まる。


 ぴたり、と。


 完全な一本。


 何度もの死を経験して、俺は強くなった。

 胸の奥で、はっきり実感する。


 ヒカリが、息を吐いた。


「……三枝さん、すごいです」


 悔しさと納得が混じった、真っ直ぐな声。


「ありがとうございました」


 深い礼。


「君は」


 俺は、少し笑った。


「もっと強くなるよ」


 俺がたった三日で変われたように。


 ヒカリはまだ若い。

 伸び代もある。

 そしてなにより先の一戦で、強くなろうという気概が十分に感じられた。


 こんないき遅れた中年探索者の俺が、そんな彼女の成長に関わってもいいのなら、いくらでも……なんだって協力しよう。

 そう思った。


「……ありがとう、ございます」

 

 ヒカリはホッとしたように微笑み、もう一度、深く頭を下げた。


 そして竹刀を戻してひと息。

 そんな時ヒカリが思い出したように言った。


「あ、そういえば」


「ん?」


「明日、神崎社長が事務所に来てほしいって仰ってましたよ」


「……あ、うん。分かった」


 そりゃそうか。

 俺の聞いている予定はここまでだ。

 事務所に入ったからには月々、最低限の給与が保証されている。

 しっかりとその分は働かせてもらわないとな。

 

「きっと、悪い話じゃないと思います」


 なぜかヒカリは嬉しそうだ。


「何か知っているのか?」


「……へ? な、なにも知らないですよ? 私が知ってたらおかしいじゃないですか!!」


 急に語気が強くなった。

 目も見開き、左右に踊らせる。


「そ、そうですか」


 本人が知らないというのなら仕方ない。

 明日直接聞けばいいだけだしな。


 俺はヒカリと訓練所を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ